悪役令嬢ですが、前世で乙女ゲームは未プレイなもので!

席ゆづる

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▼そばにいたいよ

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目覚めた時には自室のベッドにアレクシスと横たわっていて、夢だったのかと一瞬思うほどだったが、ドアを開けると家中上に下にの大わらわで私たちの捜索をしており、戻ってこないことを心配して家人に伝えた御者と支度をしてくれた使用人が大泣きをしながら、こんなことならもう家から出しません!と抱きついてきた。

悪役令嬢らしく自分のせいなのにも関わらず、こんなことぐらいでとばかりに「私の従者なら毅然として。」と袖にしたが、なぜか顔を輝かせて赤面し、礼をして報告をしに行ってしまった。


「アレクシス、アレク、起きられる?」


部屋に戻り、アレクシスを揺するとお人形のような作りの顔に色がさす。


「ここは…ディオン家ではない。アリシアちゃんのお部屋?」

「そうよ、ディオン家のこと、ミッチェルのこと、覚えている?」


こくりと頷き僅かに引きつった表情でこちらをアレクシスが見上げてくる。


「ミッチェルはたすけてって言ってたわ。何を何からかは分からないけれど、聞いちゃったもの。」


どうするにしてもパズルのピースが少な過ぎる。近いうちにもう一度ミッチェルの元へ行く必要があるだろう。

軽くこれからの事を思案していると、アレクシスがドレスを引っ張った。顔を覗くとギョッとする事に、青い一対の宝石に涙の膜が張っている。


「行かないで、アリシアちゃん。」


グイグイ引っ張る力が年々増していく。泣く子となんとかには勝てないのだ。どうにも答えられずにいると、急に手を離して、ベッドからおりると跪き恭しく手を取って口付けた。


「お願いだから、行かないで。」


僕を、ひとりにしないで。と呟きながら頭を手の甲につける。

サリサリとした色素の薄い髪があたる。形の良い頭を垂れて、スリスリと擦り付けてくる。


「お願い…」『あねさまっ』


ふと、声に被さるように、昔居た下僕が同じような事を言っていたことを思い出した。

私は誰も置いていかないし、誰とも一緒に行かない。そういうルートしかない役どころなのだ。

そんな私に、弟たち(・・・)は「行かないで」と声を上げる。


「分かったと言えば、満足なのね。」


ビクンっと肩を跳ねさせて、綺麗なおもてをあげる。


「言葉だけなら幾らでもあげる。でもそんなもので私を縛れはしないわ。」


堂々と嘘をつきます宣言をした私に、グッと息を飲み込んだアレクシスは、眉をキリリと引き締めた。


「なら、追いかける。」

「アリシアちゃんのいる所だったらどこにでも行く。」

「僕がアリシアちゃんの傍に、いる。」


それならいいでしょ、という声にため息で了承すると、素早く立ち上がって抱きしめてきた。1年差がある身長差はまだまだ抜かれる様子がないので、抱きしめると言うより、抱きつくと言った様相だが、思い切りされるとそろそろ呼吸が苦しい。


ぎゅうぎゅうと抱きつく腕にタップして解放してもらい、今後の計画にアレクシスも加わってもらうか。と話しかけようとすると、


「アリシアちゃん、街にはいつ出掛けようか?」


約束、覚えておいでですよね?とばかりにアレクシスが先手を打ってきた。


「いや、ミッチェルが先かな。」


なんとなく、急を要する感じがするので、優先させてあげたい。が、


「アリシアちゃん、気付いてないかもしれないけど、このまままたディオン家なんて、すぐ行けると思うの?」

「…」


確かに、今の今、屋敷中がひっくり返っての大騒動になったばかりだ。とても暫くは、ディオン家までの馬車は出して貰えないだろう。


「まずは家からの信用の回復!僕と街まで何度かデートして、父様母様使用人たちの信頼を勝ち取ってからじゃないと、お許しなんて出ないよ!」


勿論、徒歩でなんて行こうとしたら家からも絶対出して貰えないよ!とは、なるほどその通りであると納得しかできない。


「…じゃあ、週末街まで遊びに行こうか。」

「わーい!僕アリシアちゃんと行きたい店があったんだぁ!」


アリシアちゃんはどこ行きたい?とさりげなくこちらの希望も聞いてくるなんてワザをどこで身につけてくるのだろうか。

さて、どうやって週末街に行けるように両親を口説き落とそうか。泣くか、喚くか、どうしようか。楽しそうなアレクシスを見ながら考える。


しかしその心配はあまり必要ではなかったようだ。

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