悪役令嬢ですが、前世で乙女ゲームは未プレイなもので!

席ゆづる

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▼▼ストロベリー オンザ ショートケーキ

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カショカショカショ、とリズミカルに音を立てるのはアレクシスだ。

白の液体を、モッタリとした空気を含んだ状態にすることに至っては、この時代彼の右に出るものはいない。

なぜなら、この世界ではまだバタークリームが主流で、生クリームという運命がないからだ。

それを持ち込んだ張本人である私、をもあっという間に追い抜いてしまったが、私には私でやらなくてはいけない事があるので、問題ない。


「アリシアちゃん、こんなもんかな?」


「ええ、いいわ。ありがとうアレクシス。」


アレクシスが泡立てていたのは、仕上げのデコレーションに使う生クリームだ。

土台はできているので、後は飾っていくだけの楽しい作業なのだが、アレクシスにはとある事情から手を出してもらうわけにはいかないため、生クリーム作りを任せたのだ。


黄桃、白桃、メロン、みかん…フレッシュな果物を丸く焼いたスポンジにシロップと生クリームを塗ったものに並べていく。そして生クリームで蓋をし、またスポンジを重ねる作業を三回。

ある程度の高さになった白い巨塔に、飾り切りを施した苺をふんだんに乗せ、側面と合わせて生クリームで飾れば、アリシアにとっては見慣れた「いちごのショートケーキ」の完成である。

しかし、せっかく完成したというのにどこからも歓声が湧かない。どころか、


「アリシアちゃん、本当に『これ』を食べるの?」


不気味というよりは、キョトンと言った様相である。

この世界では、果物を食べるという風習がない。アレクシスはそういう風習だと知る前にアリシアによって何度か口にさせられてきたけれど、それだって火が通り原型がない状態であった。

この世界の果物は、須く魔力が強く宿っている。故に、魔力回復薬として、ポーションなどに製品加工されてから口にするもので、嗜好として口にするものではないのだ。

前世での漢方薬ポジションかなと理解した。

しかし、眠りから覚めたアリシアが庭先を散歩していたときに発見したこのイチゴは、とても漢方行きとは思えぬほど瑞々しく、香りは爽やかで、甘味も漂う風情だったのだ。

思わずショートケーキが食べたくなってしまってもおかしくない。


「勢いで大きなものを作ってしまったわね。1人では食べきれないわ。」

「アリシアちゃん?!ぼくも食べるよ!」

「無理する必要ないわ、3日くらいかければ…」

「腐るからね。一緒に食べようね。」


コポコポとアリシア自ら淹れたお茶で、2人っきりのティータイムが始まる。


「アリシアちゃん、学校はどう?」

「…差別ではないのだけれど、区別がつくようになったわ。」


クリームとイチゴを同時に口に運んだ中身を咀嚼し切ったタイミングで返答をする。

ぽわりと魔力が回復するのを感じる。どうやら、甘みが強ければ強いほど、この世界の果物は回復能力が高いらしく、乾燥させたりと加工するのはそのためかもしれない。


「区別?」

「私の人生に関わる人物と、それ以外。」


アレクシスは紅茶を口に含んで先を促した。


「入学式、あれで私の人生のスイッチが入ってしまったの。もう戻れないメインストーリーが。」

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