悪役令嬢ですが、前世で乙女ゲームは未プレイなもので!

席ゆづる

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▼▼期待してるおとこのこ

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時は少し巻き戻り、衣装部屋からアレクシスが出てきたところから始めよう。


ノロノロとした足取りで衣装部屋から出てきたアレクシスには呆れ果ててため息しか出なかった。

なんということだろう。


「アレクシス、あなた女装が似合いすぎよ。」


そうなのだ。学園に入り込むには制服が必須だが、我が家にはまだ(…)女生徒用の制服しかない。

だから、アレクシスが着るとすればそれしかないのだが、それにしたって似合いすぎなのである。髪はもともとボブくらいの長さがあったから、アレンジしてしまえば全く違和感なく女子なのである。遺憾である。


「男子の女装は似合わなくて始めて愛しいものなのよ!アレクシスはそこをわかってないわ。」


「僕だって好きで似合ってるわけじゃないし、自分が気持ち悪くて仕方ないよ!アリシアちゃんじゃなかったらぶん殴ってるからね?!」


やはり、思春期のようだ。あのアレクシスが言葉だけとはいえぶん殴るとは。世も末である。

真っ赤になってキューティクルがいつもより増したブロンドをフルフル振っても、ただ可愛いだけであることを知らないのだ。


「そんな様子で一日持つのかしら。あ、そうだわ、今日一日、あなたは従姉妹のアンナになりなさい。いいわね。」


こういう悪巧みは本当にwktkが止まらないぜ~と性来の気質が喜んでいる気がする。許せ、アレクシス。今日のケーキはきっと美味しいはずだ。


粛々とアレクシスことアンナを伴って玄関ホールを抜けて門外に立つと、そこには薄ピンクの髪に瞳を輝かせ、スーツを着こなした美青年が腕時計を合わせていた。


そう。


大精霊、ミッチェル・ディオンが立っていたのである。


こちらに気付いて微笑み手を振るミッチェルを視認した瞬間、アンナの堪忍袋の緒が火を噴いたのが見えた。

見た目は令嬢なのに、態度が全然貴族のお嬢様じゃない。

キレやすい若者さながらである。カルシウムを取らせようと決意した。


「なぜ!お前が!今までどこにいた!すぐにアリシアちゃんとの契約を解除しろ!そして速やかに消えろ!」


やってはいけないハンドサインを構えそうになっているアンナに、彼女が冷静になれるように前へ出る。


「ごきげんよう、ミッチェル。昨日ぶりね。」


「ごきげんよう、アリシア。やっぱり君にはそう呼んでもらいたいものだな。」


「ダメよ。ケジメはつけないと。示しがつかないわ。」


「そういう真面目なところも素敵だよ。」


「ありがとう、私もそう思ってるわ。」


あまりにもミッチェルとアリシアが普通に会話していることにビックリしたのか、アンナは先程の勢いをなくしている。


「改めて挨拶させていただくよ。僕はミッチェル・ディオン。今は教師として、アリシア嬢の担任をしつつ4年間サポートをさせてもらう予定だよ。」


「目覚めてからすぐミッチェルが会いに来てくれたんだけどね、ちょこちょこっと事実を弄って、前は弟として軟禁されていたディオン家で、今は放蕩息子という設定で弟のエイベル様に家を継がせようとしていることになっているわ。もともといない扱いになっていた弟だったし、上手いこと大精霊さまがしたみたい。」


「いやぁ、本当に万々歳だよね。アリシアのお陰様!4年間と言わず、エイベルが死ぬまでサポートするよ!」


「まぁ、それまで私の魔力吸わなきゃだしね。」


「ほんと、アリシア嬢には頭が上がらない!」


軽口の応酬がとても軽快で楽しそうなことに、またアンナは怒髪天をつきそうになっていたが、黙っていた。

自分にできたことなど、あの6年間で、何も無かったのだから。


「アンナ?どうしたの?」


「そういえばアレクシスくんはなんでまたそんな格好をしているの?」


自分より大人の男性、声も身長も体躯も大人の男性に覗き込まれて手が震えた。

制服の裾をギュッと握りしめる。


「今日、アンナは私と一緒にいてくれるのよ、とっても嬉しいわ。」


その為の魔法といったところかしら?と呟いて、黒曜石の着いた小さな髪留めをアンナの髪に挿した。


「さあ、私の幸せな魔法使いさん。可愛い天使に会いに行きましょう。」

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