現代詩集 電脳

lil-pesoa

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印象に残っている女性三人 ②

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軽バンに乗って配送の仕事をしていた時の事だ。
退屈な心持ちで信号待ちをしていると、前方にゴミ収集車が停まっているが見えた。

その脇には次々と車にゴミ袋を放り込む作業着姿の若い女性がいた。髪色はアッシュ系の金髪で、形はショートボブだったと思う。

急いでいたのか、女性が全部のゴミ袋を放り込み終わらないうちにゴミ収集車はゆっくりと走り出してしまい、彼女は置いて行かれないよう後を追う形で全てのゴミ袋を投げ入れた後走っていった。

僕も信号が変わったのでその様子をチラチラと見ながらアクセルを踏み始めたところ、奥の歩道に幼稚園児達とその先生らしき人が立っているのが見えた。園児達の中にはゴミ収集車を指差したり、何やら叫んだりして興奮している様子の子もいれば、先生の手を握ったまま後ろに隠れている子も居た。そうして子供達の前を、車を追いかけて走るその金髪の女性が通過する時、園児達は皆女性に向かって目一杯に手を振って、女性もまた走りながら子供達に小さく手を振りかえしていた。僕は終始その女性の後ろ姿しか見ることができなかったが、手を振るときの彼女の優しい微笑みが容易に想像できた。
まさにヒーローだった。

僕はその一瞬だけの出来事を見届けた後アクセルを踏み込んで配送先へ向かったが、その時の様子は配送の仕事をやめて随分時が経った今でも鮮明に思い出せる。それほど良い光景だった。だがその美しい光景は、この世界で多分僕しか覚えていない。ゴミ収集の女性も、手を振った園児達すらも、その一瞬の自分達の美しさに気がつかなかっただろうし、ただの日常と言ってしまえばそれまでの姿だったのだろうが、僕だけはその時見た事をこの先も忘れる事はないだろう。
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