ひとりぼっちの王様とわたし

日室千種・ちぐ

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2話目

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 内乱は終わり、落ち着きを取り戻したものの、王都も国も荒れ放題でした。
 若いナラカ王の親代わりのような三人の大臣が、言いました。
 王様のつよさは、よくよく国中に知れ渡りました。
 次は賢い王となり、国を豊かにしてください。
 さらに正しき王となり、国を平和に治めてください。
 そして慈愛ある王となり、国を愛してください。
 だからナラカ王は、その通りにしました。

 森を拓き岩を砕き川を治め、民が一年中お腹いっぱい食べられるだけの恵みを得ました。
 法をつくってこれに従い、悪を懲らしめ不正を正し、人々が安心して暮らせるようにしました。
 国は豊かに、平和になりました。
 国の民は皆、自分たちの育った土地で安心して暮らし、風そよぐ黄金の原に沈む夕陽を、明日を夢見ながら眺められるようになったのです。
 だれもがナラカ王の偉業に自ずと頭を垂れました。

 けれど、ひとつだけ、ナラカ王が思うようにできないことがありました。
 ナラカ王には、国を愛するということが、わからないのです。
 ナラカ王は王様という与えられた役割を果たしているだけでした。国を良くするのは、王様の役割だから。かつて剣をとった時のような湧き起こる熱い気持ちなど、今はありません。
 ナラカ王は、民の前に立つ時も、にこりともしませんでした。
 どれだけ素晴らしい政治をしても、ナラカ王はこわいお顔ばかりで笑うことのない冷たい方だ、と皆が囁くようになりました。


 そこで大臣たちは言いました。
 王様には、愛を知ることが必要です。
 王様のためにも、ふさわしいお后様を迎えましょう。
 妻を持ち、子を持てば、愛情を知ることができるでしょう。
 そうすれば、国を愛することができるでしょう。

 ナラカ王は首を傾げました。
 ナラカ王には父も母もいなかったので、親になるということがわかりません。子供は力がなく弱いから、好きではありません。妻や子に対する愛情というものも、よくわかりません。
 けれどそれで困ったことはありません。寂しさを感じたことも、ありません。
 それに、国を愛していなくとも、国が良くなっているならよいように思います。
 何が問題なのか、ナラカ王には分かりませんでした。



 お城の奥、王様の家族が住むはずの場所に、ナラカ王はひとりきりで暮らしています。
 疲れた時や元気が出ない時、ナラカ王はベッドの上に転がるぬいぐるみを揉んだり撫でたりして過ごします。
 ふわふわで、ふかふかで、ちょっと埃っぽいけど馴染みのあるいい匂い。
 この国で一番ありふれた、白い子兎の形を模したぬいぐるみです。
 王様の部屋にあるけれど、特段高貴なぬいぐるみではありません。国いちばんのぬいぐるみ師が縫ったわけではないでしょうし、目が宝石なわけでもありません。ところどころ綻びがあるし、落ちない黒ずみもあります。
 でもこのぬいぐるみは、特別なのです。
 国のすべては、王様のもののようで国のものです。人も土地も宝物も、王様が毎日使うベッドも服も、ペンとインク、そして愛用の剣でさえ。
 でもこのぬいぐるみだけは、ナラカ王が幼い頃に友人から譲られた、ナラカ王だけのものなのです。
 
 ぬいぐるみは、ただそこにいるだけ。
 それが、例えようもなく大切なことでした。
 ひたすらぬいぐるみの手触りを感じていると、余計なことを考えずに眠れます。ナラカ王はそのおかげで気力と体力をなんとか回復させ、楽しみがなく終わりもない王様としての激務の日々を過ごすことができていたのです。


 ところが、そのぬいぐるみが、ある日突然消えてしまいました。
 ナラカ王は、自分でも驚くほどの衝撃を受けました。
 お城の管理を任されている侍女たちと近衛兵たちは、真っ青になってぬいぐるみを探しました。
 けれど、だれも何も知らず、まるで神様がいたずらで消してしまったかのようでした。

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