ひとりぼっちの王様とわたし

日室千種・ちぐ

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4話目

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 ナラカ王は、暗い部屋のベッドに転がり、今夜も眠れないまま虚空を眺めていました。
 発言もせずに座っていただけですが、すべてを見聞きして理解もしています。
 ぬいぐるみのことだけでなく、三人の大臣のことが、ぐるぐると頭の中で渦巻いていました。
 ナラカ王は、大臣達と共に、国を良くしてきたはずでした。彼らの語る理想が、ナラカ王の進む道を決めてきました。
 けれど彼らは裏切った。そして罪を犯した者は、裁かれる。確かに、王様を裏切れば、法の上でも死罪です。法にもとづく正しい裁きです。悩む必要ははないはずでした。
 国に人は数多くいます。大臣として国を良くするという役割を果たさなくなった者が去れば、誰かが代わりにその役に就くでしょう。それで、何も問題はないはずなのです。
 ナラカ王の大事なぬいぐるみが失われた時、代わりの何かをあてがえばよいと、彼らも言っていたのですから。

 けれど、ナラカ王の心は暗いままです。
 ずっと眠れていない頭は、うまく働いてくれません。
 心が、真冬の沼の底のようなどろりと冷たい場所に、寂しく沈んでいくようでした。
 人々が噂するように、本当に冷たく凍りつきそうでした。
 やがて、ナラカ王の体も重たくなり、息をするのも苦しくなりました。

 このまま息を忘れて世を去ってもいいと目を瞑った時、思い浮かんだのは、ぬいぐるみをくれた友人でした。
 お互いにひとりぼっちで、ナラカよりもずっと弱くて泣いてばかりだった小さな友人は、どこかの家に貰われていくときに、大切にしていたぬいぐるみをナラカに押し付けたのです。

「これから私は幸せになるから、この子はあげる」

 自分だって不安でいっぱいだったはずなのに、残していくナラカを案じた優しい友人でした。
 あの友人は、今どうしているのか。
 あの子を、いつだって笑わせてあげたいと思ったものでした。
 はっと、ナラカ王は飛び起きました。
 なぜ、忘れていたのでしょう。王様になってからは身を削るような忙しい日々でしたが、だからといって、大切な思いを忘れるなんて。
 王様は確かに与えられた役割でしかありませんが、なぜ王様になったのかといえば、あの友人の笑顔のためといえるでしょう。笑わせてあげたいと、そのためにがむしゃらにやっているうちに、王様になっていたのです。
 だからこそ、友人に繋がるぬいぐるみが、ナラカ王をずっと癒して励ましてくれたのです。

 自分の心が見えてくると、世界が、ぐるりと景色を変えました。
 ぬいぐるみは、王様の特別でした。けれど、友人に繋がるならば、ぬいぐるみでない別の品であっても王様を癒やしたかもしれません。大切なのは、友人との繋がりだったのです。けれどそれは、他の人の目には見えません。ぬいぐるみは、他の人から見れば、ただのぬいぐるみです。
 ナラカ王は、国を愛せない王様です。民の前でにこりともしない王様です。けれど国のために精一杯働いて来たと胸を張れます。友人を笑顔にするために王様になったように、国が良くなり人々が笑顔になることを、嬉しいと思います。けれど他の人から見ると、嫌々押し付けられた仕事をしている冷たい王様に見えるのでしょう。

 役割はただの役割であり、人や物の本質は、そこにおさまるものではないのです。
 信じるべきは、その人の歩んできた道と、心の在り様のはずです。
 大臣は、屋敷にこっそり財宝や武器を集めるべきではないでしょう。それこそ、国への忠誠を疑われるからです。けれど、集めていたからと言って、彼らが悪いことをするような人間でしょうか。
 ナラカ王は、彼らと共に歩んできた日々を思い出しました。
 彼らもぬいぐるみのように失っては、もう取り返しがつきません。
 ナラカ王の鈍っていた思考が、ようやく動き始めました。

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