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それぞれの道
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「ちせ、週末はごめんね、研修が入って」
「ううん、お疲れ様。忙しいのに平日に時間取ってもらって、こっちこそ、ありがとう」
実家の最寄りのコンビニ前。もっと学校の近くまで行くと言ったのだけど、夜の一人歩きは用心してほしいと言われてしまった。走ってきてくれたのか、少し息が上がっている。
いつもは顔を見たら自然と笑みが浮かんでいたのに。
私のあまりに強張った顔に、佐山君はふしぎそうにした。
「……あの、実は。会社に戻ることになりそうで」
失職に向き合う覚悟を決めるまでは、このあたりの小学校の給食に関われないかな、なんて思ってた。確か母校は今も、学校内の給食室で給食を作っている。もしかすると、管理栄養士のパート募集があったりして、佐山君と同僚になったりして。なんて。
スマホの電源をオンにするや否や、見ていたのかと思うタイミングで、後輩から着信があった。
社長は、きちんと私の訴えを調査してくれたそうだ。そこで栄養管理部の皆で正式に抗議して、先週やっと上司が配置換えになったのだと、後輩ちゃんが泣きながら教えてくれた。私の退職届はいなくなった上司の引き出しにぽんと入ったままで。
だから、今私は溜まった有休の消化中と言うことになっているらしい。でもその有休ももうすぐなくなるのに、全然連絡取れなくて焦りました、戻ってきてください!と。
ぽつぽつと話し終わると、私の失業事情も知っていた佐山君はあまり驚きもせず、静かに頷いた。
「そうか。勤め先は、前と同じ、XX?」
大きな街の名前を言われて頷いた。
ここからは、片道二時間の距離だ。会えなくはない。大丈夫。でも、こうして平日に少しだけ顔を見て、体温を感じることは、できない。
急な寂しさに襲われて、俯いた。
佐山君は少し離れたところで立ったまま、少し黙った。
運動会の時はあんなに晴れて汗ばむくらいだったのに、今は二人の間を吹く風が冷たい。
「……俺、まだ言ってなかったけど、今の立場は介護休暇の代替教員なんだ。臨時的任用職員ってやつ」
「え、そうなんだ」
「うん、任期は最大で一年。もともと教員免許は持ってるけど、教員採用試験は受ける気がなかったんだ。でも人手不足だからって、先輩に頼み込まれて登録してたら、母校から要請をいただいたので。縁かなと思って引き受けた」
そうなんだ。
でもじゃあ。
「本来の先生が戻ってくるまで、ってこと?」
「そうだね。担任の先生の介護休暇が明ければ、そこで俺の任期は終わることになる。あまり中途半端な時期にはならないと思うけど」
淡々と言う佐山君。だけど、なんてシビアなんだろう。
佐山君がクラス担任としてとても努力しているのを、もう私はよく知っている。大変そうだ。でも子どもたちの話を楽しそうにしてくれるのを見ていると、やりがいを感じているのもよくわかる。
そんな仕事を、クラスを、急に取り上げられることがあるなんて。
「ううん、お疲れ様。忙しいのに平日に時間取ってもらって、こっちこそ、ありがとう」
実家の最寄りのコンビニ前。もっと学校の近くまで行くと言ったのだけど、夜の一人歩きは用心してほしいと言われてしまった。走ってきてくれたのか、少し息が上がっている。
いつもは顔を見たら自然と笑みが浮かんでいたのに。
私のあまりに強張った顔に、佐山君はふしぎそうにした。
「……あの、実は。会社に戻ることになりそうで」
失職に向き合う覚悟を決めるまでは、このあたりの小学校の給食に関われないかな、なんて思ってた。確か母校は今も、学校内の給食室で給食を作っている。もしかすると、管理栄養士のパート募集があったりして、佐山君と同僚になったりして。なんて。
スマホの電源をオンにするや否や、見ていたのかと思うタイミングで、後輩から着信があった。
社長は、きちんと私の訴えを調査してくれたそうだ。そこで栄養管理部の皆で正式に抗議して、先週やっと上司が配置換えになったのだと、後輩ちゃんが泣きながら教えてくれた。私の退職届はいなくなった上司の引き出しにぽんと入ったままで。
だから、今私は溜まった有休の消化中と言うことになっているらしい。でもその有休ももうすぐなくなるのに、全然連絡取れなくて焦りました、戻ってきてください!と。
ぽつぽつと話し終わると、私の失業事情も知っていた佐山君はあまり驚きもせず、静かに頷いた。
「そうか。勤め先は、前と同じ、XX?」
大きな街の名前を言われて頷いた。
ここからは、片道二時間の距離だ。会えなくはない。大丈夫。でも、こうして平日に少しだけ顔を見て、体温を感じることは、できない。
急な寂しさに襲われて、俯いた。
佐山君は少し離れたところで立ったまま、少し黙った。
運動会の時はあんなに晴れて汗ばむくらいだったのに、今は二人の間を吹く風が冷たい。
「……俺、まだ言ってなかったけど、今の立場は介護休暇の代替教員なんだ。臨時的任用職員ってやつ」
「え、そうなんだ」
「うん、任期は最大で一年。もともと教員免許は持ってるけど、教員採用試験は受ける気がなかったんだ。でも人手不足だからって、先輩に頼み込まれて登録してたら、母校から要請をいただいたので。縁かなと思って引き受けた」
そうなんだ。
でもじゃあ。
「本来の先生が戻ってくるまで、ってこと?」
「そうだね。担任の先生の介護休暇が明ければ、そこで俺の任期は終わることになる。あまり中途半端な時期にはならないと思うけど」
淡々と言う佐山君。だけど、なんてシビアなんだろう。
佐山君がクラス担任としてとても努力しているのを、もう私はよく知っている。大変そうだ。でも子どもたちの話を楽しそうにしてくれるのを見ていると、やりがいを感じているのもよくわかる。
そんな仕事を、クラスを、急に取り上げられることがあるなんて。
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