運動会、つないだ手、もう一度

日室千種・ちぐ

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空回り

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「待って、ちせ、もう少し聞いて。今はこの代替教員をするために休学してるんだけど、俺は実はまだ大学院生でね。医療衛生学部で、心臓リハビリの研究に関わってて」
「そ、うなんだ」

 管理栄養士の勉強の中で、かろうじて耳にしたことはある。心臓リハビリ。きっと、自分の体験から志した分野なのに違いない。
 私が誰かの本当の意味での助けになりたいと、管理栄養士の道を選んだみたいに。

 そうか。小学校以外にも、佐山君には世界があるんだ。わたしがまだ知らなかった、別の。
 ――知りたい。

「すごいね」
「すごい?」
「うん、たくさんの選択肢があって、すごい。じゃあ将来は、正式な先生か、研究か……それとも他にももっと考えてるの?」

 私はつい顔を上げて、ぐいぐいと聞いてしまって。
 いつの間にか、佐山君の顔を覗き込んでいた。
 すごく、すごく優しい顔を。

「やっぱりいいね、ちせは」
「えっ、なに?」
「学校の先生と比べたら、医療分野にいた方が潰しがきくし稼げるでしょ、とか言われること多くて。でもちせは、そもそも俺がどうしたいのか知ろうとしてくれるんだ。相手よりも一生懸命相手のこと考えてくれるところは、昔から変わってない。――そういうところ、好きなんだ。好きだな」

 面と向かって、どうしようも抗えないなって顔で、好きと連呼される。
 そんな経験初めてで、私の顔はみるみる真っ赤になったはずだ。
 息の仕方がわからないかもしれない。もう、死んじゃいそう。

「俺が大学院に戻ったら、XXに住んでもいい。もっと近くなるよ」
「う、うん」

 それはでも、クラスとお別れする時でもあり、喜びづらいな。
 でも、嬉しい。単純に嬉しい。そう思ったとき。

「でも、近いのがいいとも限らないかも」
「え? 限らない?」

 そう言われた途端、私の中でぐるぐるっと黒い雲が渦巻いた。

「近い方が会いやすい、のに? ……あ、でも私の会社、休日出勤当たり前で、近くても会えないかな。そっか、近くてもよくないか」
「ちせ?」
「そだよね、遠くても、どうしても会いたいなら、実家に泊まればいつでも会えなくはないし。次の日は直接会社に行ってもいいし。そ、それに、本当は、この仕事も続けるか決めてなくて。管理栄養士って意外と募集があるから。たとえばほら、栄養教員なんていうのもいいかな、って」

 まくし立てたあとの、沈黙が長い。
 ほんとに、ほんとに私、こういう時、どこかで自分に譲れることはないかって、考えちゃう。そして大抵、空回りする。
 放送係、本当は楽しみにしてた。何度も練習した、自分の受け持ちだった。
 後輩の時だって。本当は他にも後輩を心配してる人はいたんだ。でも私は、みんなでどうにかしようじゃなくて、私がどこまで切り取って差し出せるか、考えてしまう。一人先走って、過剰に自分が重荷を背負って、周りに痛ましい顔をさせてしまう。
 違うんだ、ただ、私は私の押し付けで相手を困らせたくなくて。
 かつての、佐山君のように。

 わかってる。なんだって、バランスだ。
 だけど、頭でわかってても上手くなんてできない。
 私は、私のこういうところが、好きじゃない。
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