もうそう

ヤクモ

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チャイム

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 もうすぐ来てしまう。

 そんな焦りとは裏腹に指は動き続ける。太腿を透明の液体が伝う。時折息が漏れ、扉を一瞬曇らせる。

 扉につけていた耳が、一つの振動を感じ取った。あぁ、来てしまった。間に合わない、と思いながらも指は動きを加速させ、体の内が伸縮を繰り返す。

 足音が止まった。

 予想していたチャイム音が鳴り、わかっていたのに驚いてしまい、扉に体当たりをしてしまった。

 鍵に手をかけてから、ふと、自身の格好を見返す。上半身はTシャツを着ているが、下半身は脱ぎかけの下着だけだ。洗濯したばかりの下着を濡らすことに躊躇いながらも履きなおす。しかしこの格好で出るわけにもいかない。そうっと扉を開いた。

「ぁ、ありがとう、ございます」

 見慣れた制服に安堵しながらも扉が開きすぎないように両腕で支える。

「すみません、今、人前に出られる格好じゃなくて」

 風呂上りだと思われただろうか。相手の反応が気になるが、相変わらず顔はあげられない。

「こちらに印鑑かサインをいただければ」

 差し出された伝票を受け取ると、下駄箱の上に置いてあるハンコを押した。

「お願いします」

 伝票を受け取り、そのまま固まった気配で気づく。

「荷物、扉の横に置いてください」

「ぁあ、わかりました」

「いつもありがとうございます」

「いえ」

 慣れたやり取りを半ば事務的にして、その気配が遠ざかるのを待つ。

 ガバリと扉を大きく開き、「雑貨」が入った荷物に手を伸ばす。

 ギィ、と扉がしまった。
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