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赤頭巾は男の前を歩く。ぴょこぴょこと、小さい子供のような歩き方に男は頬を緩めた。
(いや、何にやけてんだ、俺。違う。このガキはあくまでも俺を魔女のところに連れているだけであって、ガキの体型は俺の好みじゃねぇし。ほら、魔女って言われるほどなら美人かもしれねえし)
一人悶える男の気配を察したのか、少女が振り向いた。
「ん、どうした?」
姿勢を正し、なんてことの無い顔をする。
「あそこ」
少女が指し示す先に、ぽつんと一軒の家が建っていた。二階建てに見えるが、全体的にこじんまりとしている。
「薬もらったらすぐ帰って」
早く用事を済ませろとばかりに、赤頭巾は男の袖を引っぱった。見かけ以上に幼い動作に、男は戸惑う。
(こいつ天然かと思ってたが、単純にまだ幼いのか?もしかして背がでかいだけで、実際は七、八歳くらいなのか?)
今年の春一七歳になった赤頭巾を、男はじいっと見つめた。
「……何、」
「赤頭巾?」
ぽんっ、と声がした。赤頭巾は呼ばれた方を向くと、男の袖を掴んでいた手を放しその方に走った。
「どうしたの?もう夕方だよ」
「この人が、怪我してるって」
赤頭巾は自分を呼んだ人間にぴったりくっつくと、男を指さした。
(魔女か?)
男はまじまじと目の前に現れた者を観察する。
森に混じるような深い緑色のローブを身に纏い、フードから長い金髪が零れている。陰になって顔はよく見えないが、女にしては声が低すぎるような。
「どこを怪我したんだ?」
「あ、あぁ。左腕だ」
捲り肘のあたりを見せる。
「うあぁ」
「よく平気な顔してるね」
血はすでに固まっていたが、皮が捲れ肉が見えている部分もある。
「どうしたの?」
「木から落ちた」
(まさか馬車を狙っていたなんて言えねえし)
ローブを着た者は、「待ってて」と言うと家に入って行った。当然のように赤頭巾もついていく。一人取り残され、魔女が思っていたのと違う雰囲気であることに落胆していると、二人は布に包まれた大きな荷物を持ってきた。
「ごめんね。今家の中散らかってるからさ。ここで治療してもいいかな?」
「部屋汚かった」
「掃除していたんだ」
ははは、とローブは苦笑いをする。邪魔だろうと言いたくなるほど少女はローブにくっ付いているが、それをものともせずに手早く包みを開ける。
「赤頭巾、消毒して」
瓶を渡された少女は、男の腕を取った。
「我慢して」
「は、」
容赦なく中身が患部にかけられた。
「痛ってぇ!」
「我慢」
赤頭巾は布でかけた液体をふき取る。
「できた」
「ありがとう」
その間にローブはごりごりと草を混ぜていたかと思うと、やはり躊躇うことなくそれを患部に塗った。
「~っ」
もはや言葉にできない痛みに男が悶えているうちに、少女は素早く包帯を巻く。
「終了」
「赤頭巾のおかげではやく終わったよ。ありがとう」
頭を撫でられ、赤頭巾は「えへへ」とにはりと笑う。痛みで涙目になりながらそれを見た男は、反射的に少女の腕を掴んだ。
「えっ」
驚く少女の顔を見て、男も目を丸くする。
「あれ、俺なんで」
「ところで」
すくっとローブは立ち上がった。腕を掴み掴まれたまま二人は見上げる。フードの下が見えた。
(男っ?)
切れ長の黒い瞳が零度の視線を向ける。さぁっと血がひいた。
「お前は誰だ?」
ぎゅっと手に力を入れる。白く細い手首は男の手で簡単に折れそうだ。「痛い」と少女が呟くが、男たちは視線を合わせたままだ。
「俺は、」
「赤頭巾か?」
がさり、と藪をかき分けて薄汚れた男が現れた。
「……誰?」
「赤頭巾っ。俺だ。父さんだよ」
「とう、さん?」
三人の目が突然現れた男に向けられる。
裾がほつれた服を纏った中年の男は、にへらと笑った。
(いや、何にやけてんだ、俺。違う。このガキはあくまでも俺を魔女のところに連れているだけであって、ガキの体型は俺の好みじゃねぇし。ほら、魔女って言われるほどなら美人かもしれねえし)
一人悶える男の気配を察したのか、少女が振り向いた。
「ん、どうした?」
姿勢を正し、なんてことの無い顔をする。
「あそこ」
少女が指し示す先に、ぽつんと一軒の家が建っていた。二階建てに見えるが、全体的にこじんまりとしている。
「薬もらったらすぐ帰って」
早く用事を済ませろとばかりに、赤頭巾は男の袖を引っぱった。見かけ以上に幼い動作に、男は戸惑う。
(こいつ天然かと思ってたが、単純にまだ幼いのか?もしかして背がでかいだけで、実際は七、八歳くらいなのか?)
今年の春一七歳になった赤頭巾を、男はじいっと見つめた。
「……何、」
「赤頭巾?」
ぽんっ、と声がした。赤頭巾は呼ばれた方を向くと、男の袖を掴んでいた手を放しその方に走った。
「どうしたの?もう夕方だよ」
「この人が、怪我してるって」
赤頭巾は自分を呼んだ人間にぴったりくっつくと、男を指さした。
(魔女か?)
男はまじまじと目の前に現れた者を観察する。
森に混じるような深い緑色のローブを身に纏い、フードから長い金髪が零れている。陰になって顔はよく見えないが、女にしては声が低すぎるような。
「どこを怪我したんだ?」
「あ、あぁ。左腕だ」
捲り肘のあたりを見せる。
「うあぁ」
「よく平気な顔してるね」
血はすでに固まっていたが、皮が捲れ肉が見えている部分もある。
「どうしたの?」
「木から落ちた」
(まさか馬車を狙っていたなんて言えねえし)
ローブを着た者は、「待ってて」と言うと家に入って行った。当然のように赤頭巾もついていく。一人取り残され、魔女が思っていたのと違う雰囲気であることに落胆していると、二人は布に包まれた大きな荷物を持ってきた。
「ごめんね。今家の中散らかってるからさ。ここで治療してもいいかな?」
「部屋汚かった」
「掃除していたんだ」
ははは、とローブは苦笑いをする。邪魔だろうと言いたくなるほど少女はローブにくっ付いているが、それをものともせずに手早く包みを開ける。
「赤頭巾、消毒して」
瓶を渡された少女は、男の腕を取った。
「我慢して」
「は、」
容赦なく中身が患部にかけられた。
「痛ってぇ!」
「我慢」
赤頭巾は布でかけた液体をふき取る。
「できた」
「ありがとう」
その間にローブはごりごりと草を混ぜていたかと思うと、やはり躊躇うことなくそれを患部に塗った。
「~っ」
もはや言葉にできない痛みに男が悶えているうちに、少女は素早く包帯を巻く。
「終了」
「赤頭巾のおかげではやく終わったよ。ありがとう」
頭を撫でられ、赤頭巾は「えへへ」とにはりと笑う。痛みで涙目になりながらそれを見た男は、反射的に少女の腕を掴んだ。
「えっ」
驚く少女の顔を見て、男も目を丸くする。
「あれ、俺なんで」
「ところで」
すくっとローブは立ち上がった。腕を掴み掴まれたまま二人は見上げる。フードの下が見えた。
(男っ?)
切れ長の黒い瞳が零度の視線を向ける。さぁっと血がひいた。
「お前は誰だ?」
ぎゅっと手に力を入れる。白く細い手首は男の手で簡単に折れそうだ。「痛い」と少女が呟くが、男たちは視線を合わせたままだ。
「俺は、」
「赤頭巾か?」
がさり、と藪をかき分けて薄汚れた男が現れた。
「……誰?」
「赤頭巾っ。俺だ。父さんだよ」
「とう、さん?」
三人の目が突然現れた男に向けられる。
裾がほつれた服を纏った中年の男は、にへらと笑った。
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