(仮)婚約中!!

佐野三葉

文字の大きさ
3 / 29

結婚はまだ早い

しおりを挟む
 「父さんに呼ばれてね。2人とも今日はおめでとう。」
 
5歳上の聡(さとる)兄さんが、私のツッコミのような問いに笑顔で答えた。聡兄さんの奥さんの朱音(あかね)さんも、「おめでとう。」と言ってくれた。

「仕事は、有給を取ったぞ。大変だったぞ~、この1週間、残業で。貸し1つな。夕飯1回でチャラにしてやる。コロッケと茶碗蒸しは、必須な。」

3歳上の新(あらた)兄さんは、楓に感謝しろとばかりに言ってきた。目はにやにやと笑っていて、面白いものを見つけた時の表情をしている。あれは、後で匠さんをいじって遊ぶ気満々だ。

「匠、まあ失敗しても骨は拾ってやるから、ど~んと行け。」

新兄さんは、口は悪いけど、なぜか場を和ませる才能がある。今だって、お茶を飲みながら話しかけてくるから、
緊張感がまるでない。新兄さんの奥さんの奈央子(なおこ)さんは、「匠君、楓ちゃん、おめでとう。応援しているよ。夕飯は、頼みたいな。楓ちゃんの料理は、おいしいから。私もファンなのよ。」新兄さんについていけるだけあって、大らかだし、ちょっと天然さんだ。

考えてみれば、兄さんたちが来てくれてよかったのかもしれない。上座に座っている父ー瀬戸周作(せと しゅうさく)は、どうみても亭主関白スイッチが入って、腕組みをしている。スイッチの入った父の前では、楓はうまくしゃべれなくなる。兄さんたちがいてくれた方が、間が持つし、フォローも入れてくれることだろう。

「ありがとうございます。僕たちのために集まってくれて。」

匠さんは、兄さんたちにペコリと頭を下げた。
匠さんも、6人の着物姿に驚いた様子だったが、聡兄さんと新兄さんがいることで、だいぶ緊張がほぐれたようだ。ほっとした雰囲気が伝わってくる。

 匠さんと兄さんたちは、休日に男3人で、カラオケに行ったり、ボーリングにいったり、温泉にいったりするくらい仲がいい。私とのデートの回数が減るから、正直、兄さんたちに嫉妬することもあったけど、今日みたいな時には、男友達として力になってくれてるみたいだから、心強い。匠さんと兄さんたちの外出を、我慢して送り出してきたのが、こんなところで報われるとは思ってもみなかった。

「楓、お前がずっと立ったままだと、匠君が座るに座れなくて困るだろう。」
聡兄さんに指摘され、はっとした。匠さんはいつの間にか中に入って、座らずに楓のことを待ってくれている。私は敷居を踏まないように急いで中に入り、障子を丁寧に閉めた。この部屋に出入りする時だけは、所作を綺麗にできるように幼い頃から躾けられているのだ。

「皆が揃うなんて、思ってもみなかったから、つい驚いちゃって。匠さん、ごめんね。」
匠さんの腕に、軽く触れてあやまった。

「いや、僕の方こそ、緊張しっぱなしで、ごめん。」
兄さんと義姉さんたちの歓迎と励ましが効いたのか、匠さんの表情も硬さがだいぶ取れてきた。
座布団が空いているところー父の正面に匠と楓は並んで座った。父は黙ったままだ。どうしようかと兄さんたちを
見ると、2人は匠さんに目で合図してくる。新兄さん風に言うと、「匠の出番だぞ~。言ったもん勝ちだ。勢いだ。さあ早く!」。聡兄さん風に言うと、「父さんは、匠君から話すのを待ってますよ。話しかけるいいタイミングだよ。頑張って。」そんな感じの表情だ。匠さんは軽くうなずきそれに応えると、姿勢を正して、話し始めた。


「楓さんのご両親、お兄さんたち、今日は時間を作っていただきありがとうございます。楓さんと付き合って2年になります。この2年で楓さんとずっと一緒にいたいと思うようになりました。皆さんにも、よくしていただいて瀬戸家の家族にもなりたいと僕は、思いました。楓さんと2人で話し合って半年後に、結婚したいと思っています。娘さんを僕にください。一生大事にします。お願いします。」

匠さんがそこで、頭を下げたので、楓も「お願いします」と言って頭を下げた。
壁の時計のカチカチという秒針の音が、耳につく。


沈黙ー。


お願い、お父さんいいって言って。



1分くらい経ったところで、父が口を開いた。

「悪いが、半年後は許可できない。匠くんと楓が、結婚について本気かどうか試験をさせてもらう。それに合格できたら、婚約を許そう。」

楓は、狼狽えた。まさか許可が下りないなんて。匠さんの表情もひきつっている。それでも、父の顔をしっかりと見て、匠さんが質問した。

「試験内容はなんですか?」

「2人で、それぞれこちらで提示する6こずつの課題をクリアしてもらう。期限は、1年。クリアできなければ、婚約は許可できない。」

あんまりだ。1つなら、分からなくもないけれど、2人で12個なんて、【結婚反対】と暗に言っているようなものではないか。それでは、匠さんを歓迎していた日々は偽りだったのか。ここにいる8人と兄さんたちの子供たちで、家族のように過ごした今年の正月も、父は内心では2人のことを反対していたのか。楓の中で、反発心が膨れ上がった。楓は26歳だし、匠さんも30歳だ。許可なんかなくたって結婚できる。悲しくて悔しくて涙で、目の前がぼやけた。

「父さん、言葉が足りないですよ。それでは、2人が反対されていると思ってしまいます。僕から、瀬戸家の家訓について話していいですか?」
聡兄さんが、穏やかな声で提案した。 
瀬戸家の家訓?そんな重々しいものがあっただろうか?初耳だ。それが、今、結婚を反対されている原因なのだろうか?

顔をあげると、聡兄さんは笑顔を絶やさないでいる。匠さんと楓の結婚が反対されているのにどうしてそんなに優しい表情をするの?

「匠君、楓。父さんも母さんも、もちろん僕たちも、2人の結婚には賛成なんだ。匠くん、瀬戸家の家族にもなりたいと言ってくれてありがとう。ここにいる全員、嬉しい気持ちだよ。」

「じゃあ、なんで試験なんて言うの?」
楓は涙をこらえて、つぶやいた。

「楓、瀬戸家にはね。200年前から、仮婚約の儀というのがあるんだ。結婚を決意したら、1年かけて仮婚約の儀をパスするのが、伝統なんだ。」

そうして、聡兄さんは、仮婚約の儀について説明を始めてくれた。













 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

【完結】公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

『紅茶の香りが消えた午後に』

柴田はつみ
恋愛
穏やかで控えめな公爵令嬢リディアの唯一の楽しみは、幼なじみの公爵アーヴィンと過ごす午後の茶会だった。 けれど、近隣に越してきた伯爵令嬢ミレーユが明るく距離を詰めてくるたび、二人の時間は少しずつ失われていく。 誤解と沈黙、そして抑えた想いの裏で、すれ違う恋の行方は——。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。 ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

処理中です...