下ル下ル商店街

馬 並子

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いざ、下ル。

トオルが連れて来られたのは、何の変哲もない地下駐車場だった。
いや、それでは言葉足らずか。駐車場自体には何の変哲もなかったが、その駐車場がある場所は驚くべきものだった。
何しろ、トオルが庭のように遊び歩いていた繁華街の地下に、全体が見渡せない程巨大な地下駐車場が存在していたのだ。この街には地下階のあるビルも数多く存在するのに、どうやってこれほどの空間を確保したのだろうと呆気にとられる。
場所柄か、さすがに一目で高級とわかる車が多いが、中にはフルスモーク貼りのワンボックスカーや、ナンバープレートが覆われたスポーツカーもあり、キョロキョロと視線を遣ると身を滅ぼしそうに思えた。

トオルがはまっている闇カジノは当然違法だが、ギャンブル以外で下手なリスクは負いたくない。
何も見ていませんよというポーズで地面に視線を落としていたために、トオルはいつのまにか目の前に立っていた長身の男が、いったいどこから現れたのかわからなかった。

「やぁ『バトラー』。まいどっ」
トオルの隣でチュンが気安く声をかけると、男は低い声で「ええ」と応じ、白手袋に覆われた片手を軽く上げて見せた。
片眼鏡に口髭、そしてオールバックに撫でつけたグレーヘアーと、呼び名の通りコスプレめいた執事具合だ。
さすがに燕尾服とはいかないが、仕立てのいい細身のスーツを隙なく着こなしている。よれよれのシャツにノーネクタイのトオルとは大違いだ。

「じゃ、後はよろしくっ」
ひらひらと手を振って、あっという間にチュンが去り、トオルは執事風の男と二人で駐車場に取り残された。
気まずさを感じる暇もなく、執事風の男が淡々と口を開く。

「お察しかと存じますが、これからご案内するゲーム会場は、国の法律に則った店ではございません。多くを知らぬ方が、互いにとって利益です。失礼ながら、あなたには目隠しをさせていただきますが、決してご自身では外されませんようお願い申し上げます」

トオルとて、世の中には知らぬが吉といった領域があることくらいわかっている。金が欲しいだけであって、非合法の賭場を暴きたいわけでは決してない。
トオルは自分の視界を奪う黒く分厚い布を、おとなしく受け入れた。

初対面の人間の前で、しかも、これから非合法の高額ゲームに参加する身で視界を奪われることは、当然恐怖でしかない。だが、反社会的勢力絡みの借金取りに追われることを思えば、遥かにマシな恐怖だった。
何より、寸分の隙もない『バトラー』の態度に、この謎の男に従うしかないのだと、自然とそう思わされた。

「ふひひっ」
目隠しを受け入れた途端、すぐ傍から老人らしき不気味な笑い声が聞こえて、トオルの口から「ひっ」と声が漏れた。知らぬ間に、登場人物が一人増えていたらしい。
だが老人らしき人間はそれ以上言葉を発さない。代わりのように、重い鉄の扉がギギィッと開かれる音がした。

駐車場の管理人の手で、下ル下ル商店街への扉が開かれたのだ。

「ちょ、あの、待ってくれよ!俺……戻って、こられるよな?」
不穏な空気に、思わずといった様子でトオルが焦りと不安を口にする。自分でも、迷子の子供のような頼りない声になった気がした。
それに対して執事風の男は、初めて小さな笑いを漏らす。
「ふふっ。カジノで全財産を賭けた時の威勢はどうしたんですか。……さぁ、参りましょう」

白手袋に覆われた手で背中を押され、トオルは恐る恐る一歩を踏み出す。
思った以上に近くにいたのか、老人らしき声がトオルの耳のすぐ側で、「いってらっしゃい」と囁いた。
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