冤罪ヒーロー ~転移先は異世界でした! ……は?~

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1章 ~この世界の現状~

2 拷問されても気にするな

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気がつくと、暗い部屋の中にいた。
今居る部屋の内装を分かりやすく紹介すると、目の前には鉄格子、両手には鎖。

そう、誰が見てもわかるように、俺は牢獄にいる。

現在、俺は突起物が付いた椅子の上に座っている。
膝の上には重石なのか、直径50cmぐらいの黒い石が置かれている。

……なんだこれ。

困惑、気がつくと自分が監禁紛いな事をされているのだから、当然だろう。

……なんだよ、これ、何が起きてるんだよ!?

手錠が付いた自分の両手を交互に見ながら、困惑の声を漏らす。……漏らす?
……聞こえない。声を出すと聞こえる自分の声が、聞こえない。

「ひゅー……こひゅー……」

声が……出ない。
なんなんだよ……誰がこんなことを……

……もう一つ気づいたことがある。
それは左目だけ目を背けたくなるような暗黒だった事だ。

……背ける目がないんだったな。面白いジョークだ。

俺の目の前のテーブルには、懐かしい俺の赤色左目が浮かぶ瓶があった。
くそ…… 俺の中二心の詰まったカラコンが……。

よくも俺のカラコンを……。一体、俺が何をしたって言うんだよ!
俺をこんな目に遭わせて何になるって言うんだよ!

声が出ないこともわかりながら、目の前の瓶に入った自分の目に向かって大声で叫ぶ。

すると、「メキメキ」と気持ちの良い音がして、左手の爪が剥がれていった。
綺麗に弾けとんだ爪、指から流れ出る血、これを見て恐怖は感じるんだが、……不思議と痛みは無い。

……もう、体が慣れたのか?
最悪だ、体が調教されてしまったなんて……

俺の息子(tintin)は無事だろうか。……怖いが、確認するか。

……よかった。無事だ、が、右腕がたった今床に落ちた。
音もなく落ちるなんて……。さすがに腕が落ちると少し痛いな。 

もし、ここに傍観者がいれば、今の光景は目を疑いたくなるような、信じがたい光景だっただろう。何せ、勝手に腕が落ちたり、爪が剥がれたりするんだ。びっくりだろう。

だが、意味もわからない理不尽に、もう一度遭遇した俺は、驚く気力、いや、そこに至るまでの思考が働いていなかった。

思考が働かなかったのにはもうひとつ理由がある。

理由、それは――

――激痛を耐えてるからだ。

前に、俺の悪い癖は強がる事、と言った気がするが、たった今、その癖が発動してしまった。

……前?
何か……忘れてないか……?

ゴキッ!

左腕の骨が折れたような音がした。

……辛い、痛い、憎い。

悲しみから憎しみへ、憎しみから絶望へ、感情はコロコロ変わっていった。

あと、どれくらいこの“拷問”に耐えなければいけないのだろう。もう、いっそ――





«言語翻訳ヲ解除シマシタ»

あれからどれくらいたっただろう。自分の歯軋りしか聞こえなかった耳に違う音が聞こえた。

声が……聞こえた。他にも誰かいるのか?
いやその可能性は低いな。犯人の可能性の方が高い。


「……おい、生きてるか?」


姿の見えぬ相手を警戒していると普通にドアから鎧を着た男が出てきた。
悲しげな顔とは裏腹に手には血まみれのペンチを持っていた。


「……! っっ……!!」

「そう怯えるな、 俺も怖いんだからよ、俺は拷問なんてしたく無いんだ。 だから……さっさと話してくれないか? お前の……罪を」


こいつは何を言ってるんだろう。俺が罪を犯したとでも言うのか? 馬鹿馬鹿しい。
そもそも、俺今話せないし。俺に拷問したのはお前じゃないのか?

まさか、わざと知らないふりしてるのか? ゴミだな。


「なんだよ、睨むなよ。 まさか、話せないとか言うんじゃないだろうな。 誤魔化しても無駄だぞ。 こっちはお前が話せるのは分かってるんだ」

「……?」


なにを言ってるんだ? 手のペンチや腰のノコギリ。
俺を拷問したのは間違いなくこいつだろう。
俺は声が出ないんだ。わかるだろ? お前がやったんだから。


「いつまでそうしているんだ…… さっさと念話を使えよ……」


念話? 何ファンタジーみたいな話してるんだ。一体何が目的なんだ。
話が通じないな…… いや、声出てないから会話すら成立してないな。


「まだか? 今日は時間が無いんだ。……おい! 誤魔化せると思うなよ! お前のシナーデータは確認済みなんだ。あの化け物みたいなステータスをよく今まで隠せてきたな。だが、今度はそうはいかねえぞ」


???

何を言ってるんだ? シナー……なんだって? 
化け物はお前だろうが、くそが…… 俺が何をしたって言うんだよ!


「ああっ! くそっ! 時間切れだ、糞野郎。……いくぞ」


男はそう言いながら俺の膝の上の石を退かし、手の拘束を解いてくれた。
だが、代わりの首に鎖をつけられ、剣を突きつけられながら歩かされた。

牢獄から出ると、長い廊下があり、所々壁に松明が刺さっていた。

足にあまり傷が無かったうな音がした。

……辛い、痛い、憎い。

悲しみから憎しみへ、憎しみから絶望へ、感情はコロコロ変わっていった。

あと、どれくらいこの“拷問”に耐えなければいけないのだろう。もう、いっそ――





«言語翻訳ヲ解除シマシタ»

あれからどれくらいたっただろう。自分の歯軋りしか聞こえなかった耳に違う音が聞こえた。

声が……聞こえた。他にも誰かいるのか?
いやその可能性は低いな。犯人の可能性の方が高い。


「……おい、生きてるか?」


姿の見えぬ相手を警戒していると普通にドアから鎧を着た男が出てきた。
悲しげな顔とは裏腹に手には血まみれのペンチを持っていた。


「……! っっ……!!」

「そう怯えるな、 俺も怖いんだからよ、俺は拷問なんてしたく無いんだ。 だから……さっさと話してくれないか? お前の……罪を」


こいつは何を言ってるんだろう。俺が罪を犯したとでも言うのか? 馬鹿馬鹿しい。
そもそも、俺今話せないし。俺に拷問したのはお前じゃないのか?

まさか、わざと知らないふりしてるのか? ゴミだな。


「なんだよ、睨むなよ。 まさか、話せないとか言うんじゃないだろうな。 誤魔化しても無駄だぞ。 こっちはお前が話せるのは分かってるんだ」

「……?」


なにを言ってるんだ? 手のペンチや腰のノコギリ。
俺を拷問したのは間違いなくこいつだろう。
俺は声が出ないんだ。わかるだろ? お前がやったんだから。


「いつまでそうしているんだ…… さっさと念話を使えよ……」


念話? 何ファンタジーみたいな話してるんだ。一体何が目的なんだ。
話が通じないな…… いや、声出てないから会話すら成立してないな。


「まだか? 今日は時間が無いんだ。……おい! 誤魔化せると思うなよ! お前のシナーデータは確認済みなんだ。あの化け物みたいなステータスをよく今まで隠せてきたな。だが、今度はそうはいかねえぞ」


???

何を言ってるんだ? シナー……なんだって? 
化け物はお前だろうが、くそが…… 俺が何をしたって言うんだよ!


「ああっ! くそっ! 時間切れだ、糞野郎。……いくぞ」


男はそう言いながら俺の膝の上の石を退かし、手の拘束を解いてくれた。
だが、代わりの首に鎖をつけられ、剣を突きつけられながら歩かされた。

牢獄から出ると、長い廊下があり、所々壁に松明が刺さっていた。

足にあまり傷が無かったが無かったのは歩かせるためだったからだろう。
壁に刺さる松明は現代の照明しか見たことの無い俺からは違法の臭いしかしなかった。

「止まれ」
男がそう呟く。


「はあ、こんな上物が支給されるなんてな。お前はそれほど重要な情報を持ってるんだろうな。……少しでも吐かせることが出来たら俺も昇格しただろうに。くそっ!」

男が怒鳴りながら俺を蹴ってきた。
反射的に右手でそれをガードする。

あれ? 右手……?

視線を右手があった場所に戻すと、ちぎれ落ちたはずの右手が
しっかりと男の足から体を守っているのが見えた。

それだけではなく、俺の体からは全ての傷が消えていた。

……見える。両目が。動く。両手が。
やった! 良かった!

体が元に戻り、安心した俺は、自分の元通りになった目から溢れる涙に気がつかなかった。

すると、俺の感動を遮るようにゴミの声が聞こえてきた。

「は……はは、やっぱお前、化け物だよ……」
「……化け物はどっちだよ、人をゴミ見たいに扱いやがって」

どうやら、男も驚いているようだった。
俺も、自身に何が起こったのかわからない。
だが、その事を気づかれるとまた、馬鹿にされそうだったので、
困惑を隠しながら精一杯の悪態を吐いた。

「声帯もなおったのか、ポーションは使わず仕舞いだったな」

そう言って、男はポーション? とやらを鎧の中に仕舞った。

それ、何に使うかは知らないが、高いやつなんだろ?
こいつ、セコいな。プライドとか無いのかよ。

「なんだ、その目は」
「別に、泥棒を軽蔑している目だよ」

鼻で笑いながら、男を馬鹿にする。

「ふん! 何が泥棒だ、これは支給されたんだ。そもそも罪人はお前だろう」
「それだ、俺が何をしたって言うんだよ」
「知るか、……さあ、ついたぞ」

男は俺の尻を蹴り、視線を前の扉に向けさせた。
視線の先には、金で装飾された、鉄? の扉があった。

男は言った。
「お前の罪は、今から聞けるさ」

男が剣で床を三回叩くと、分厚い扉が音をたてて開いた。
薄暗い通路に明るい光が差し込む、しかし、暗闇に慣れた目には眩しすぎて、俺は目を瞑る。

俺は、その閉じた目を開けなければ良かったと、後々後悔することになった。
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