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条件 双子 死ねた 捻くれた受
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「ねぇねぇ。君さ、桧(ひのき)じゃないでしょ?」
いきなり目の前で発言した男に、僕は一瞬動揺し、しかしすぐにそれを隠して首を傾げた。
昼休み、僕が一人お弁当を広げて食べていると、急に現れた男の名は泉谷宝(いずや たから)という。学内では知らない者等いない程有名で、その出で立ちはとても派手なものだった。ピンク色の髪に着崩された制服。所謂不良というやつだ。
彼は僕の前の席に後ろ向きになって座ると、にこにこしながら先程の言葉を向けてきたのである。
たれ目がちな瞳が好奇心と共に注がれて来て、なんだがばつの悪さを感じてしまう。
「なぁ、無視すんなよ」
再度声をかけられて、僕はようやく口を開いた。
「……なんで俺が桧じゃないって言うんだよ? 俺じゃなかったらいったい誰だっていうんだ」
「樟葉(くずは)。桧の双子のアニキ」
当たりでしょ。という彼に、僕はどうしようかと逡巡する。まさかばれるなんて思っても見なかったのだ。
僕と桧は性格の多少の違いこそあれ、外見はもちろん好みもなにもかもほとんどが一緒だった。
だからこそ、今まで誰にも僕らが入れ代わっている事に気付く人間等いなかったのだ。
だって、僕ら自身たまに混乱するほどなのに……。
「ねぇ、また無視しないでよ」
「してないよ。というか、俺に双子の兄がいたなんてよく知ってたね。どこで知ったの?」
「桧から聞いたんだよ、樟葉ちゃん」
にやりと笑う彼に、僕は自分の失態を悟った。
まさか、桧が僕のことを誰かに話しているとは思わなかった。しかし、桧と彼がそう親しくしていたとは思えない。なのに何故彼が知っていたのか不思議に感じた。 それが顔に出ていたのか、彼の口から思いがけない言葉が出てきた。
「だって俺と桧はセフレだったからね。ただそれだけの関係だけど、樟葉ちゃんの話題はたまにでていたんだよ」
まさか、桧が彼と関係を持っていたなんて……驚きに言葉が出てこないでいると、ずいっと顔を近づけて来て囁いてくる。
誰も知らないはずの秘密を、知られてはいけない秘密を告げてくる。
「それに、桧は三日前に自殺したのに、学校にくるなんて誰だって変に思うだろ?」
「……っ! なんで知って……」
「内緒。それより、何で桧が自殺したか知りたい?」
誰にも聞かれないように、うっそりとした笑みを浮かべながら彼は低い暗い声で問いかけてくる。
桧が何故死んだのか。僕が今1番知りたい事だ。
思い出すのは僕を見て笑いながら落ちていく桧の姿。何も問題なかったはずなのに、何かあったわけではないのに、桧は僕の目の前で死んで逝った。
そしてそれにともない起こった最悪な出来事は、母さんも父さんも桧ではなく樟葉が自殺したと勘違いした事。
僕は桧となって学校に通う事となった。
葬式には友人だった人が訪れて、桧を前に悲しんでいた。彼等にも僕と桧の区別がつかなくて、仕切に樟葉と呼んでいた。
本当は僕が樟葉なんだと今更言ったって、混乱を招くだけだろうから僕はそのまま桧になろうと思った。不満も何もなく、ただ恐怖と疑問を抱きながら桧の学校に通い始めたのである。
誰にもばれずに一生過ごすつもりだったのに、それは初日で見破ってきた彼のせいでおじゃんとなった。
「あ、チャイム。しゃーない。放課後にね」
昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴り、先程とうって変わって明るい声で自分の席に戻る彼を見ながら、俺は桧を思いだしていた。
解りあっていると思っていた。誰よりも近しい存在だと思っていたのに。
秘密を持っていた桧。
本当は僕と桧には距離があったという事なのだろうか。
特別に思っていたのは僕だけだったのだろうか。
□□□
放課後。二人きりになれる場所という事で僕達は空き教室に来ていた。
窓際の使われていない机に座り、彼はこちらを見てとても嬉しそうに笑った。
「まさか樟葉ちゃんに会えるなんてね。一生無理だと思ってたよ」
「……? それより、何で桧は死んだの? どうして君がそれを知ってるの? どうして……」
「あのさぁ……桧の奴、樟葉ちゃんにこう言ったんじゃない?」
お前のせいだよ、樟葉
「……っ」
言葉を遮られ、彼は楽しそうにあの言葉を言い放った。
僕と桧しか知らない事。
最後の瞬間、笑いながらしかし責めるように言った桧の言葉を。
「君は……誰?」
彼を知っているはずなのに自然と口に出ていた言葉は、彼から笑顔を無くす。
どうして僕と桧を見分けられたのかも不思議だったのに、まるで桧のような彼に、僕は恐怖を覚えた。
不良と聞いてはいたけど、実際話してみると雰囲気が明るくて外見だけなのかと思っていたのだが、それは僕の勘違いなのだと悟る。
彼は今にも僕に掴みかからん勢いでこちらを睨みつけていた。纏う雰囲気が殺伐としていて、圧倒されてしまう。
もしかしたら、身体の関係と言っていたが、彼は桧を愛していたのかもしれない。
新たな考えにショックを受けながら、僕は彼が何か言うのをじっと待っていた。
「俺とあいつとは似た者同士だったんだよ。根本的なものが同じっつうか……同じ獣の臭いがしたんだ」
「なら、桧と同じである僕も、君と同じ臭いがするわけ?」
「いや、桧はお前に合わせていたんだろうぜ。なんせ、あいつはお前を何よりも大切にしていたからな」
本性をあらわにした彼は嘲笑を交えながらも淡々と語っていく。
僕の知らない桧を。
「桧は、敵わない恋をしていたんだ。自分の片割れにな。だからこそ自分の本質を知られたら怖がられると思ってたんだろうよ。それに一人殻に篭る片割れを独り占めするためには都合がいい。自分以外を寄せ付けないために、自分以外を見せないために……本当は桧はお前を監禁したかったんだろうな、とんだ嫉妬深い変態野郎だ」
「それは、桧が言っていた事なの……?」
「前者はな。後者は俺の推測だよ、樟葉ちゃん」
「推測なんでしょう? なら桧は……!」
「だが、俺はあいつの考え……行動がよく解る。何故なら、あいつの思い描いてる衝動は俺とまったく同じものだったから」
僕以上に桧を解る人間なんていない。だってそうだ。僕達は誰よりも繋がっている。
家族や親友よるも、何よりも好きな人よりも……。
「なぁ、どうして桧が死んだのを俺が知っているか…………それはな、あいつと賭けたんだよ。壊したいくらいに愛してる人間をどれほど自分に縛りつける事が出来るか」
その様子じゃ、あいつの勝ちのようだけど。と口元を歪めてどこか見下すような視線が突き刺さった。
目の前がわけも分からずに真っ暗になりそうになる。
想像も着かない会話に頭がついていかない。
僕は愛すらも超越した絆だと思っていた。なのに、桧にはただの愛という名の独占欲での絆だった。
僕が桧の真意に、愛に答えなかったから、だからあのような言葉を投げかけたというのか。
僕は桧の想いに応える事は出来ないというのに。
「でさぁ、俺も別口で賭をしてたんだよ。その内容は俺が最初で最後に愛した奴を壊す事」
くすくすと酷くおかしいと言うように笑う彼をぼんやりと眺めた。
桧は、僕のせいで死んでしまったの?
悲しみが胸を突き刺す。
「可愛いそうな樟葉ちゃん。桧だって誤解されて……ちゃんと自分が樟葉だって言わなくちゃ」
「駄目! 言っちゃ駄目だ!」
せめて僕が桧になっていないと、今までの絆が消えてしまいそうで、彼が呟いた時にはそう叫んでいた。
僕の存在意味が無くなってしまう。
そうしたら、僕は僕でなくなって、壊れてしまうかもしれない。
「黙っていて欲しいの?」
「言わないで、僕は桧なんだ。桧でいないといけないんだ! だから……」
机ごしに縋り付く僕に彼は楽しそうに頬杖をついたまま、そしてゆっくりと言葉を紡いで言った。
「いいよ、黙っててあげる。でもさ、そのかわりに俺に樟葉ちゃんちょうだい?」
君を壊させてよ。
「交換条件だよ」
優しい口調の彼に、僕はただ頷いたのだった。
そして、僕が手に入れたのは偽りの絆と、願ってもない愛だった。
END
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