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2.お近付きになるには
「…花柳……彩華…」
苗字にも名前にも花を意味する漢字が入っている、名前だけ見れば可憐な女の子を想像するが、教壇に立っている花柳彩華は明るい活発な男子高校生だ。本人が言っていたように、田舎の方で長いこと育ったであろう名残りが言葉に色濃く残っていた。
「よーし、じゃあ花柳の席は秦の後ろなー。真ん中の一席だけ空いてる所に座ってくれな」
「はいっ!ありがとうございます!」
そうして花柳は俺の後ろの席になった。生まれて初めて秦の苗字に感謝した瞬間であった。花柳が俺の横を通った時にふわりと優しい花の香りがした。洗濯に使っている柔軟剤か何かだと思うが男にしては随分優しくて可愛らしい香りだ。そのまま俺の後ろに座ったと思ったら背中をツンツンと突っつかれた。
「あ、えっと…」
「秦くんって、名前なーに?」
「あ、直光…」
「なおき、くんね!あんがとぉ!よろしくね!」
近くで見るとより花柳は目をキラキラとさせているように感じた。申し訳ないが別に顔は普通だ。イケメンのような整ってる感じも、万人受けする可愛らしい感じもなく、いわゆる平凡って感じだ。だが俺の心にはどストライクだったのかもしれない。守りたいって思うし、誰よりも仲良く…友達じゃなくて親友ポジションを狙いたいと心底思っている。
今日はとりあえず授業を受けて勉強が前の学校とどれくらい違っているのかを調べるみたいだ。場合によっては花柳がいた学校はここより遅れているから補修を受けなきゃいけないってことだ。
そして現在は放課後。ある程度授業の遅れがないことが分かったので『席が近くて既に仲良さげに見えたから』という理由で俺が花柳に学校案内をすることになった。とは言ってもあんまり田舎と変わらないだろ…と思っていたが、
「なぁ秦くん、オレあんまり都会の学校とか知らんくて…」
「え?学校の造りとかか?流石に田舎と変わんないだろ?」
「ちがうねん!オレがいた学校はこんな広くなかったし2階までしかなかったから!なんで4階もあってこんなに広いのか分からんねん…何を詰め込んでるん……?」
「あー……」
どうやら花柳がいたところは小学校も中学校も全校生徒が100人いくかどうかと言われるぐらい子供の数が少なく、立地も悪いことから転校してしまう子ばかりだし、都会から結構離れているから都会の情報も知らずにここに来たって訳だそうだ。
「え、てか花柳一人で来たの?」
「そーやで!かーちゃんは着物作る人なんやけど、持病があって身体が悪いゆーから自然に囲まれたところの方が良いって言われたし、とーちゃんは畑やんなきゃいけんからオレ一人やで…」
「…寂しい、とかは?」
「……わがまま言っちゃあかんって思ってるから大丈夫やで…てかてか!学校案内してや!こんなに広いんじゃ一日で覚えられへんって!」
なんだか花柳の家庭環境が見えた気がした。
たった一人で来るにしては距離も場所も悪すぎる。この学校は結構色んなところから来る人がいるため、高校では珍しく寮も置いてあるがそれでもだ。衣食住が高校側で提供されていても突然一人暮らしなんて…しかも頼れる家族が近くにいないってのはものすごく辛いことだろうな。
その日は花柳とずっと一緒に行動していた。
花柳は身長が少し低いようで、俺が188cmに対して花柳は170cm。平均身長だが俺を含めたこの学年の男子は意外と高身長が多いため、必然的に花柳が小さく見える。学校案内をしている時に視界の右下の方でぴょこぴょこと花柳のくせっ毛が動いているのが可愛らしくて思わず頭を撫でてしまった時に…
「んぇ?秦くんどしたん?なオレの頭になんか付いてた?」
「あ、あぁ。ほこりがな……」
頭を抑えて俺と目を合わせて話してくれるが、必ず上目遣いになるから可愛くて仕方がない。瞳は丸みがあって、ほっぺは柔らかそうで、指は細いが手全体は少し小さい、腕も腰も足も細いから心配になってしまう。ちゃんとご飯食べてるだろうか……と考えたところで
「あ、そういえば昼飯なんだが…」
と話し始めると花柳がこちらを振り返って、
「ご飯!!!!」
と、これまた目をまん丸にしてキラキラさせてきたから思わず天を仰いだ。しかも俺の制服を少し掴んで前のめりに食らいついたのも点が高い。…何だこの可愛いやつは……この世界に存在していいのか…?本当に男子なのか…???
「ぁ、っと…昼飯は弁当を持ってきてもいいし、購買もあるんだけど、運動部に入ると利用できる学食もあるんだ」
「学食!それって何があるの!?」
「例えばラーメンとかカツ丼とか、結構ガッツリめの食事だな。食券を買って受付で渡すと数分で熱々のご飯が食べられる」
「熱々の……ラーメン…!!!!」
目を大きく開いてキラキラと瞳に映る光を輝かせている花柳。しかも上目遣い付きという神オプションのせいで俺の心は限界値を迎えている。
だが少しずつ花柳の表情が曇っている。
「花柳?どうした?」
「…オレ、さっきも言ったけど、かーちゃんが持病持ちだからそっちでお金使うって言われてさ。仕送りとか、無いんだ…それに、こんな知らない土地でバイトを始めても慣れないままクビになるかもって……それで…」
「昼代とかにお金使いたくないんか…」
たしかに学食とはいえ、幾分か豪華なものが食べられるからそれなりに金がかかる。購買にしろ自炊にしろ。どうやら入学金と引越し費用は親戚が出してくれたようだがここから先は今まで使わなかったお年玉でやりくりしないとらしい。最悪バイトを見つける、とも言っていた。
ウチの高校は特にバイト禁止という決まりもなく、申請すれば基本どこでも働ける。しかしバイト時間のせいで勉学が疎かになってしまえばバイトを辞めなければならない。
『食事を我慢してなんとか生きる』か『慣れないバイトをして生きる』か。俺なら間違いなく後者を選ぶが、花柳にとってそれは未知なる挑戦に過ぎない。
(……今が花柳に漬け込む最高の場面じゃ!?)
頭の中で悪魔が囁く。たしかにここで俺が助け舟を出せば花柳は俺にべったりになる。しかも簡単には切れない関係になるから花柳にとって俺は友達以上になるのではないだろうか……
「…なぁ花柳」
「んぁ、どしたーの秦くん?」
「生活苦しいなら、俺と一緒に住むか?」
「…んぇ?」
苗字にも名前にも花を意味する漢字が入っている、名前だけ見れば可憐な女の子を想像するが、教壇に立っている花柳彩華は明るい活発な男子高校生だ。本人が言っていたように、田舎の方で長いこと育ったであろう名残りが言葉に色濃く残っていた。
「よーし、じゃあ花柳の席は秦の後ろなー。真ん中の一席だけ空いてる所に座ってくれな」
「はいっ!ありがとうございます!」
そうして花柳は俺の後ろの席になった。生まれて初めて秦の苗字に感謝した瞬間であった。花柳が俺の横を通った時にふわりと優しい花の香りがした。洗濯に使っている柔軟剤か何かだと思うが男にしては随分優しくて可愛らしい香りだ。そのまま俺の後ろに座ったと思ったら背中をツンツンと突っつかれた。
「あ、えっと…」
「秦くんって、名前なーに?」
「あ、直光…」
「なおき、くんね!あんがとぉ!よろしくね!」
近くで見るとより花柳は目をキラキラとさせているように感じた。申し訳ないが別に顔は普通だ。イケメンのような整ってる感じも、万人受けする可愛らしい感じもなく、いわゆる平凡って感じだ。だが俺の心にはどストライクだったのかもしれない。守りたいって思うし、誰よりも仲良く…友達じゃなくて親友ポジションを狙いたいと心底思っている。
今日はとりあえず授業を受けて勉強が前の学校とどれくらい違っているのかを調べるみたいだ。場合によっては花柳がいた学校はここより遅れているから補修を受けなきゃいけないってことだ。
そして現在は放課後。ある程度授業の遅れがないことが分かったので『席が近くて既に仲良さげに見えたから』という理由で俺が花柳に学校案内をすることになった。とは言ってもあんまり田舎と変わらないだろ…と思っていたが、
「なぁ秦くん、オレあんまり都会の学校とか知らんくて…」
「え?学校の造りとかか?流石に田舎と変わんないだろ?」
「ちがうねん!オレがいた学校はこんな広くなかったし2階までしかなかったから!なんで4階もあってこんなに広いのか分からんねん…何を詰め込んでるん……?」
「あー……」
どうやら花柳がいたところは小学校も中学校も全校生徒が100人いくかどうかと言われるぐらい子供の数が少なく、立地も悪いことから転校してしまう子ばかりだし、都会から結構離れているから都会の情報も知らずにここに来たって訳だそうだ。
「え、てか花柳一人で来たの?」
「そーやで!かーちゃんは着物作る人なんやけど、持病があって身体が悪いゆーから自然に囲まれたところの方が良いって言われたし、とーちゃんは畑やんなきゃいけんからオレ一人やで…」
「…寂しい、とかは?」
「……わがまま言っちゃあかんって思ってるから大丈夫やで…てかてか!学校案内してや!こんなに広いんじゃ一日で覚えられへんって!」
なんだか花柳の家庭環境が見えた気がした。
たった一人で来るにしては距離も場所も悪すぎる。この学校は結構色んなところから来る人がいるため、高校では珍しく寮も置いてあるがそれでもだ。衣食住が高校側で提供されていても突然一人暮らしなんて…しかも頼れる家族が近くにいないってのはものすごく辛いことだろうな。
その日は花柳とずっと一緒に行動していた。
花柳は身長が少し低いようで、俺が188cmに対して花柳は170cm。平均身長だが俺を含めたこの学年の男子は意外と高身長が多いため、必然的に花柳が小さく見える。学校案内をしている時に視界の右下の方でぴょこぴょこと花柳のくせっ毛が動いているのが可愛らしくて思わず頭を撫でてしまった時に…
「んぇ?秦くんどしたん?なオレの頭になんか付いてた?」
「あ、あぁ。ほこりがな……」
頭を抑えて俺と目を合わせて話してくれるが、必ず上目遣いになるから可愛くて仕方がない。瞳は丸みがあって、ほっぺは柔らかそうで、指は細いが手全体は少し小さい、腕も腰も足も細いから心配になってしまう。ちゃんとご飯食べてるだろうか……と考えたところで
「あ、そういえば昼飯なんだが…」
と話し始めると花柳がこちらを振り返って、
「ご飯!!!!」
と、これまた目をまん丸にしてキラキラさせてきたから思わず天を仰いだ。しかも俺の制服を少し掴んで前のめりに食らいついたのも点が高い。…何だこの可愛いやつは……この世界に存在していいのか…?本当に男子なのか…???
「ぁ、っと…昼飯は弁当を持ってきてもいいし、購買もあるんだけど、運動部に入ると利用できる学食もあるんだ」
「学食!それって何があるの!?」
「例えばラーメンとかカツ丼とか、結構ガッツリめの食事だな。食券を買って受付で渡すと数分で熱々のご飯が食べられる」
「熱々の……ラーメン…!!!!」
目を大きく開いてキラキラと瞳に映る光を輝かせている花柳。しかも上目遣い付きという神オプションのせいで俺の心は限界値を迎えている。
だが少しずつ花柳の表情が曇っている。
「花柳?どうした?」
「…オレ、さっきも言ったけど、かーちゃんが持病持ちだからそっちでお金使うって言われてさ。仕送りとか、無いんだ…それに、こんな知らない土地でバイトを始めても慣れないままクビになるかもって……それで…」
「昼代とかにお金使いたくないんか…」
たしかに学食とはいえ、幾分か豪華なものが食べられるからそれなりに金がかかる。購買にしろ自炊にしろ。どうやら入学金と引越し費用は親戚が出してくれたようだがここから先は今まで使わなかったお年玉でやりくりしないとらしい。最悪バイトを見つける、とも言っていた。
ウチの高校は特にバイト禁止という決まりもなく、申請すれば基本どこでも働ける。しかしバイト時間のせいで勉学が疎かになってしまえばバイトを辞めなければならない。
『食事を我慢してなんとか生きる』か『慣れないバイトをして生きる』か。俺なら間違いなく後者を選ぶが、花柳にとってそれは未知なる挑戦に過ぎない。
(……今が花柳に漬け込む最高の場面じゃ!?)
頭の中で悪魔が囁く。たしかにここで俺が助け舟を出せば花柳は俺にべったりになる。しかも簡単には切れない関係になるから花柳にとって俺は友達以上になるのではないだろうか……
「…なぁ花柳」
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「…んぇ?」
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