君との距離の単位はkm(キロメートル)

Аубан

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4.お風呂と寝具

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「ひ、一人で…入れない!?!?」

「ん、ゃ……入れない…ことはない……けど…」

「え?待って待ってよ……今まで誰と入ってたの…?」

「おとうと…」


 なぜ俺が困惑しているのか、なぜこんな会話が繰り広げられて花柳が涙目になっているのか。

 それは数分前まで遡る─────




 花柳が作ったシンプルだが栄養満点の夕飯を食べて腹も膨れた頃、眠くなる前に風呂に入ろうとした時である。一番風呂は花柳にあげようと思った俺はゆらゆらと船を漕いでいるように眠そうな花柳に声をかけた。


「花柳、お風呂入っちゃいな。一番風呂あげるよ」


 この言葉を聞いたらほとんどの人は「やった!ありがと!」または「いやー家主が先でいいよ~」の2択だろう。しかし眠そうだった花柳は、バッ!と俺の服を掴んでぷるぷる震えていた。ちなみに花柳は座っていて俺は立っている。上目遣い待ったなし展開であった


「は、花柳?どうした?」

「ぁ…あんね、オレね……そのぉ…」


 歯切れの悪い返事をする花柳。いつもなら目を真ん丸にしてキラキラ輝かせながら自信満々に返事をするからなかなか見れない表情に見とれていたが、次第に花柳の目に涙が浮かんできたので驚いた。


「は、花柳!?本当にどうした!?」

「オレ…おれぇ…っ!」







「ひ、一人でおふろ、入れないのぉ!!!」


 そして冒頭に戻る、というわけだ。





「え、待ってくれ花柳…えーっと、何から聞こうか……」

「ぁ、あんね、オレ…秦くんのこといっぱい信頼してるし!信用もしてるから!」

「ああっと、いや、まぁそれは嬉しいけど…その…な?男子高校生が素っ裸で2人っきりってのもアレというか俺の理性が切れると言うか………」


 花柳は同性でも素っ裸でもあまり気にしないらしい。そりゃ高校生になるまで弟と一緒に入浴してたなら気にしないのかもしれないが……こちとら初恋なんだがなぁ…と葛藤している。特に見られて恥ずかしいってわけじゃなくて花柳の裸を見るのが恥ずかしいってだけだ。前にも思ったが、顔は特に可愛いらしいとか、美形顔とかじゃなく、いわゆる平凡顔だ。

 だが細い。男とは思えないぐらい華奢な体つきをしている。多分栄養満点な食事と自然の中で育ったってのもあって太らない生活をしていたんだろうな…と思っている。折れそうな腕や細くて綺麗な指を見る度に理性が焼き切れていく音が聞こえてくる…気がする……


「は、秦くん…?」

「あ゙、いや…大丈夫だ。じ、じゃあ…一緒に、入る……か…」

「ほんとぉ!?ありがとぉ!!えへへ、やっぱり秦くんは優しいなぁ~!大好きだぁ!!」


    俺が一緒に入ろうと言えば頬を赤く染めて、その頬を隠すように手で抑えてから俺に飛びついてきた。


『大好きだぁ!!』って…………うん、可愛いなこいつ。






「い~いゆ~だ~なっ!あははんっ!」

「あ~~やっぱ風呂は良いよなぁ……」

「んね!おふろ気持ちい~!しかもタイルのおふろって、オレの家と同じだから嬉しい!えへへ~」


 拝啓、海外出張中の両親。俺は今、初恋の子を前に抱えながら風呂に入っています。どういうことか分かりますか?

 花柳が俺に抱きついて胸元でくふくふ笑っています。


「は、花柳。湯加減はどうだ?逆上せるかもって思ったらすぐに言えよ?」

「うん!でもまだ大丈夫ぅ~!ってか、秦くんっておなか割れてるんやなぁ!運動部だったん?何部だったん?」

「バスケ部、一応キャプテンな」

「バスケ部…キャプテン…!!むっちゃカッコイイやつやん!ぁ…その、女の子からモテモテだったんちゃう?」

「まぁ、人並みに持てたのかなぁ…告白も多かったし」

「……誰かと付き合ったりしたん?」

「いや、恋愛にうつつを抜かすほど暇じゃなかったし、高校生になってから作ろうかなーとは思ってる」

「そ、そっかぁ………」


 どうしたどうしたどうした。なんで俺の恋愛事情に突っ込んできて若干安心しているんだ。期待するぞ俺は。童貞だから恋愛初心者だぞ、期待するぞその眼差しと声色は…!!
 そのまま俺は花柳が逆上せるまで質問に答えた。
 両親はどんな人か、兄弟はいるのか、今までに女の子と仲良かったのか。次々に答えていると次第に花柳の顔が真っ赤になってふらふらし始めたから慌てて風呂から出て水を飲ませたり扇風機の風で何とか身体を冷やして布団に寝かせた。


「…んぅ、あ……あれ?」

「よ、気分はどうだ?頭とか痛くないか?」

「んぁ……だいじょうぶだぁ……ご、ごめんなさい……」

「大丈夫だって。またいつでも質問してくれれば答えるよ」


 人の家に引っ越してきた初日で逆上せたせいか、いつもよりずっと落ち込んで布団を口元まで隠している。その姿も可愛い。


「さーーて、俺も寝るかな。ちょっと端に寄ってくれ」

「あっ…んぅ…ごめんなさぃ……」

「大丈夫だって。ほら…泣くともっと頭痛くなるぞ~」


    こうして花柳と同じシングルサイズの布団に入って一夜を過ごす俺だが、花柳は逆上せてしまった時からずっとうるうると涙を浮かべては、いつの間にかポロポロと泣いている。何度も頭を撫でては「気にしなくて大丈夫だ」とか「はしゃぐぐらい居心地がいいなら嬉しいよ」とか、優しく声をかけても涙は止まってくれない。どうしようか……と悩んでいたら花柳は俺の寝間着をぎゅっと掴んできた。


「花柳?そのまま掴んでると、ぎゅーって抱きしめるぞ?」

「…グスッ」

「…今は逆に至近距離でそぱにいた方がいいか」


    俺は花柳をぎゅっと優しく抱きしめて後頭部を撫でてやると、もぞもぞと花柳が布団から顔を出してくれた。しかし、ぴょこっと顔が見えた時の距離が…俺と花柳の鼻が当たるぐらい近いのだ。なんならちょっと当たってる………そしてまたもや上目遣い………これは、可愛い以外の言葉が見つからない、いわゆる語彙力の低下と言うやつだろうか。それでも花柳は俺を見つめたあと、俺の胸元に顔を埋めて寝てしまった。

    よく眠れているならいいけど………


「…かぁんわいぃぃぃ………」







    翌朝、花柳の寝相のせいで俺が大パニックになることは、まだ誰も知らない。
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