9 / 31
第九話
しおりを挟む
ルーチェが連れてきたご令嬢。エルピス伯爵家は確か、農作物がよく取れるはずです。何度か皇族が降嫁していますので、遠い親戚とも言えます。言えますが、親戚だろうと初対面の方なので無理です。怖いです。なんで連れてきたんですかぁ……。
「それで、どうしたんだ」
「あのバカを片付けるのに協力してもらおうかと思いまして」
もう名前すら呼ばれないヴェルメリオ様は少し可哀想です。それだけのことをしたので、自業自得とも言えますけれど。それにしても、バカで皇族に覚えられるのは不名誉にも程がありますね。……バカと言われて分かってしまう私、かなり失礼なのでは? でも、仕方ないと言えば仕方ないです。だって、ルーチェが「バカ」と言う方はヴェルメリオ様くらいなんです。分からない方がおかしいと言いますか、分からなければダメと言いますか。
「伯爵令嬢に?」
「エルピス伯爵家は昔から皇家に仕えていますし、何度か皇族が降嫁もしています」
「だからと言ってこちらの事情に巻き込むわけにはいかないだろう。信用できるかも分からない」
お兄様のお考えはもっとも。けれどルーチェがそういうことを考えずに連れてきているとは思えません。エルピス伯爵令嬢に何か利用価値があるか、契約でもしているのか……。ヴェルメリオ様たちの方に行かれては困るからこちら側に引き入れたいと言う理由ではなさそうです。エルピス伯爵家を敵に回すのは痛手ですが、注目する程ではないです。皇族の降嫁も、最後にあったのは十五代程前の皇帝陛下の時代なため、皇族の血筋だからと反乱を起こされる心配もない。エルピス伯爵家にそれ程の武力はありませんから。
「私が保証します」
「エルピス伯爵令嬢を信用する根拠は」
「勘、ではダメですか?」
ルーチェにしては、曖昧な答えですね。いつもならばこういう利点がある、こんな風に役に立つなど細かなことを言うのに。エルビス伯爵令嬢に、それほどのものがあるのでしょうか。
「…………彼女は【精霊の愛し子】です」
……それが本当ならば、報告がないのは不自然では?
【精霊の愛し子】。自然の長とも言える精霊たちが寵愛する人物のことです。生まれてすぐに精霊たちの寵愛を受ける人もいれば、生まれてから普段の生活の中で精霊たちの寵愛を受けることになる人もいます。全ては精霊の気まぐれ。その中でも、異なる属性の精霊たちの寵愛を受ける方を【精霊の愛し子】と呼びます。精霊たちに付きまとわれてる、とも言えますが。
「どうやって知った? 普通は視えないはずだが」
「魔力が多いことが気になって、先ほど軽く確認しました」
……確かに魔力は多いですが、ルーチェはそういう精密系は苦手だったはず。ポカがありそうで怖いですが、もし本当ならかなりですよ。【精霊の愛し子】はそうそう現れませんから。けれど、確かにエルピス伯爵令嬢の周りに精霊が多いですね。
「お兄様、信用してよろしいかと」
これだけ多くの精霊がいるのなら、違法薬物などで精霊たちを惑わしていない限りは大丈夫です。ルーチェが連れてきたのなら大丈夫でしょうし、エルピス伯爵令嬢がもしそんなことをしているのなら、ここには来ないでしょう。
「……二人がそう言うのならそうなのだろうな」
まぁ、それはそれとして、とても逃げ出したい気分なのですが、逃げ帰ってもいいでしょうか。頑張りました。私頑張った方ですよ。もう城に帰りたいです。
「さすがにこれ以上は泣きそうね。アイト、エルピス伯爵令嬢を送ってあげなさい」
「ご令嬢、こちらです」
エルピス伯爵令嬢はアイト卿が着いていくので心配はないですね。そしてもういいですか? そろそろ限界です。
人といるのが苦手。我慢すればいいだけではありますが、我慢しすぎると気持ち悪くなってしまう。本当に、我ながら厄介なものを抱えたものです。昔はルーチェたちと居るだけでも時折吐いてしまって、この度に困らせてしまいました。
「……ごめんなさぃ」
「大丈夫よ。頑張ったわね」
ルーチェもシグニも、私の事情を知る人は皆、誰も責めてきません。何故我慢できないのか、何故そう弱いのか。内心皆そう思っているのかもしれない。それがとても怖い。知りたくない。それなのに、その人のことを全て知らなければ信用できない自分がいる。なんとも矛盾しているコレを、打ち明けられたらどれ程楽になるのでしょう。
「大丈夫ですか」
「……だぃ、じょうぶです。すみません」
皆がどれ程優しく接してくれても、私はそれを信用できない。きっと、ルーチェたちは笑顔で許してくれるのでしょう。けど、それがとても苦しいのです。いっそのこと、私のことをぞんざいに扱って、いない者として扱ってくれた方が、楽なのではと思ってしまう。
……あぁ、ダメですね。少し崩れるとボロボロと崩れてしまう。ゆっくりと深呼吸をしながら目を閉じる。そうすれば、自分を隠すための箱ができます。大丈夫です。コレはルーチェたちには見せない。大丈夫です。箱に入れて、蓋を閉じる。そうすれば、
「……心配かけてしまってすみません。もう大丈夫です」
ほら、ちゃんと笑えているでしょう?
「それで、どうしたんだ」
「あのバカを片付けるのに協力してもらおうかと思いまして」
もう名前すら呼ばれないヴェルメリオ様は少し可哀想です。それだけのことをしたので、自業自得とも言えますけれど。それにしても、バカで皇族に覚えられるのは不名誉にも程がありますね。……バカと言われて分かってしまう私、かなり失礼なのでは? でも、仕方ないと言えば仕方ないです。だって、ルーチェが「バカ」と言う方はヴェルメリオ様くらいなんです。分からない方がおかしいと言いますか、分からなければダメと言いますか。
「伯爵令嬢に?」
「エルピス伯爵家は昔から皇家に仕えていますし、何度か皇族が降嫁もしています」
「だからと言ってこちらの事情に巻き込むわけにはいかないだろう。信用できるかも分からない」
お兄様のお考えはもっとも。けれどルーチェがそういうことを考えずに連れてきているとは思えません。エルピス伯爵令嬢に何か利用価値があるか、契約でもしているのか……。ヴェルメリオ様たちの方に行かれては困るからこちら側に引き入れたいと言う理由ではなさそうです。エルピス伯爵家を敵に回すのは痛手ですが、注目する程ではないです。皇族の降嫁も、最後にあったのは十五代程前の皇帝陛下の時代なため、皇族の血筋だからと反乱を起こされる心配もない。エルピス伯爵家にそれ程の武力はありませんから。
「私が保証します」
「エルピス伯爵令嬢を信用する根拠は」
「勘、ではダメですか?」
ルーチェにしては、曖昧な答えですね。いつもならばこういう利点がある、こんな風に役に立つなど細かなことを言うのに。エルビス伯爵令嬢に、それほどのものがあるのでしょうか。
「…………彼女は【精霊の愛し子】です」
……それが本当ならば、報告がないのは不自然では?
【精霊の愛し子】。自然の長とも言える精霊たちが寵愛する人物のことです。生まれてすぐに精霊たちの寵愛を受ける人もいれば、生まれてから普段の生活の中で精霊たちの寵愛を受けることになる人もいます。全ては精霊の気まぐれ。その中でも、異なる属性の精霊たちの寵愛を受ける方を【精霊の愛し子】と呼びます。精霊たちに付きまとわれてる、とも言えますが。
「どうやって知った? 普通は視えないはずだが」
「魔力が多いことが気になって、先ほど軽く確認しました」
……確かに魔力は多いですが、ルーチェはそういう精密系は苦手だったはず。ポカがありそうで怖いですが、もし本当ならかなりですよ。【精霊の愛し子】はそうそう現れませんから。けれど、確かにエルピス伯爵令嬢の周りに精霊が多いですね。
「お兄様、信用してよろしいかと」
これだけ多くの精霊がいるのなら、違法薬物などで精霊たちを惑わしていない限りは大丈夫です。ルーチェが連れてきたのなら大丈夫でしょうし、エルピス伯爵令嬢がもしそんなことをしているのなら、ここには来ないでしょう。
「……二人がそう言うのならそうなのだろうな」
まぁ、それはそれとして、とても逃げ出したい気分なのですが、逃げ帰ってもいいでしょうか。頑張りました。私頑張った方ですよ。もう城に帰りたいです。
「さすがにこれ以上は泣きそうね。アイト、エルピス伯爵令嬢を送ってあげなさい」
「ご令嬢、こちらです」
エルピス伯爵令嬢はアイト卿が着いていくので心配はないですね。そしてもういいですか? そろそろ限界です。
人といるのが苦手。我慢すればいいだけではありますが、我慢しすぎると気持ち悪くなってしまう。本当に、我ながら厄介なものを抱えたものです。昔はルーチェたちと居るだけでも時折吐いてしまって、この度に困らせてしまいました。
「……ごめんなさぃ」
「大丈夫よ。頑張ったわね」
ルーチェもシグニも、私の事情を知る人は皆、誰も責めてきません。何故我慢できないのか、何故そう弱いのか。内心皆そう思っているのかもしれない。それがとても怖い。知りたくない。それなのに、その人のことを全て知らなければ信用できない自分がいる。なんとも矛盾しているコレを、打ち明けられたらどれ程楽になるのでしょう。
「大丈夫ですか」
「……だぃ、じょうぶです。すみません」
皆がどれ程優しく接してくれても、私はそれを信用できない。きっと、ルーチェたちは笑顔で許してくれるのでしょう。けど、それがとても苦しいのです。いっそのこと、私のことをぞんざいに扱って、いない者として扱ってくれた方が、楽なのではと思ってしまう。
……あぁ、ダメですね。少し崩れるとボロボロと崩れてしまう。ゆっくりと深呼吸をしながら目を閉じる。そうすれば、自分を隠すための箱ができます。大丈夫です。コレはルーチェたちには見せない。大丈夫です。箱に入れて、蓋を閉じる。そうすれば、
「……心配かけてしまってすみません。もう大丈夫です」
ほら、ちゃんと笑えているでしょう?
1
あなたにおすすめの小説
一途に愛した1周目は殺されて終わったので、2周目は王子様を嫌いたいのに、なぜか婚約者がヤンデレ化して離してくれません!
夢咲 アメ
恋愛
「君の愛が煩わしいんだ」
婚約者である王太子の冷たい言葉に、私の心は砕け散った。
それから間もなく、私は謎の襲撃者に命を奪われ死んだ――はずだった。
死の間際に見えたのは、絶望に顔を歪ませ、私の名を叫びながら駆け寄る彼の姿。
……けれど、次に目を覚ました時、私は18歳の自分に戻っていた。
「今世こそ、彼を愛するのを辞めよう」
そう決意して距離を置く私。しかし、1周目であれほど冷酷だった彼は、なぜか焦ったように私を追いかけ、甘い言葉で縛り付けようとしてきて……?
「どこへ行くつもり? 君が愛してくれるまで、僕は君を離さないよ」
不器用すぎて愛を間違えたヤンデレ王子×今世こそ静かに暮らしたい令嬢。
死から始まる、執着愛の二周目が幕を開ける!
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。
倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。
でも、ヒロイン(転生者)がひどい!
彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉
シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり!
私は私の望むままに生きます!!
本編+番外編3作で、40000文字くらいです。
⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。
悪役令嬢に転生したけど、知らぬ間にバッドエンド回避してました
神村結美
恋愛
クローデット・アルトー公爵令嬢は、お菓子が大好きで、他の令嬢達のように宝石やドレスに興味はない。
5歳の第一王子の婚約者選定のお茶会に参加した時も目的は王子ではなく、お菓子だった。そんな彼女は肌荒れや体型から人々に醜いと思われていた。
お茶会後に、第一王子の婚約者が侯爵令嬢が決まり、クローデットは幼馴染のエルネスト・ジュリオ公爵子息との婚約が決まる。
その後、クローデットは体調を崩して寝込み、目覚めた時には前世の記憶を思い出し、前世でハマった乙女ゲームの世界の悪役令嬢に転生している事に気づく。
でも、クローデットは第一王子の婚約者ではない。
すでにゲームの設定とは違う状況である。それならゲームの事は気にしなくても大丈夫……?
悪役令嬢が気付かない内にバッドエンドを回避していたお話しです。
※溺れるような描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
※少し設定が緩いところがあるかもしれません。
ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する
ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。
皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。
ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。
なんとか成敗してみたい。
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる