【書籍化予定】どこからが浮気になるんだ?と、旦那様はおっしゃいました。

iBuKi

文字の大きさ
11 / 38

11 アンドレ・ヘルグレーンという男。 4

アンドレは、堅物である。
母が亡くなってから二年、父や家令はおろか己すら忘れていたが、清い身であった。

イルヴァとの婚約を成立させ、逸る気持ちのアンドレを応援するかの様に、父は婚約期間を三ヶ月とした。

実はもうだいぶイルヴァの魅力にやられているアンドレは「夜の女神の美貌と、清らかな聖女の様な純真さ、頭脳明晰なイルヴァが、あの令嬢の様な愚かな振る舞いをするとは微塵も思わないが」とイルヴァを女神の様に崇める頭の中で、それでもやはりトラウマになっていたのか、婚約期間を通常の1年間にされ、長い我慢をさせられる事は嫌だった。

しつこいようだが、アンドレは清い身である。
三ヶ月という上位貴族では考えられない婚約期間中の今からでも駆け足で閨教育を・・・
とはならなかった。

成人している令息ならとっくに済ませていてもおかしくなかった閨教育を、一切何もしていない純粋培養のアンドレ。
その事にようやく気付いた家令の指摘で、思い出した公爵が慌ててアンドレに閨教育を打診した。

「父上、ご心配にはお呼びません。閨教育に関しては書物のみで学びたいと思います。実施での教育などや睦み合う者達を見て学ぶなどの教育は、今更必要ありません。私は、イルヴァと二人で学んでいきますので。」

それもそうか、もう婚約者の居る身なのだ。
裸の女性を見るのも触れ合うのも、これだけイルヴァを大切にしているアンドレにはこだわりがあるのだろう。
そう公爵は思い、閨教育は女性の身体が部位別に詳細に描かれた薄い本と、閨に関しての手順や作法などが事細かに記載された分厚い本、その2冊でアンドレの閨教育は修了した。

――――それが良かったのか悪かったのか。

アンドレは思った。夜の女神がベッドの前で立ち尽くしている・・・と。
室内をほんのり照らす淡い室内灯で、部屋の中は妙な雰囲気が醸し出され、この時間が何をする時間であるかを、意識させられる。

「「・・・・・」」
お互いにかける言葉が見つからず、無言のまま見つめ合う。


動き出したのはアンドレだった。
立ち尽くしていた扉前から進み、カチリと静かに扉を閉めると、ベッドの前で立ち尽くすイルヴァに素早く近付きそっと抱き締めた。

イルヴァの柔らかな身体を感じる。
抱き締めた時から微かに震えていたイルヴァが、背中に腕を回してきたのを感じて、アンドレも緊張した。
そのままアンドレはイルヴァの顎に手を添えて、伏せられた顔を上向かせる。
恥じらう様子が初々しい。

ふとイルヴァの目元の隈に気付いた。
三ヶ月という短い婚約期間、婚姻の準備期間でもあった。
王城での仕事が多く忙しいアンドレを気遣い、細々とした準備に対する指示や招待状などの采配、披露宴で振る舞われる料理やお酒などの手配まで、殆どイルヴァが担ってくれていた。

イルヴァの提案で、披露宴に招待した貴族が帰宅する際にちょっとしたプレゼントと手書きのメッセージカードを渡したそうだ。
まだ宴は続いてるだろうが、使用人の話によれば早めに帰った貴族にはもう渡したそうで、反応も悪くなかったと聞いた。

腕の中でもぞもぞとイルヴァが動く。

考え事をしながらイルヴァの隈を指先でずっと撫でていたらしい。
熟れた苺の様な赤い顔になったイルヴァに気付き、慌てて手をおろす。
抱擁を一度解いて身体を離し、イルヴァの手を繋ぎベッドに誘導した。

横になったイルヴァの横に身体を滑り込ませ、
「今日はとても疲れているだろうから、このまま眠ろう。初夜だけど、何も行為をすることだけが夫婦ではない。まだ婚約から3ヶ月の私達は、お互いに知らないことも多いだろう。ゆっくり進めて行きたい。ゆくゆくは愛し愛される夫婦になりたいのだよ。」
と、イルヴァを引き寄せてギュッと抱き締めた。
「はい・・・」
小さくイルヴァは返事をした。

イルヴァの長く艷やかな髪をそっと梳いた。
サラサラと手触りがよく、梳かす度にイルヴァの花の様な香りが鼻をくすぐってたまらない気持ちになる。

「私と同じ黒髪でも、君の方の髪の方が青みがかっていて艷やかで綺麗だな。」
モヤモヤとする経験した事のない気分を逸らすように話す。

「ありがとうございます。もっと髪の手入れも頑張りますね。」
腕の中のイルヴァは嬉しそうにフフっと笑った。

胸に頬を擦り寄せるイルヴァに心が温かくなりながら、目を閉じた。
何も急ぐことはない、私達には時間がたっぷりあるのだから。
アンドレはそう思った。

あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 「子供の親権も放棄しろ!」と言われてイリスは戸惑うことばかりで、どうすればいいのか分からなくて混乱した。

異世界に逃げたシングルマザー経理は、定時退勤だけは譲れない

木風
恋愛
DV夫から一歳の娘を抱えて逃げた鈴木優子は、光に飲まれて異世界の王宮へ転移してしまう。 生きるために差し出した武器は簿記と経理経験――崩壊寸前の王宮会計を『複式簿記』で立て直すことに。 ただし譲れない条件はひとつ、「午後五時の定時退勤」。娘の迎えが最優先だからだ。 その姿勢に、なぜか若き国王ヴィクトルが毎日経理室へ通い始めて――仕事と子育ての先に、家族の形が芽吹いていく。

【完結】旦那は堂々と不倫行為をするようになったのですが離婚もさせてくれないので、王子とお父様を味方につけました

よどら文鳥
恋愛
 ルーンブレイス国の国家予算に匹敵するほどの資産を持つハイマーネ家のソフィア令嬢は、サーヴィン=アウトロ男爵と恋愛結婚をした。  ソフィアは幸せな人生を送っていけると思っていたのだが、とある日サーヴィンの不倫行為が発覚した。それも一度や二度ではなかった。  ソフィアの気持ちは既に冷めていたため離婚を切り出すも、サーヴィンは立場を理由に認めようとしない。  更にサーヴィンは第二夫妻候補としてラランカという愛人を連れてくる。  再度離婚を申し立てようとするが、ソフィアの財閥と金だけを理由にして一向に離婚を認めようとしなかった。  ソフィアは家から飛び出しピンチになるが、救世主が現れる。  後に全ての成り行きを話し、ロミオ=ルーンブレイス第一王子を味方につけ、更にソフィアの父をも味方につけた。  ソフィアが想定していなかったほどの制裁が始まる。

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。