12 / 38
12 アンドレ・ヘルグレーンという男。 5
婚姻後、アンドレは本格的に公爵である父親の補佐を本格的にすることになった。
後継として書類の処理だけでなく、実務経験を積ませることにしたのだ。
アンドレは能力は高いのだが、圧倒的に経験が少ない。
妻も娶ったことだ、もっとしっかりして貰わねば。
男である公爵は、新婚の甘い時間を長引かせる事をそれほど重要視しなかった。
長い婚約期間を経てという結婚でなら、甘い新婚時間にそこまで時間を割かずとも問題もなかっただろうが、異例のスピード婚の三ヶ月では、互いの事などじっくり知りようもない。
イルヴァは嫁いで来た側だ。夫との関係の不安と婚家との不安もあった。
そういった不安に、男である公爵が疎く気を回せないのは、仕方が無いのかも知れないが。
一週間程の休みの後アンドレは本格的に仕事に忙殺されることになる。
一週間の間、イルヴァを共に連れて夫婦としての夜会の参加しワルツを踊ったりした。
毎日昼間はお茶を共にし、甘いお菓子の感想と他愛のない話をする。
夜は寝る直前に一緒にハーブティーを飲み静か時間を過ごし、その後共に同じベッドで眠った。
朝食を共にし、日課になりつつある朝の散歩に婚約関係の頃の様に庭を散策する。
二人の心の距離はどんどん近づいていった。
イルヴァが「毎日が夢の様に幸せ」と言う。
アンドレも「同じ気持ちだよ、イルヴァ」と返した。
男であるアンドレはこの幸せがずっと続くと短絡的に思っている。
女であるイルヴァは幸せだから不安だわ。と思っていた。
アンドレの頭は堅物であるが、実際に人と接する時などは、人当たりが良い。
穏やかな話し方から来る公爵家の嫡男というネームバリューを一切使用してこない気さくな対応は、
うっとりするアンドレの美貌も影響して人に与える効果は倍増した。
その事から、他国から来る外交官や商人などの信頼を得やすく、公爵の補佐として交渉の場にも参加する事が許される様になった。
婚姻前より更に増えた仕事と、まだ慣れぬ新しい仕事、初めてのことばかりが続く。
アンドレに余裕が無くなると、中々イルヴァを構ってあげることも難しくなってきた。
寂しそうに「いってらっしゃいませ」と見送るイルヴァを心配した頃、イルヴァが婚約時代に話していた事を思い出す。
「私は使用人とは、とても仲がいいのです。貴族からすると有り得ない話かもしれませんが、たくさんの家族の様に思っています。」
と嬉しそうに話していた。
「イルヴァも一人でここに嫁いできたけれど、やはり心細いだろう?実家の侯爵家から使用人を2名程連れてきたらいいよ。侯爵が許してくれるなら。何人でもって思うけど、それは侯爵家から非難されそうだからね。名前を教えてくれたら僕から頼んでおくよ。」
就寝前、ハーブティーを飲みながらイルヴァに提案した。
イルヴァは飛び跳ねそうに喜び、自分の世話係だった2名の名前を告げた。
翌日すぐに侯爵家へ、イルヴァの世話係をこちらで雇用し直したい旨を伝える手紙を送った。
さらに翌日には了承の手紙が届けられた。
イルヴァに提案してから三日後、公爵家へ世話係だった二人がきた。
破顔して喜ぶイルヴァは何と素敵なのだろう。
イルヴァがこんなに喜ぶのなら、初日から連れてくるべきだったなとアンドレは思った。
婚姻当初の頃の様な忙しい中にも一緒に過ごせる時間を作れる余裕が、今は無くなって来ている。
切実なイルヴァ不足に陥りそうだ。
夜遅くに湯浴みを終え、眠るイルヴァの隣に横たって自分の腕の中に引き寄せて眠れるあの瞬間だけが癒やしだった。
朝食もたまになら一緒にとったりもするが、二人だけではない空間だ。
父も居る中甘い言葉もかけたくともかけづらい。
イルヴァとたまに見つめ合い微笑み合う程度しか出来ない。
―――近くで給仕をする使用人も、アンドレの父も新婚か・・と砂糖を吐く思いでいる。気付かぬは当事者の二人ばかりなり。
イルヴァとの時間が削られる中、慣れぬ仕事に意外にも要領が掴めず手こずっていた。
捌いても捌いても終わらぬ書類は、どこからか作為的に回されてるのではないか?と苛立ちまぎれに思う。
今日も終わらず深夜遅い帰宅の予感に、アンドレは申し訳なく思っていた頃・・・
――――昔、婚約者候補だった伯爵令嬢に会った。
「アンドレ様!!」
と、大きな声で呼び掛けられ、振り向く。
顔を見るのは二年ぶりか。婚約者候補の一人で、あの令嬢だと分かった。
公爵家に対する仕打ちを覚えていないのか・・?
立ち止まるアンドレに、以前の様な気安い態度で近づいて来る。
今は城でメイドとして働いているとの事。
どこぞの侯爵子息と婚姻したのではなかったか??と疑問を持つが、興味もないので質問はしない。
「不当な理由で離縁されてしまったの・・・子供もあちらの家に取られてしまって。実家にももう帰れなくて、何か仕事をと探していたら、知人の紹介で王城のメイドとして、何とか雇って貰えてどうにかなったのよ。」
やけに悲しげな顔で聞いてもいないのにペラペラとアンドレに話してくる。
以前のアンドレなら、こういう気楽な口調に好感すら抱いていたのだが・・・
馴れ馴れしい態度も口調も、不快な思いしか浮かばない。
私はこの令嬢を婚約者に迎え、妻とする予定だったのか。
何と愚かな選択をする所だったのか。
横からかっ攫ってくれた侯爵令息に心の中で感謝を捧げた。
それはそれとして、不当な離婚か・・・子供まで取られたのは可哀想に。
母親と子は切っても切れない絆で結ばれている。
アンドレは母に厳しく育てられたが、同時にとても愛情たっぷりにも育てられた。
あれから二年だ、まだ一歳程度の赤子ではないか。
子供を取られた目の前の女よりも、子供の方に同情した。
どちらにしろ、離縁理由は不明だが、愛していた子供を取られるのは可哀想だなと同情はしても、それだけである。
「アンドレ様もご結婚されたとか・・・」
まだ続きそうな話に、仕事に忙殺されている今、一分一秒すら惜しい。
くだらない話をするなら、メイド仲間にでもすればいい。
「私には勿体ない素晴らしい人と結婚して貰えたよ。私達は新婚だというのに父の仕事で忙しくてね。ゆっくりする時間すらないのだ。・・・それでは失礼する。」
これ以上引き伸ばされては堪らないと、追いすがる様な声を無視してその場を離れた。
―――そういう事が2度、3度とタイミング悪く重なる。
話しかけられ捕まっている時間は10分程度だが、そんな偶然も回数も重なればそれなりに元婚約者候補の今の実情もわかってきた。
「アンドレ様を選んでいれば。あの時、アンドレ様の事をお慕いしていた気持ちを押し通して居れば・・・」
「アンドレ様の事を、今でもお慕いしております。私が思うだけならいいでしょうか?」
「実は・・私、今ある高貴な方に迫られておりまして・・・お断りしてもお断りしても聞いてくれなくて。アンドレ様、助けて貰えませんか?怖いんです。」
「アンドレ様、聞いて下さいませ。私がアンドレ様に付き纏いその事にアンドレ様は迷惑している。と、同僚のメイドが言うのです・・・。アンドレ様とはたまたまお会いしてお話してるだけだというのに。」
「アンドレ様の奥様ってお美しい方なんですってね。羨ましいわ、アンドレ様に愛されて。その場所は私のって思ったら泣いてしまいました。」
逢う度に「世迷い言を・・・」と失笑したくなる様な話を聞かされ、うんざりだった。
それも、城内の人目のある所に居る瞬間を狙って話しかけてくる。
話しかけられても気付かぬ様に歩き続ければ、ずっと話しかけながら追いかけてくる。
同僚の話はウソではないぞ。間違いなく付き纏っている。迷惑だと言ってやりたくなった。
「今更の話を本当に今更言われても困るだけだ。」
「思うのは構わないが、わざわざ報告などと余計な話をしてくるのであれば、迷惑だ。」
「高貴な身分の方に迫られてるのであれば、メイド長に相談する事を勧めるよ。メイド長からすれば、そういうトラブルは良くある事だろうから、迅速に処理してくれるだろう。」
「私は今の妻に大変に満足している。私には勿体ない程素晴らしい人だ。」
「君は、何が言いたい。私からの解消ではなく、君側からの申し出だった。今更おかしな事を言わないでくれないか。失礼する。」
そういうやり取りが続いたある日。
もういいだろう!と、思った。
「ちょっといいかな?・・・私は妻の居る身。あまり目立つ場所で話しかけないで貰いたい。それも大きな声ではしたなくも私への思いを語られて、本当に迷惑している。大切にしている妻に要らぬ誤解を与えたくない。」
人当たりいい好青年も、過去の汚点相手には手厳しいのだな。と周りは思った。
たまたま見かける時も、一貫してアンドレ様に冷たく突き放されてるというのにと、失笑されていた。
「そんな・・っ、私そんなつもりじゃ・・・わかりました、次から気をつけますわ」
涙で滲む目を向けて見せる。
「・・・頼んだよ。」
その後、今度は人目の少ない所を狙って現れるようになった。
聞いてもいないのに、高貴な身分の方の迫って来られた内容をひとつひとつ報告してくる。
内容を聞いて判断するに、高貴の方というのは王族でしかも第2王子ではないのか?と気付いた。
そうなってくると、この女の妄言でも無い限り、ちょっとしたどころでは無いスキャンダルではないのか。
第2王子は隣国の王女との婚約を控えた身。
それもこの婚約は、この国が望んで叶った婚約でもある。
そんな大事な時期に王子はこんな女に迫ってるというのか?
離縁され、子を取られ、尚且、元婚約直前まで行って捨てた相手に、あの時からお慕いしていただのなんだのと、人目憚らず言ってくる人間に?
――――この女の言う事が事実だとすればだが。
婚約候補時代にはこんな令嬢だとは分からなかった。
明るくていつも笑顔で、お茶の時間も苦痛ではなかった。
いつからこんなに押し付けがましい人間になったのか。それとも始めからだったのか。
そういえば、母には伯爵令嬢であったこの女性ではなく、侯爵令嬢の方にしなさいと言われていた。
母は見抜いていたということなのかもしれない。
真実だとしたらどれほどの損失を負う事になるのか。
王子の相手は隣国の王女だというのに。
(とんでもない事に巻き込まれたのではないか?私は)
アンドレは頭を抱えるのだった。
後継として書類の処理だけでなく、実務経験を積ませることにしたのだ。
アンドレは能力は高いのだが、圧倒的に経験が少ない。
妻も娶ったことだ、もっとしっかりして貰わねば。
男である公爵は、新婚の甘い時間を長引かせる事をそれほど重要視しなかった。
長い婚約期間を経てという結婚でなら、甘い新婚時間にそこまで時間を割かずとも問題もなかっただろうが、異例のスピード婚の三ヶ月では、互いの事などじっくり知りようもない。
イルヴァは嫁いで来た側だ。夫との関係の不安と婚家との不安もあった。
そういった不安に、男である公爵が疎く気を回せないのは、仕方が無いのかも知れないが。
一週間程の休みの後アンドレは本格的に仕事に忙殺されることになる。
一週間の間、イルヴァを共に連れて夫婦としての夜会の参加しワルツを踊ったりした。
毎日昼間はお茶を共にし、甘いお菓子の感想と他愛のない話をする。
夜は寝る直前に一緒にハーブティーを飲み静か時間を過ごし、その後共に同じベッドで眠った。
朝食を共にし、日課になりつつある朝の散歩に婚約関係の頃の様に庭を散策する。
二人の心の距離はどんどん近づいていった。
イルヴァが「毎日が夢の様に幸せ」と言う。
アンドレも「同じ気持ちだよ、イルヴァ」と返した。
男であるアンドレはこの幸せがずっと続くと短絡的に思っている。
女であるイルヴァは幸せだから不安だわ。と思っていた。
アンドレの頭は堅物であるが、実際に人と接する時などは、人当たりが良い。
穏やかな話し方から来る公爵家の嫡男というネームバリューを一切使用してこない気さくな対応は、
うっとりするアンドレの美貌も影響して人に与える効果は倍増した。
その事から、他国から来る外交官や商人などの信頼を得やすく、公爵の補佐として交渉の場にも参加する事が許される様になった。
婚姻前より更に増えた仕事と、まだ慣れぬ新しい仕事、初めてのことばかりが続く。
アンドレに余裕が無くなると、中々イルヴァを構ってあげることも難しくなってきた。
寂しそうに「いってらっしゃいませ」と見送るイルヴァを心配した頃、イルヴァが婚約時代に話していた事を思い出す。
「私は使用人とは、とても仲がいいのです。貴族からすると有り得ない話かもしれませんが、たくさんの家族の様に思っています。」
と嬉しそうに話していた。
「イルヴァも一人でここに嫁いできたけれど、やはり心細いだろう?実家の侯爵家から使用人を2名程連れてきたらいいよ。侯爵が許してくれるなら。何人でもって思うけど、それは侯爵家から非難されそうだからね。名前を教えてくれたら僕から頼んでおくよ。」
就寝前、ハーブティーを飲みながらイルヴァに提案した。
イルヴァは飛び跳ねそうに喜び、自分の世話係だった2名の名前を告げた。
翌日すぐに侯爵家へ、イルヴァの世話係をこちらで雇用し直したい旨を伝える手紙を送った。
さらに翌日には了承の手紙が届けられた。
イルヴァに提案してから三日後、公爵家へ世話係だった二人がきた。
破顔して喜ぶイルヴァは何と素敵なのだろう。
イルヴァがこんなに喜ぶのなら、初日から連れてくるべきだったなとアンドレは思った。
婚姻当初の頃の様な忙しい中にも一緒に過ごせる時間を作れる余裕が、今は無くなって来ている。
切実なイルヴァ不足に陥りそうだ。
夜遅くに湯浴みを終え、眠るイルヴァの隣に横たって自分の腕の中に引き寄せて眠れるあの瞬間だけが癒やしだった。
朝食もたまになら一緒にとったりもするが、二人だけではない空間だ。
父も居る中甘い言葉もかけたくともかけづらい。
イルヴァとたまに見つめ合い微笑み合う程度しか出来ない。
―――近くで給仕をする使用人も、アンドレの父も新婚か・・と砂糖を吐く思いでいる。気付かぬは当事者の二人ばかりなり。
イルヴァとの時間が削られる中、慣れぬ仕事に意外にも要領が掴めず手こずっていた。
捌いても捌いても終わらぬ書類は、どこからか作為的に回されてるのではないか?と苛立ちまぎれに思う。
今日も終わらず深夜遅い帰宅の予感に、アンドレは申し訳なく思っていた頃・・・
――――昔、婚約者候補だった伯爵令嬢に会った。
「アンドレ様!!」
と、大きな声で呼び掛けられ、振り向く。
顔を見るのは二年ぶりか。婚約者候補の一人で、あの令嬢だと分かった。
公爵家に対する仕打ちを覚えていないのか・・?
立ち止まるアンドレに、以前の様な気安い態度で近づいて来る。
今は城でメイドとして働いているとの事。
どこぞの侯爵子息と婚姻したのではなかったか??と疑問を持つが、興味もないので質問はしない。
「不当な理由で離縁されてしまったの・・・子供もあちらの家に取られてしまって。実家にももう帰れなくて、何か仕事をと探していたら、知人の紹介で王城のメイドとして、何とか雇って貰えてどうにかなったのよ。」
やけに悲しげな顔で聞いてもいないのにペラペラとアンドレに話してくる。
以前のアンドレなら、こういう気楽な口調に好感すら抱いていたのだが・・・
馴れ馴れしい態度も口調も、不快な思いしか浮かばない。
私はこの令嬢を婚約者に迎え、妻とする予定だったのか。
何と愚かな選択をする所だったのか。
横からかっ攫ってくれた侯爵令息に心の中で感謝を捧げた。
それはそれとして、不当な離婚か・・・子供まで取られたのは可哀想に。
母親と子は切っても切れない絆で結ばれている。
アンドレは母に厳しく育てられたが、同時にとても愛情たっぷりにも育てられた。
あれから二年だ、まだ一歳程度の赤子ではないか。
子供を取られた目の前の女よりも、子供の方に同情した。
どちらにしろ、離縁理由は不明だが、愛していた子供を取られるのは可哀想だなと同情はしても、それだけである。
「アンドレ様もご結婚されたとか・・・」
まだ続きそうな話に、仕事に忙殺されている今、一分一秒すら惜しい。
くだらない話をするなら、メイド仲間にでもすればいい。
「私には勿体ない素晴らしい人と結婚して貰えたよ。私達は新婚だというのに父の仕事で忙しくてね。ゆっくりする時間すらないのだ。・・・それでは失礼する。」
これ以上引き伸ばされては堪らないと、追いすがる様な声を無視してその場を離れた。
―――そういう事が2度、3度とタイミング悪く重なる。
話しかけられ捕まっている時間は10分程度だが、そんな偶然も回数も重なればそれなりに元婚約者候補の今の実情もわかってきた。
「アンドレ様を選んでいれば。あの時、アンドレ様の事をお慕いしていた気持ちを押し通して居れば・・・」
「アンドレ様の事を、今でもお慕いしております。私が思うだけならいいでしょうか?」
「実は・・私、今ある高貴な方に迫られておりまして・・・お断りしてもお断りしても聞いてくれなくて。アンドレ様、助けて貰えませんか?怖いんです。」
「アンドレ様、聞いて下さいませ。私がアンドレ様に付き纏いその事にアンドレ様は迷惑している。と、同僚のメイドが言うのです・・・。アンドレ様とはたまたまお会いしてお話してるだけだというのに。」
「アンドレ様の奥様ってお美しい方なんですってね。羨ましいわ、アンドレ様に愛されて。その場所は私のって思ったら泣いてしまいました。」
逢う度に「世迷い言を・・・」と失笑したくなる様な話を聞かされ、うんざりだった。
それも、城内の人目のある所に居る瞬間を狙って話しかけてくる。
話しかけられても気付かぬ様に歩き続ければ、ずっと話しかけながら追いかけてくる。
同僚の話はウソではないぞ。間違いなく付き纏っている。迷惑だと言ってやりたくなった。
「今更の話を本当に今更言われても困るだけだ。」
「思うのは構わないが、わざわざ報告などと余計な話をしてくるのであれば、迷惑だ。」
「高貴な身分の方に迫られてるのであれば、メイド長に相談する事を勧めるよ。メイド長からすれば、そういうトラブルは良くある事だろうから、迅速に処理してくれるだろう。」
「私は今の妻に大変に満足している。私には勿体ない程素晴らしい人だ。」
「君は、何が言いたい。私からの解消ではなく、君側からの申し出だった。今更おかしな事を言わないでくれないか。失礼する。」
そういうやり取りが続いたある日。
もういいだろう!と、思った。
「ちょっといいかな?・・・私は妻の居る身。あまり目立つ場所で話しかけないで貰いたい。それも大きな声ではしたなくも私への思いを語られて、本当に迷惑している。大切にしている妻に要らぬ誤解を与えたくない。」
人当たりいい好青年も、過去の汚点相手には手厳しいのだな。と周りは思った。
たまたま見かける時も、一貫してアンドレ様に冷たく突き放されてるというのにと、失笑されていた。
「そんな・・っ、私そんなつもりじゃ・・・わかりました、次から気をつけますわ」
涙で滲む目を向けて見せる。
「・・・頼んだよ。」
その後、今度は人目の少ない所を狙って現れるようになった。
聞いてもいないのに、高貴な身分の方の迫って来られた内容をひとつひとつ報告してくる。
内容を聞いて判断するに、高貴の方というのは王族でしかも第2王子ではないのか?と気付いた。
そうなってくると、この女の妄言でも無い限り、ちょっとしたどころでは無いスキャンダルではないのか。
第2王子は隣国の王女との婚約を控えた身。
それもこの婚約は、この国が望んで叶った婚約でもある。
そんな大事な時期に王子はこんな女に迫ってるというのか?
離縁され、子を取られ、尚且、元婚約直前まで行って捨てた相手に、あの時からお慕いしていただのなんだのと、人目憚らず言ってくる人間に?
――――この女の言う事が事実だとすればだが。
婚約候補時代にはこんな令嬢だとは分からなかった。
明るくていつも笑顔で、お茶の時間も苦痛ではなかった。
いつからこんなに押し付けがましい人間になったのか。それとも始めからだったのか。
そういえば、母には伯爵令嬢であったこの女性ではなく、侯爵令嬢の方にしなさいと言われていた。
母は見抜いていたということなのかもしれない。
真実だとしたらどれほどの損失を負う事になるのか。
王子の相手は隣国の王女だというのに。
(とんでもない事に巻き込まれたのではないか?私は)
アンドレは頭を抱えるのだった。
あなたにおすすめの小説
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。
三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。
だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。
レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。
イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。
「子供の親権も放棄しろ!」と言われてイリスは戸惑うことばかりで、どうすればいいのか分からなくて混乱した。
異世界に逃げたシングルマザー経理は、定時退勤だけは譲れない
木風
恋愛
DV夫から一歳の娘を抱えて逃げた鈴木優子は、光に飲まれて異世界の王宮へ転移してしまう。
生きるために差し出した武器は簿記と経理経験――崩壊寸前の王宮会計を『複式簿記』で立て直すことに。
ただし譲れない条件はひとつ、「午後五時の定時退勤」。娘の迎えが最優先だからだ。
その姿勢に、なぜか若き国王ヴィクトルが毎日経理室へ通い始めて――仕事と子育ての先に、家族の形が芽吹いていく。
【完結】旦那は堂々と不倫行為をするようになったのですが離婚もさせてくれないので、王子とお父様を味方につけました
よどら文鳥
恋愛
ルーンブレイス国の国家予算に匹敵するほどの資産を持つハイマーネ家のソフィア令嬢は、サーヴィン=アウトロ男爵と恋愛結婚をした。
ソフィアは幸せな人生を送っていけると思っていたのだが、とある日サーヴィンの不倫行為が発覚した。それも一度や二度ではなかった。
ソフィアの気持ちは既に冷めていたため離婚を切り出すも、サーヴィンは立場を理由に認めようとしない。
更にサーヴィンは第二夫妻候補としてラランカという愛人を連れてくる。
再度離婚を申し立てようとするが、ソフィアの財閥と金だけを理由にして一向に離婚を認めようとしなかった。
ソフィアは家から飛び出しピンチになるが、救世主が現れる。
後に全ての成り行きを話し、ロミオ=ルーンブレイス第一王子を味方につけ、更にソフィアの父をも味方につけた。
ソフィアが想定していなかったほどの制裁が始まる。
王女殿下のモラトリアム
あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」
突然、怒鳴られたの。
見知らぬ男子生徒から。
それが余りにも突然で反応できなかったの。
この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの?
わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。
先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。
お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって!
婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪
お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。
え? 違うの?
ライバルって縦ロールなの?
世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。
わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら?
この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。
※設定はゆるんゆるん
※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。
※明るいラブコメが書きたくて。
※シャティエル王国シリーズ3作目!
※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、
『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。
上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。
※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅!
※小説家になろうにも投稿しました。
世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました
由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。
——皇子を産めるかどうか。
けれど私は、産めない。
ならば——
「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」
そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。
毒を盛られても、捨てられず。
皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。
「お前は、ここにいろ」
これは、子を産めない女が
ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。
そして——
その寵愛は、やがて狂気に変わる。
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。