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09話 ドリス視点
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「入りなさい。」
公爵の低く艶があり、そして重たく威厳のある声が室内からかけられる。
声色から不機嫌ではないが、良くもないのだと判断するドリス。
王子の護衛であろう近衛騎士が扉前に立っており、アリアお嬢様の為に扉を開けてくれた。
見目も良く所作も丁寧で交換が持てる騎士だ。
さすがは王子専属近衛騎士である。
その気遣いに嬉しくなったアリアお嬢様は、すっと目線だけ騎士に向け柔らかく口角を上げて小さく微笑むと「ありがとう」と小声で囁き公爵と王子の待つ応接室へと入室した。
可哀想な程に顔を赤く染めた騎士をドリスだけが気付き、少し苦笑しながらアリアの後ろから室内へと入室する。
(アリアお嬢様は罪作りねぇ…)
とんでもない美貌の持ち主なのに勇気を出して話しかけてみると、吃驚する程に気さくなアリアは、こうやって無差別に特大級の萌え爆弾を投下するのだ。
夜会など毎回爆撃地の中心よろしくあちらこちらで爆弾を落とし、被害にあった令嬢や令息が胸を抑えて切なげな吐息を漏らすという何とも言えない場にしてるらしい。
少しは自分の見た目の暴力っぷりを自覚して欲しいものだ。
「殿下、お父様、お待たせしてすみません」
完璧なカテーシーを披露してお詫びを述べるアリアお嬢様。
お嬢様には言わなかったけれど、ドリスだって内心は「こんな朝早く来るなんて淑女に対する礼儀もなってない無神経王子」と思っている。
「そんなに待たされてはいないよ。そもそも私がこのような早朝に来てしまった事の方が悪いのだから、
アリア嬢から苦情を言われはしても言うつもりはない。
気が急いてどうしても会いたかったのだ。こんな時間に訪問してしまい本当にすまない。
この場は正式なものではなく非公式だ。あまり堅くならないで楽にして欲しい。」
早口で語りながら、殿下はアリアお嬢様の全身にスッと視線を走らせると、頬をピンクに染めた。
キュッと引き結んでいた口元が緩み、堪えきれないようにかすかに弧を描くのが分かった。
――――え、コレ、誰?
男性にしておくのがもったいない程の白磁のような白い頬が淡いピンクに染まる様は、何て艶めかしいのか。
いけない物でも見てしまったような背徳感を感じてしまうのは何故だろう。
アリアお嬢様は目を真ん丸にした後、皇子と同じ様に頬を染めた。
うん、お嬢様の方が可憐で可愛くて最強だ。うん、間違いない。
と、心の中でガッツポーズをきめたが、相手は皇子で男だった事を思い出して心の中で振り上げた拳をそっと下ろす。
今なら、アリアお嬢様と私の思考は100パーセント同調しているだろう。
目の前のこいつは誰だ…別人か?くらい表情も雰囲気も、なんなら言葉遣いすら違う。
いつもアリアお嬢様だけに無礼で無表情で何を考えてるか分からなうえに、
このうえなく素晴らしい婚約者に対して、冷たいなんて生易しい態度ではないくらいのクソ皇子だったのが、
突然くるりと手のひら返ししているのだから。
アリアお嬢様も先程から淑女の仮面を被るのも忘れ、愛らしい顔でポカンとし続けている。
お茶会は悉くすっぽかし、従者に言伝のひとつとして詫びでも頼めばいいのに一度もない。
最低限出席しなければならない夜会に出れば入場のエスコートをおざなりに済ませると、さっさと自分の側近達の方へ行ってしまう。
アリアお嬢様によれば、このままではいけないと少しでも歩み寄りを見せる為に、勇気を出して話しかけに行こうものなら絶対零度の視線を向けてきたという。
そんな、クソオブクソの皇子が、アリアお嬢様に優しい言葉をかけ謝罪している。
それも、気持ち悪いくらい丁寧に。
「はい……」
ポカンから正常な思考を取り戻したアリアお嬢様は返事をした後、殿下とは向かい合う形で公爵の隣にそっと腰を下ろした。
壁際でそれを眺めつつ、待機する。
皇子が改心でもしたのかしら。
アリアお嬢様の美しさ気高さ可憐さ素晴らしさに、遅すぎるくらいの今頃に気づいたのかしら。
お嬢様が当然のように公爵の隣に座った時、殿下が一瞬悲しそうな顔をしていた気がしたけど…
やっぱり気づいたのかしら。
アリアお嬢様と殿下の距離に。
殿下の行いで果てしなく心の距離が開いてますから、その距離を縮めるのは数十年はかかるんじゃないですか。
いやもっとかしら。生きてるうちに縮められるといいですね。
これくらいの嫌味を心の中で思うくらいならいいだろう。
アリアお嬢様を見つめる目が明らかに「愛を請う瞳」になっている。
殿下のお心に今何が起こっているのだろう。
アリアお嬢様に聞く話の殿下とは全く違う人間に見えた。
だって、アリアお嬢様と殿下って冷めた関係だったよね……?
でも、殿下のこの目は――――どうみたって恋する美少年ではないのか。
蕩けるような甘い眼差し、笑み崩れてるように綻ぶ口元。
アリアお嬢様との会話ひとつひとつでどんどん崩壊していってますけど…顔面が。
ただ拗れているだけなんじゃないの。
思春期の男女のありがちなすれ違いから、あんな関係だっただけなのかもしれない。
アリアお嬢様はむしろ努力してた側だから、主に思春期拗らせたガキな皇子がやらかしていて、
そこでやっと目が覚めたって事じゃないのかな。
素晴らしい美貌に優しい性格、可憐なお嬢様は無自覚に相手を夢中にさせていることがあるけれど、
皇子には全く効いてなかったし、むしろ夜会以外で会おうとすらされなかったんだから、
この方の基準は見た目ではないのではないかと思うのだけど。
それに、中身を知る程接してもいない。
けれど、どうみたって熱愛している男の顔である。
―――全部、お嬢様の勘違いというには100回もほっぼかれたのだし断定できない。
やっと正常な婚約関係になるということなのかしら……
ドリスは壁際で待機しながら、お嬢様と殿下の拗れっぷりのそもそもの元凶を考えていた。
公爵の低く艶があり、そして重たく威厳のある声が室内からかけられる。
声色から不機嫌ではないが、良くもないのだと判断するドリス。
王子の護衛であろう近衛騎士が扉前に立っており、アリアお嬢様の為に扉を開けてくれた。
見目も良く所作も丁寧で交換が持てる騎士だ。
さすがは王子専属近衛騎士である。
その気遣いに嬉しくなったアリアお嬢様は、すっと目線だけ騎士に向け柔らかく口角を上げて小さく微笑むと「ありがとう」と小声で囁き公爵と王子の待つ応接室へと入室した。
可哀想な程に顔を赤く染めた騎士をドリスだけが気付き、少し苦笑しながらアリアの後ろから室内へと入室する。
(アリアお嬢様は罪作りねぇ…)
とんでもない美貌の持ち主なのに勇気を出して話しかけてみると、吃驚する程に気さくなアリアは、こうやって無差別に特大級の萌え爆弾を投下するのだ。
夜会など毎回爆撃地の中心よろしくあちらこちらで爆弾を落とし、被害にあった令嬢や令息が胸を抑えて切なげな吐息を漏らすという何とも言えない場にしてるらしい。
少しは自分の見た目の暴力っぷりを自覚して欲しいものだ。
「殿下、お父様、お待たせしてすみません」
完璧なカテーシーを披露してお詫びを述べるアリアお嬢様。
お嬢様には言わなかったけれど、ドリスだって内心は「こんな朝早く来るなんて淑女に対する礼儀もなってない無神経王子」と思っている。
「そんなに待たされてはいないよ。そもそも私がこのような早朝に来てしまった事の方が悪いのだから、
アリア嬢から苦情を言われはしても言うつもりはない。
気が急いてどうしても会いたかったのだ。こんな時間に訪問してしまい本当にすまない。
この場は正式なものではなく非公式だ。あまり堅くならないで楽にして欲しい。」
早口で語りながら、殿下はアリアお嬢様の全身にスッと視線を走らせると、頬をピンクに染めた。
キュッと引き結んでいた口元が緩み、堪えきれないようにかすかに弧を描くのが分かった。
――――え、コレ、誰?
男性にしておくのがもったいない程の白磁のような白い頬が淡いピンクに染まる様は、何て艶めかしいのか。
いけない物でも見てしまったような背徳感を感じてしまうのは何故だろう。
アリアお嬢様は目を真ん丸にした後、皇子と同じ様に頬を染めた。
うん、お嬢様の方が可憐で可愛くて最強だ。うん、間違いない。
と、心の中でガッツポーズをきめたが、相手は皇子で男だった事を思い出して心の中で振り上げた拳をそっと下ろす。
今なら、アリアお嬢様と私の思考は100パーセント同調しているだろう。
目の前のこいつは誰だ…別人か?くらい表情も雰囲気も、なんなら言葉遣いすら違う。
いつもアリアお嬢様だけに無礼で無表情で何を考えてるか分からなうえに、
このうえなく素晴らしい婚約者に対して、冷たいなんて生易しい態度ではないくらいのクソ皇子だったのが、
突然くるりと手のひら返ししているのだから。
アリアお嬢様も先程から淑女の仮面を被るのも忘れ、愛らしい顔でポカンとし続けている。
お茶会は悉くすっぽかし、従者に言伝のひとつとして詫びでも頼めばいいのに一度もない。
最低限出席しなければならない夜会に出れば入場のエスコートをおざなりに済ませると、さっさと自分の側近達の方へ行ってしまう。
アリアお嬢様によれば、このままではいけないと少しでも歩み寄りを見せる為に、勇気を出して話しかけに行こうものなら絶対零度の視線を向けてきたという。
そんな、クソオブクソの皇子が、アリアお嬢様に優しい言葉をかけ謝罪している。
それも、気持ち悪いくらい丁寧に。
「はい……」
ポカンから正常な思考を取り戻したアリアお嬢様は返事をした後、殿下とは向かい合う形で公爵の隣にそっと腰を下ろした。
壁際でそれを眺めつつ、待機する。
皇子が改心でもしたのかしら。
アリアお嬢様の美しさ気高さ可憐さ素晴らしさに、遅すぎるくらいの今頃に気づいたのかしら。
お嬢様が当然のように公爵の隣に座った時、殿下が一瞬悲しそうな顔をしていた気がしたけど…
やっぱり気づいたのかしら。
アリアお嬢様と殿下の距離に。
殿下の行いで果てしなく心の距離が開いてますから、その距離を縮めるのは数十年はかかるんじゃないですか。
いやもっとかしら。生きてるうちに縮められるといいですね。
これくらいの嫌味を心の中で思うくらいならいいだろう。
アリアお嬢様を見つめる目が明らかに「愛を請う瞳」になっている。
殿下のお心に今何が起こっているのだろう。
アリアお嬢様に聞く話の殿下とは全く違う人間に見えた。
だって、アリアお嬢様と殿下って冷めた関係だったよね……?
でも、殿下のこの目は――――どうみたって恋する美少年ではないのか。
蕩けるような甘い眼差し、笑み崩れてるように綻ぶ口元。
アリアお嬢様との会話ひとつひとつでどんどん崩壊していってますけど…顔面が。
ただ拗れているだけなんじゃないの。
思春期の男女のありがちなすれ違いから、あんな関係だっただけなのかもしれない。
アリアお嬢様はむしろ努力してた側だから、主に思春期拗らせたガキな皇子がやらかしていて、
そこでやっと目が覚めたって事じゃないのかな。
素晴らしい美貌に優しい性格、可憐なお嬢様は無自覚に相手を夢中にさせていることがあるけれど、
皇子には全く効いてなかったし、むしろ夜会以外で会おうとすらされなかったんだから、
この方の基準は見た目ではないのではないかと思うのだけど。
それに、中身を知る程接してもいない。
けれど、どうみたって熱愛している男の顔である。
―――全部、お嬢様の勘違いというには100回もほっぼかれたのだし断定できない。
やっと正常な婚約関係になるということなのかしら……
ドリスは壁際で待機しながら、お嬢様と殿下の拗れっぷりのそもそもの元凶を考えていた。
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