悪役令嬢の中身が私になった。

iBuKi

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第二十六話 ギルド登録。

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 幼い子供が果てしない大冒険に一歩を踏み出すその瞬間のような、異常な昂揚感を感じながらユキとスノウと出かける準備をした。

 ユキが土魔法で私そっくりの人形を作ってベッドに寝かせシーツを被せると、それにスノウが幻影魔法を人形にかけて、私そっくりに誤認する細工をする。
 これで誰が部屋に来たとしても、私はベッドで寝息を立てて眠ってるんですって。
 凄いな、さすが聖獣様だなと思う。

 私も同じ様な魔法を使いたいっ! と意気込むと、ダメだと止められてしまう。
 魔力ならたくさんあるし全属性だぞ! って拗ねる私に、スノウが説明してくれた。

『リティシアが使ったのは創造魔法。それは女神様の力のような物で、この世界でも女神様の愛しい子であるリティシアのみが使える魔法なんだ。だから魔力コントロールの鍛錬を一切してなかったり、詠唱などなく無詠唱でも問題なく発動出来る。』

 そこで一旦言葉を止めて『ここまではわかる?』と訊かれる。
「何となく…」と答えた。
 つまりは、女神様独自のチートスキルで、私限定だからこそかなり補正が利いて何の問題もなく仕えたんだよね? だから普通の魔法はコントロールできないってことなのかな…。

『ふふっ考えてる事が顔に書いてあるように分かり易いね。リティシアは』
 スノウが笑いながら、私の頬をぺろりと舐める。

「ひゃっ! もうスノウ!」
『ごめんごめん、頬が美味しそうで。』
「食べ物じゃないのよ!」

 スノウは私をからかうのが大好きなのか、ちょいちょいこういう事をしてくるようになった。
 ユキも舐めたそうに舌なめずりをしたけれど、スルー。

『恐らく普通の人間よりは補正が働いてすぐ上手になるとは思うけど、万が一もあるから気を付けて欲しくて。コントロールを鍛えないままに発動させようとすると、稀に暴走する事もあるから…暴走は場合によっては命に関わる事になることもあるんだ。だから、独断で色々しようとするのは止めて欲しい。』

 スノウはとても心配そうに目元が下がって、耳もぺたりと伏せていた。

「わかった! ただの興味本位だし、コントロールの練習で大丈夫だと太鼓判押されるまではおとなしくするから。安心して?」

 伏せたスノウの耳を優しくなでなでしつつ約束した。

 そしてギルドへとユキに認識阻害魔法かけて貰って、私を見た人は全くの別人だと認識できるかチェックを済ませた後、出発したのだけれど――――


 結論から言うと至極簡単に登録は終わった。
 道に迷う事なく冒険者ギルドにあっさりついて、始まりに有りがちな厳つい顔の人が現れて…などからの定番のトラブルも無く、あっさりと登録ができた。

 紙に名前や年齢、そして戦士や魔道士など自分がメインとしている職業などを記載し、ギルドの受付に提出。その後登録料として銀貨を五枚渡すのだが、持ち合わせがない子供も居る為、指定の依頼をこなして依頼料から引く事も出来るそうだ。
 その期間は一週間。一週間待っても払えない場合は、即契約解消となり銀貨五枚は支払しなくても大丈夫になるが折角の登録も抹消される仕組みだ。
 貴族令嬢ではあるがお金は持ってないので、私も依頼料から引いて貰う旨を受け付けの人に伝えて、そうして貰った。
 その後、光る水晶で出来た石版みたいなプレートに手のひらを置くと、プレートが光る。犯罪歴無しは青、有りは赤になる。
 私も問題なく青だったのでそのまま登録完了となった。

 冒険者ランクというものがあって、最下位のFから出発する。
 最高位はSクラスらしい。
 世界広しといえど、未だSクラスの人は五人しかいないそうな。
 それだけとても厳しい世界なんだろうし、凡人には想像も付かないレベルの努力と運で掴みとれる高みなのだろうなと、ぼんやりと思いながら受付の人の話を訊く。
 必ず説明する規約だからと飛び級もある話をされるけれど、
 早く資金を貯めたいけれど、飛び級には興味を感じなかったので無言で頷くだけにしておいた。

 低ランク帯は採集が主らしいので、それを頑張ろうと思った。
 屋敷を出てから登録するまで、一時間もかからなかったので、ユキとスノウの狩りが出来る時間的余裕もあるし、街から馬車で40分程行った所にある隣街には低ランク御用達の森もあるとのこと。
 そこは強い魔物はスライムが主なので、安全に採集が出来ると大人気らしい。
 早速そこに行く事に決めて、薬草の依頼をふたつ程受けて出発する事にした。

 クエストを終わらせた帰りにでも商業ギルドにも寄って、登録しておこう。
 薬草の依頼の達成料が冒険者ギルドの登録料だけで終わってしまったら、商業ギルドは今度にしよう。
 冒険者ギルドと違って、クエストがないのでクエストを達成して達成料金から支払うという事が出来ないのだ。
 薬草のクエストではあまり稼げないと思うからどうなるだろう。
 ユキとスノウが狩った魔物の素材を売ってそれなりの金額になるといいのだけど。

 商業ギルドは、商品なら何でも登録できる。
 前世の著作権に近いもので、商業ギルドに登録された商品と似たものを作って販売したい場合は、使用料を登録した人に払わなければならないのだ。
 それを守らない場合、大きな罰金刑が科せられる為、似たような商品が無いか商業ギルドにまず登録できるか問い合わせ、もし無ければ登録してから販売する。
 もし似たものがあれば、使用料を払って販売する。だったり、引っかかる部分を改良して登録したりと、いろいろと厳しく大変らしい。
 ただ売れそうな物であれば持ちこみ、審査はされるがそれが通れば何でも登録できるらしいので、この世界に無いと思われてる物を作って使用料を取って悠々自適に細く長く稼げたらなーと思っている。

 二匹の力量ではスライムは腕ならしにもならないのだろう。
 つまらなさそうに踏みつぶしたり、面倒な時は即燃やしたりしている。

「ええー、燃やしたら素材も何も取れなくなるじゃないの! 素材を残すように倒して欲しいの!」
 ユキとスノウに注意する。

『スライム飽きた』
 スノウがうんざりしたように呟く。
『もって手ごたえがあるのはいないのか』
 ユキはソワソワとしている。

「スライムしかいない場所だってギルドの人にも言われたよ? それ以外いないと思う。」

 私は慎重な手付きで周囲の土を取り、薬草を根からとる。
 前世からこういう細かい手仕事は大好きだ。土いじり最高。

「次はもちょっと手ごたえある所にいこう。だから今日はスライムと遊んでて?」

 二人は諦めた様にがっくりとしたように尻尾を下げ、スゴスゴとまたスライムを探しに歩き出した。

「あ、ちょっと待って、おいてかないでーー」
 その後ろに大きな声で呼びかけて、私は二匹に駆け足で追いかけた。
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