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1章~俺はダンジョンバイトがしたい
11 信じるべきは己の直感かなって②
しおりを挟む帰還は一瞬。
辿り着いたのはトワイヤ駅の地下3階のだだっ広い帰還専用室。そっから地下1階のロッカールームに戻って学生鞄を取り出して、受付へと向かう。
ウサコさんに報告しようとおもったのだ。我ながら浮かれてた。
ただ、なにやら駅内は普段にはない様子で職員達が慌ただしく動き回っており、受付にいたウサコさんもそわそわしている。
「あらスズくんお帰りなさい。もう面接終わったの?」
「はい! 無事バイト面接受かりました……ええと、なんかあったんですか?」
「ええ……ちょっと珍しい方がいらっしゃってるの」
珍しい方とは誰だろう?
ちょっと気になってウサコさんを見つめるけれど「内緒です」と指でバッテンを作られてしまった。可愛い。
「それでスズくんはどこの企業に決まったのかしら?」
「結局ダンジョンでバイトする事になりまして、ソーヤの洞窟って所です」
「それってたしか……魔王城近くにあるダンジョンよね?」
「らしいですね」
正直、転移魔法で行ってきただけなので、いまいち地理が分からないけど。
ただこのトワイヤ駅は大陸のほぼ真ん中らへんにあるそうだが、ここから魔王城へ徒歩で行った場合、1ヶ月月近くかかると聞いた事があるので、もしものために帰還石もう一つ常備しておこうかなと考えている。
「あのダンジョンは冒険者もS級とかが日常的に来るところだから、働いてる魔物達は大変なの。最近もボスが回復魔法じゃ直しきれないほどの重傷を負ったって聞いたけのだけど……」
「ボスは引退して息子さんが引き継いだらしいです」
「そうなのね……どうりで」
どうりで? その言葉に引っかかりを覚え、ウサコさんを見つめると困ったように笑って「あのね」と教えてくれた。
「その引退したダンジョンボスは、とても人間嫌いでね。一応魔王様の言葉には従ってダンジョンに入ったのだけど、人間との共存は拒否してね、ダンジョンに訪れた冒険者を容赦なく殺し続けていたの……そんな魔物だから、トワイヤの人間が作り出した機器も、異世界のバイトや便利な日本製品も拒否し続けていて……でも世代交代したというなら、バイトを雇うのも納得ね」
城塞都市バンヘルの人々が魔物を憎むように、魔物の中には人間を憎悪する者だっている。……こればっかりは仕方ないよな。
「というかそんな冒険者を殺しまくるダンジョンに行く人っているんですか?」
「意外と多いわよ。なにせ魔王城の近くだから、強さを極めたいS級冒険者も多くてね。それに今のダンジョンって魔石は多く取れるけど、魔物の革とか素材は取れなくなったでしょ。だけどあのダンジョンは採れるから、挑む人間は減らないのよ」
「それって……」
「あのダンジョンの魔物達は、転移魔法で退くのは逃げだと考えているから絶対に使わないの……だから、魔物の死亡率が高いのよ」
ダンジョンで戦って怪我を負った魔物は、すぐさま転移魔法でバックルームに戻って、仲間に治療してもらうのが常だ。だから人間側からすると、魔物を倒しても魔石だけ残して死体は消えてしまうので素材は手に入らない。
だけどソーヤの洞窟ダンジョンは転移魔法を取り入れてないため魔物が倒れれば、そこに死体が残る。それを人間は素材として持ち帰るのだ。
魔法を使えば助かるのに。プライドから使わない。
死んでいく仲間達をどんな気持ちで見続けてきたのだろうか、オークさんは……
゛俺の改革に賛同してくれてる仲間はまだ少ない ゛
人間にだって頭を下げるような彼は、きっと仲間達に何度も改革の話を持ちかけたはずだ。それなのに、未だあのダンジョンは命を消耗し続けている。
オークさんですら出来ないのに、俺みたいな平凡な人間が行ったところで、魔物達の気持ちを変えることなんて、果たして出来るのだろうか……
今更ながら、オークさんの言葉が重くのしかかってくるのを感じた。
だが、オークさんは俺に希望を見てくれた。
俺はその気持ちに応えたい。
あ、そういえば猫娘に報告するの忘れてたな……
今プレッシャーを感じたって仕方ない。とにかく猫娘に報告してさっさと帰ってもう一度トワイヤの歴史を学び直してみよう。それぐらいしか今の俺には出来ないから。
ウサコさんに挨拶して、ハローワークへと向かった。
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