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4話 フユメ カイリside

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 フユメを支えながらエレベーターに乗り、カードキーをセキュリティ・ボックスにかざし、ピッ… と電子音が鳴ると、カイリは予約した部屋のフロアーの階数を押す。

 エレベーターの扉が閉まり、カイリは側面にある鏡に映る、発情しかけてふぅーっ… ふぅーっ… と苦しそうな息づかいで、顔を紅潮こうちょうさせたフユメをまじまじと見つめた。


<朝日冬芽フユメ、名前は日本人のものだが… 肌も、瞳の色、も髪も… 全体的に色素が薄く、ヨーロッパ系の血が入っているのは間違いない… 日本人にしては目が大きくパッチリし過ぎている… それにしてもオメガのハーフ? クオーター? いや、この華やかな容貌ようぼうはたぶんハーフだな! 珍しい…>

 アルファやオメガが生まれる家は大方決まっていて…
 外国人とつがわせたり、結婚させたりすることはまずないからだ。

<どこの国でも、希少なオメガとアルファを自国に留めておきたいと思うのが普通で、フユメの姓の朝日家という名は聞いたことがないから、恐らくは両親のどちらかが、ベータなのではないだろうか?>


「もう少しの我慢だ…」

「はい… すみません、ご迷惑をかけて…」


 フユメを見下ろすと、潤んだ瞳でカイリを見あげ、苦しそうにしながらも笑って見せた。

 エリの隙間すきまから革製のネックガードが見え、首筋がピンクに染まり…
 フワリ… フワリ… と爽やかで甘酸っぱいベリーの香りに似た誘惑フェロモンが立ち上る。

 エレベーターという、せまい空間がまずかった。


<ああ… 何て美味そうなうなじなんだ… 鼻をすり寄せて舌をはわせたい…>

 ドクッ… ドクッ… と身体中の血が激しく荒れ狂い、沸騰しているのかと思うほど、熱くなり、カイリは熱っぽくフユメの首筋を見つめた。


<これはまずい! 負けそうだ… 何てフェロモンだ…!>




 リリンンッ!!

 エレベーターが目的の階に到着し、扉が開き降りようとするが… 
 立ち止まったフユメが足をぶるぶると震わせ、泣きそうな顔でカイリに訴えかけて来た。

 操作盤の開ボタンを押し、カイリはフユメを抱き上げてエレベーターを降り、大急ぎで部屋へと向かう。

 いつも使う部屋で、カイリは案内板を見なくても部屋の位置は知っていた。


 若い頃から… 何度も、何度も、オメガにハニー・トラップを仕掛けられ、カイリは何度もはまりそうになった経験がある。

 そこで、オメガ・フェロモンに似せた合成フェロモンを使い、時間を掛けて耐性をつけ、簡単には誘惑に負けないようカイリは抵抗力をつけていた。

 それにもかかわらず…
 フユメを前にして、カイリはアルファの本能に支配されそうになっていた。

 "今すぐうなじを噛んで、オメガの中で射精しろ!"
 "このオメガはオレのオメガだ!"
 "誰にもオレのオメガを渡すな!"
 "奪われる前にオレダケのオメガにしろ!"
 "オメガを支配しろ! 支配しろ! 支配しろ! 支配しろ!"

 身体の奥で、カイリの野蛮な本能が大騒ぎをし始めた。

「・・・・・っ」
<ダメだ! さっき自分で野蛮なことはしないと、言ったばかりなのに!! クソッ…!! 私も抑制剤をもう一錠、飲まないと… えた獣のように、襲ってしまいそうだ!!>

 ぐらぐらする頭を何度も振って、カイリは自分を抑えたが…


「ふううんっ…!」


 不意にフユメがうめき声をもらし、顔を上げた時…
 大きな瞳から涙をこぼしていて、カイリは急に誘惑に耐えることがバカらしくなった。




<こんなに苦しそうにしている子に、これ以上我慢させて、私が誘惑に耐える必要が、本当にあるのか?!>







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