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11話 完璧な王子様 ※R18少々
蝋燭の明かりでイグナシオ様の容姿がハッキリと見えた。
「イグナシオ様……!」
イグナシオ様の顔に残る大きな傷痕を見て思わず… 子供の頃、大好きで何度も読んだ有名な竜退治の童話を思い出した。
王国がある大陸全土に伝わる神話を元にした童話で…
大陸最強と謳われた騎士や魔法使いたちは、力の差に圧倒されて次々と竜退治をあきらめた。
1人残ったエクリプセルナルの王子様だけは、身体じゅう傷だらけになっても竜と戦い続けた。
いつまでも続く勝敗がつかない戦いで、根負けした竜は王子様と魔法で契約を結び、古代王国エクリプセルナルの守護聖獣となるお話だ。
「エクリプセルナルの王子様……」
僕の初恋。 神話の王子様にそっくりだ!
太陽の光を集めた金の髪に、神様を模して造られた端整な顔。 竜の攻撃でついた大きな傷痕。
イグナシオ様の容姿は、僕が幼い頃に恋した神話の王子様そのものだった。
「ジェレミー?」
僕のつぶやきが聞こえたのか、イグナシオ様の眉がピクンッ… と動いた。
「……っ!」
どうしよう! 僕は思いっきりやらかしてしまった! こんなに魅力的な人だと思わなかった。
…いや、イグナシオ様のフェロモンだけでもすごく魅力的だったから、気づいても良さそうなのに! 僕が欲望に負けたから。
イグナシオ様の完璧だと思える容姿を前に、僕は激しく後悔して視線をそらしてうつむく。
「ジェレミー… どうした? やっぱりオレでは嫌か?」
僕の顔に浮かんだ後悔の表情を読み取ったイグナシオ様は、うつむく僕の肩をつかんだ。
「いいえ、違います」
「オレは君よりも一回りは年上だからか…?」
イグナシオ様の美声が不安そうに揺れた。
「違います、イグナシオ様。 僕の方が…… あなたに相応しくないと思ったから…」
マウリシオ様に舞踏室で投げかけられた侮辱的な言葉は… 今思えば、ずいぶんと控えめな表現だった。
『以前から言っているけど、お前はオレの好みから外れているんだよ』
「僕は血筋以外は他のオメガと比べて、優れた魅力なんて1つもないから… オメガにしては容姿に華やかさもないし」
普段から感じていた自分の容姿に関する劣等感が、完璧な容姿のイグナシオ様を見たら刺激されて急に怖くなった。
「何を言っているんだ、ジェレミー?」
「だって僕が… あなたのような完璧な王子様のようなアルファに抱かれたいなんて… 身の程知らずだとわかったから…」
僕が持つカラスのように黒い髪色とありふれた青い瞳は… お兄様たちのようなアルファなら、僕と同じ色でもカッコ良く見えたけれど。
オメガの僕が持つと、とたんに負の要素となって陰気な印象になる。
そんな僕がイグナシオ様のような美形を求めるなんて、高望みしすぎだ。
「完璧な王子様だって?! オレの容姿のことを言っているのか? ジェレミー、オレの顔をよく見ろ」
イグナシオ様は少し怒った声で、僕の手を取り自分の頬に当てる。 『見ろ』と言われて僕は渋々、顔をあげた。
金の星が散る綺麗なグリーンの瞳と視線が交わっただけで、僕は恥ずかしくてカッ… と顔が熱くなる。
「ジェレミー、オレの顔の大きな傷痕が見えないのか?」
頬と目の上にある傷痕をジッ… と見つめて、僕は答える代わりにたずねた。
「…戦争で負った傷ですか?」
端整なイグナシオ様の顔に残る、大きな傷痕が危険な雰囲気を演出していて、大人のアルファの色気がますますダダ漏れで… 傷まで魅力的に見える。
「そうだ。 戦争が終わり、この大きな傷痕が残った顔で社交に復帰したら… オレの顔を見たとたん、それまで群がって来ていたオメガたちは、潮が引くようにオレの前から消えた」
「何でオメガたちはいなくなったのですか? イグナシオ様の魅力に惹かれて、口説こうとしていたオメガたちの話ですよね? …違うの?」
イグナシオ様は何もかもが素敵なのに。 何がいけないの?
思わず首を捻って考えたけど、やっぱり意味がわからず僕が聞き返すと… イグナシオ様は驚いた顔をする。
「意味がわからないのか?!」
「はい。 だってイグナシオ様は傷痕までカッコ良いのに… なぜですか?」
「…ジェレミー… 君はオレの顔がそんなに好きなのか?」
「当然です。 だって、こんなに完璧なイグナシオ様のお顔なら、みんな好きだと思いますよ?」
それまで怒っていたイグナシオ様は、なぜかハハハハハッ…! と朗らかに笑いだした。
「イグナシオ様…?」
「そう言えば君は… 今夜が社交デビューだったな?」
「はい?」
「社交界で大きな傷痕をさらすことは、不作法な恥知らずだと言われるのさ。 オレは立場上、そうも言っていられないから社交をするが」
「ええ! 何でダメなの?!」
「オレの顔の大きな傷痕を見て、気の弱いオメガやベータの女性たちは恐怖や不快感を持つから… そんな顔を社交の場でさらすなと言う意味だよ」
貴族でもたくさんの人たちが戦争へ行き、傷を負って帰還した。 それなのに戦前の常識で差別するなんておかしな話だ。
「それは知りませんでした。 でもそんなのバカらしい! だって王国のため…… んん…っ?!」
イグナシオ様は話の途中で僕の唇にキスをした。
チュクッ… クチュッ… と音おたてて強く吸われ、僕の口内でイグナシオ様の舌が淫らに暴れまわる。
「んんっ… んっ…? んんぅ……っ…!」
水が涸れた噴水の前から離宮に移動する間に、少し落ち着いた僕の身体が、ふたたび火がついたように熱くなり……
大量に放たれたイグナシオ様のフェロモンに刺激され、僕の足はガクガクと震えて崩れ落ちそうになる。
イグナシオ様はすばやく僕を抱き上げ、キスをしながら居間の奥にある寝室へ続く扉へ向かう。
「ジェレミー… 親しい者たちはオレをナシオと呼ぶ。 君にもそう呼ばれたい」
「…え?」
ナシオ? …愛称?
イグナシオ様は機嫌良くそれだけ言うと返事を聞かず… 僕の唇を塞いで寝室の扉を勢いよく開いた。
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