浮気な婚約者を忘れ、一夜の恋に僕を捧げる

金剛@キット

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13話 部下たちの最期 イグナシオside


 戦争で顔に大きな傷をって以来、オレが夜会に顔を出すとあからさまにけられたり、顔をそむけられるようになった。

 元々社交は好きではなかったし、顔の傷を理由に必要な時以外は社交活動を自粛じしゅくしていた。

だが…

 現在調査中の案件について王太子に報告を終えると… 戦時中、オレの部下だった者たちの顔が見たくなり、王宮で開かれる舞踏会への出席を決めた。




閣下かっか、あそこを見て下さい。 赤い花がいけてある大きな花瓶かびんの前です」

 現在、軍で調査中の案件を任せている部下のアクセルが、オレに耳打ちをした。

「ん? 何だアクセル?」

「あそこに長い黒髪の男性オメガがいるでしょう? 彼がメアヴェール伯爵家のアルベルトとダミアンの弟です」

「あのオメガが…?」
 アルベルトとダミアンも黒髪だった。 ここからでは距離があって瞳の色はわからないが… 兄弟から聞いた話では、ネモフィラの花のような清らかな青い瞳だと言っていた。 

「ええ。 オメガの弟の名前は…… ダミアンに聞いたけど忘れてしまいましたが。 彼で間違いないです。 戦争前にメアヴェール伯爵家を訪ねたら、ダミアンがオレの結婚相手に『弟はどうだ?』 …と彼を紹介されたのをおぼえています」

「……」
 弟の名前は… 確か… ジェレミーだと兄の方のアルベルトが言っていた。 いつも自慢げに弟の話をしていたから。 


『閣下、弟のジェレミーは性格が素直で可愛くて… 可憐なオメガなのです』

 アルベルトとダミアンの兄弟も黒髪に青い瞳を持ち、人の目をく美形だった。

 オメガでも彼らの弟なら、アルベルトが自慢していた通り美人なのだろうと… ジェレミー本人に会ったことは無いが、オレはそんな印象を持っていた。


「紹介された時は戦争を生き残れたら… ダミアンに弟との結婚を考えても良いと答えましたが……」

「そうか…」

 アクセルは学友との思い出を語りながら、寂しそうに微笑んだ。

 オレよりもずっと若く将来有望だったのに、戦場で命を散らした部下たちの名前を久しぶりに聞き、胸がズキズキと痛む。

「少し前に気づいて彼を見ていたのですが… 何かトラブルに巻き込まれたようですね。 一緒にいる2人組と言い争っているみたいだ」 

「……」
 アクセルに言われて注意深く見ていると、確かにそう見える。

「ダミアンが生きていたら… あんなふうに弟が困ることも無かっただろうに。 すみません、閣下かっか。 彼を助け出したほうが良さそうなので…」

 ジェレミーのところへ向かおうとする部下の肩をつかんで止めた。

「いや、アクセル… オレが行く。 ダミアンとアルベルトには借りあるから」
「閣下?」

 部下を置いて、オレはその場を離れた。



 オレが立案した奇襲きしゅう作戦で、少数精鋭しょうすうせいえいの部下たちと共に敵の背後をつくことに成功し、勝利を確信していた。 

 …それなのに銃弾じゅうだんの雨が降りそそぐ中、予期せぬアクシデントに遭遇そうぐうし戦場が混乱した。

『クソッ… また不発だ!! 何なんだこの不良品は… 銃弾じゅうだんが発射できないぞ?!』

 新しく支給された弾薬だんやくを持って最前線へ出たら、マスケット銃に装填そうてんした弾の半分が発射されず不発で終わってしまうのだ。

 発射されても飛距離が短い。 恐らく火薬に問題があるのだろう。

『うあっ…!!』
 オレは部下たちと共に地面に転がり、マスケット銃に火薬と弾を装填そうてんしていると、顔と脇腹を激痛が襲う。
 
『閣下?!』
『クソッ… やられた… ううっ!』

 それでも新しい弾薬を銃に装填そうてんし発砲しようとしたが… また不発に終わり、オレは負傷した脇腹を押さえ、目に入った血を首に巻いていたスカーフでぬぐった。

『閣下!! ココはいったん退きましょう…!』
『いや、ダメだ! アルベルト!』
『ですが… 閣下!』

『今からお前がオレから指揮を引き継ぎ、奇襲きしゅう作戦を成功させろ!』
 奇襲作戦を実行する部隊の中で、オレの次に高位の士官はアルベルトだった。

『ですが閣下! こんな半分も使えない弾薬では…』

『それでもやるしかない! 命令する、お前が指揮をしろ! オレたちの奇襲が成功するよう、王太子が自分の首をさらしてまで敵を引き付けている。 ここでオレたちが下がれば、今度はおとり役の王太子がられて、我が軍は総崩そうくずれになるだろう!』

 オレの補佐官を務めるアルベルトもそのコトを良く理解していたが、あまりにも部下たちの犠牲ぎせいが多く、このまま進めば奇襲部隊の全滅ぜんめつもあり得ると考えた。

『兄上、行きましょう! …閣下、後はオレたちにお任せ下さい! 必ず敵のケツに喰いついて、息の根を止めてやりますよ!』

 すぐ後ろに続いて来ていたダミアンが、話に割って入り力強くった。

『任せるダミアン!』

 オレと弟ダミアンのやり取りを見て、兄のアルベルトはため息をつきながら指揮を引き継いだ。

『わかりました。 閣下は無理せず下がって下さい!』
『頼む、アルベルト。 2人とも必ず帰って来い!』
『了解しました!』
『閣下もお気をつけて!』 

 アルベルトとダミアンの生きた姿を見たのが、それが最期さいごとなった。


 有能なオレの補佐官で友人でもあった、メアヴェール伯爵家の兄弟を失い多大な犠牲を出したが…
 襲撃作戦で敵国の将軍をち取り、その成功が大きく戦況を変え王国を勝利に導く流れを作った。




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