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30話 失踪 イグナシオside
しおりを挟む手さげランプを持ってジェレミーを置いて離れた場所に戻ったが、やはりジェレミーの姿はどこにもない。
「クソッ! ジェレミー… どこに行ったんだ?!」
この場所を捜しても、たぶんジェレミーは見つからない。 マウリシオとどこかに消えたのは間違いないだろう。
嫉妬からくるオレの思い込みかも知れないと『まさか、ジェレミーは自分からマウリシオについて行ったのか?』 …と少しだけ疑ったが。
ジェレミー自身が元婚約者マウリシオの話をする時、ひどく冷ややかな表情をしていたことを思い出し、自分の『嫌な予感』の方を信じることにした。
「閣下! これに見覚えはありませんか?」
部下のアクセルが手さげランプで照らした地面を見ると、そこにはエメラルドがはまったブローチが落ちていた。
「コレは… オレがジェレミーに贈った物だ! 留め具が曲がって壊れている… 強引に引きちぎられでもしたのだろう」
つまりジェレミーはブローチを引きちぎられるような暴力を、誰かから受けたことになる。 恐らく相手は元婚約者マウリシオだ。
他に手掛かりが無いかとアクセルと手分けして、暗い地面を手さげランプで照らし捜していると… それを見つけた。
「地面に… 何か重いモノを引きずった痕跡があるな…!」
ジェレミーを引きずった跡で間違いないだろう。
引きずられた跡を追って行くと、散歩道に敷かれた石畳で途切れていた。 マウリシオは散歩道を使って逃げたのだ。
「これは… ジェレミー君は誘拐されたので間違いありませんね。 誘拐犯は何のために攫ったのでしょうか?」
最初はオレの話を聞いても半信半疑だった部下のアクセルも、今は亡き友人の弟を心配し顔を強張らせている。
「我々の捜査を妨害する為か? あるいは個人的理由か? 捕まえてみないとわからないな…」
オレと部下たちは戦争が終わった後、新たな戦いを始めた。
戦争中に送られて来た、不良品の火薬が仕込まれた弾薬のせいで、数えきれないほどの兵士が最前線で命を落とした。
火薬の供給元はいくつかあり、その中のケンプトン男爵家が不良品を出した、供給元であることまで我々は突き止めた。
…だが、決定的な証拠が見つからなくて、ケンプトン男爵を捕まえることができず、今はまだ足踏み状態のままだ。
「部下たちを呼び寄せます!」
「頼む! それとケンプトン男爵家の馬車が、王宮から出ていないか調べてくれ!」
「はい、閣下!」
走ってゆくアクセルの後ろ姿を見送り、オレはジェレミーが付けていたブローチをにぎりしめた。
「ケンプトン男爵家からジェレミーを切り離すことに成功したのに… 油断していた!」
ジェレミーから不誠実な婚約者マウリシオが、ケンプトン男爵家の跡継ぎだと聞き、オレはすぐに婚約解消するよう、メアヴェール伯爵を説得しに行った。
アルベルトとダミアンの家族が、ケンプトン男爵家が行った非道極まりない犯罪行為に巻き込まれるのだけは避けたかった。
何より… ジェレミーを愚かな婚約者に渡したくなかったからだ。
雲間から欠けた月があらわれ、ほんの少し明るくなった夜空を見上げて、戦争から連れ帰れなかった部下たちの、人懐っこい笑顔を思い浮かべる。
ジェレミーの無事を願い、部下たちに祈った。
「アルベルト、ダミアン… オレが救い出すまで、どうかジェレミーを守ってやってくれ! 頼む!」
オレは決意を新たにして、王宮内の執務室へ向かった。
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