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42話 初めての夜に ナシオside
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始めから番にするつもりで、ジェレミーの『初めて』を受け入れた訳ではなく、本当になりゆきだった。
「『初めて』の性体験で疲れて熟睡するジェレミーの寝顔を見ながら、どうやってケンプトン男爵家から、ジェレミーとメアヴェール伯爵家を切り離そうかと考えているうちに… 自分の愛妾にしようと思いついた」
「あの夜に? じゃあ… 僕は初めてナシオと出会った日に、番になっていたの?」
「そうだ」
「だって… ずっとネックガードを付けていたし」
「ジェレミーは深く熟睡していたから、オレがネックガードを外しても気付かなかった。 外せばうなじにオレの噛み痕がついているはずだ…」
強くうなじを噛めば痛みで起きるかと思ったが、それでもジェレミーは眠っていた。
「そんな……」
話を聞いても、まだ信じられないという顔をして、ジェレミーは自分のうなじを守るネックガードに触れる。
「だが翌日には身体の周期が狂って、ジェレミーは発情期になっただろう?」
「あ…っ!」
あの時は…
『オレがジェレミーに与えた性的刺激が、発情期を引き起こしたんだ』
…と言って誤魔化した。
だが本当は…
「アレはたぶん、初めて性体験したというよりも… オレというアルファの番ができて、ジェレミーのオメガの身体が番の体質へと変化したからだと思う」
番を持ったオメガは、番のアルファ以外のアルファ・フェロモンを感知できなくなり…
オメガ自身が放つオメガ・フェロモンも、番のアルファ以外は感じ取れない性質のモノへと変わる。
そして体質が変わったオメガは、番以外のアルファとは性交渉ができなくなる。
強い拒絶反応を引き起こし最悪の場合、死に至ることがあるからだ。
「……」
オレの話を聞くうちにジェレミーはあまりの衝撃で言葉を失い、黙りこんでしまった。
「ジェレミーをケンプトン男爵から救い出したかったとはいえ、一方的にオレの独断で番にしたのだから… もっと泣きわめいて、オレを罵り責めてくれて良い」
むしろオレは、ジェレミーにそうして欲しい。 オレの裏切りの罰をジェレミーに与えて欲しかった。
「……」
「だが、これからのコトもあるから… 話だけは最後まで聞いてくれ」
今までオレは王族のアルファにしては、傲慢な質ではないと自負していたけれど… ジェレミーにこんな非情なことをするオレは、アルファの例にもれず傲慢な人間なのだと自覚した。
「……っ」
ポロリッ… と大粒の涙がジェレミーの青い瞳からこぼれた。
涙をぬぐってやりたくて頬に触れようと手を出したら… ジェレミーは少しだけ身体を引き、オレの手を拒絶した。
ジェレミーには触れず、オレは自分の膝に手を下ろす。
今はこんなオレに触れられたくないのだろう。
「貧困にあえぎ、頼りになるアルベルトとダミアンを失い、窮地に陥っている人たちだから… オレが『ケンプトン男爵は重罪を犯している』 …と話しても、ジェレミーのお父上がオレの説得に応じてくれるような人物かがわからなかった」
オレが何かを話すたびに、ジェレミーが深く傷ついてゆくとわかっていても、途中で話すのを止めることはできない。
ジェレミーは涙を浮かべた瞳でオレを睨みつけた。
「…お父様はマウリシオ様との結婚を反対していた。 僕が弟のハビエルのためにと… 説得したんだ」
「オレは1度もメアヴェール伯爵に会ったことがないから、信用できなかった。 もちろん今はメアヴェール伯爵を信用しても良い人物だと知っている」
ジェレミー自身が結婚を望んだと言っても… 最終的にメアヴェール伯爵が、悪い噂が尽きないケンプトン男爵家に息子を嫁がせようと決めた。
「だから… オレの考えが通じる相手か不明なままで、ジェレミーのお父上を信じて期待するよりも… オレの力でケンプトン男爵家から切り離すなら、番にして自分の愛妾にするのが確実だと、合理的に判断した」
「合理的……?」
「ジェレミーには何もかも… 事後承諾ですまないと思っている」
最初の夜、ジェレミーもオレに好意を持っていると感じた。 それならちょうど良い。 後からでも上手く懐柔できるだろうと……
「僕は… ナシオが何を考えているのか… いつもわからなかったのは、そのせいなんだ? こんなの、わからないはずだよねぇ……」
ジェレミーがうつむいた拍子に、ポタッ… ポタッ… と涙のつぶが落ちて、明るいグリーンの服に小さな染みができる。
「あの時のオレがどれだけ傲慢で浅はかだったか… 今ならわかるよ」
ジェレミーを救うためだと言いながら…
愛妾という報われない立場に据えてでも、オレはジェレミーを番にする理由が、欲しかっただけかもしれない。
王家と安定した治世のために… オレは一生、1人で生きると決めていた。
なのに親しい友人と気心の知れた部下たちを、次々と亡くした辛い戦争を経験した後で、オレの決心は揺らぎ始めた。
オレはこの孤独に耐えられるのか? …と。
「『初めて』の性体験で疲れて熟睡するジェレミーの寝顔を見ながら、どうやってケンプトン男爵家から、ジェレミーとメアヴェール伯爵家を切り離そうかと考えているうちに… 自分の愛妾にしようと思いついた」
「あの夜に? じゃあ… 僕は初めてナシオと出会った日に、番になっていたの?」
「そうだ」
「だって… ずっとネックガードを付けていたし」
「ジェレミーは深く熟睡していたから、オレがネックガードを外しても気付かなかった。 外せばうなじにオレの噛み痕がついているはずだ…」
強くうなじを噛めば痛みで起きるかと思ったが、それでもジェレミーは眠っていた。
「そんな……」
話を聞いても、まだ信じられないという顔をして、ジェレミーは自分のうなじを守るネックガードに触れる。
「だが翌日には身体の周期が狂って、ジェレミーは発情期になっただろう?」
「あ…っ!」
あの時は…
『オレがジェレミーに与えた性的刺激が、発情期を引き起こしたんだ』
…と言って誤魔化した。
だが本当は…
「アレはたぶん、初めて性体験したというよりも… オレというアルファの番ができて、ジェレミーのオメガの身体が番の体質へと変化したからだと思う」
番を持ったオメガは、番のアルファ以外のアルファ・フェロモンを感知できなくなり…
オメガ自身が放つオメガ・フェロモンも、番のアルファ以外は感じ取れない性質のモノへと変わる。
そして体質が変わったオメガは、番以外のアルファとは性交渉ができなくなる。
強い拒絶反応を引き起こし最悪の場合、死に至ることがあるからだ。
「……」
オレの話を聞くうちにジェレミーはあまりの衝撃で言葉を失い、黙りこんでしまった。
「ジェレミーをケンプトン男爵から救い出したかったとはいえ、一方的にオレの独断で番にしたのだから… もっと泣きわめいて、オレを罵り責めてくれて良い」
むしろオレは、ジェレミーにそうして欲しい。 オレの裏切りの罰をジェレミーに与えて欲しかった。
「……」
「だが、これからのコトもあるから… 話だけは最後まで聞いてくれ」
今までオレは王族のアルファにしては、傲慢な質ではないと自負していたけれど… ジェレミーにこんな非情なことをするオレは、アルファの例にもれず傲慢な人間なのだと自覚した。
「……っ」
ポロリッ… と大粒の涙がジェレミーの青い瞳からこぼれた。
涙をぬぐってやりたくて頬に触れようと手を出したら… ジェレミーは少しだけ身体を引き、オレの手を拒絶した。
ジェレミーには触れず、オレは自分の膝に手を下ろす。
今はこんなオレに触れられたくないのだろう。
「貧困にあえぎ、頼りになるアルベルトとダミアンを失い、窮地に陥っている人たちだから… オレが『ケンプトン男爵は重罪を犯している』 …と話しても、ジェレミーのお父上がオレの説得に応じてくれるような人物かがわからなかった」
オレが何かを話すたびに、ジェレミーが深く傷ついてゆくとわかっていても、途中で話すのを止めることはできない。
ジェレミーは涙を浮かべた瞳でオレを睨みつけた。
「…お父様はマウリシオ様との結婚を反対していた。 僕が弟のハビエルのためにと… 説得したんだ」
「オレは1度もメアヴェール伯爵に会ったことがないから、信用できなかった。 もちろん今はメアヴェール伯爵を信用しても良い人物だと知っている」
ジェレミー自身が結婚を望んだと言っても… 最終的にメアヴェール伯爵が、悪い噂が尽きないケンプトン男爵家に息子を嫁がせようと決めた。
「だから… オレの考えが通じる相手か不明なままで、ジェレミーのお父上を信じて期待するよりも… オレの力でケンプトン男爵家から切り離すなら、番にして自分の愛妾にするのが確実だと、合理的に判断した」
「合理的……?」
「ジェレミーには何もかも… 事後承諾ですまないと思っている」
最初の夜、ジェレミーもオレに好意を持っていると感じた。 それならちょうど良い。 後からでも上手く懐柔できるだろうと……
「僕は… ナシオが何を考えているのか… いつもわからなかったのは、そのせいなんだ? こんなの、わからないはずだよねぇ……」
ジェレミーがうつむいた拍子に、ポタッ… ポタッ… と涙のつぶが落ちて、明るいグリーンの服に小さな染みができる。
「あの時のオレがどれだけ傲慢で浅はかだったか… 今ならわかるよ」
ジェレミーを救うためだと言いながら…
愛妾という報われない立場に据えてでも、オレはジェレミーを番にする理由が、欲しかっただけかもしれない。
王家と安定した治世のために… オレは一生、1人で生きると決めていた。
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