浮気な婚約者を忘れ、一夜の恋に僕を捧げる

金剛@キット

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65話 王族の義務



 僕たちはまだ、新婚ホヤホヤだから… 自分たちが人前にいることも忘れて、ついついナシオの書斎でイチャついてしまった。

 コホンッ! …とアクセル卿に咳払せきばらいをされて、僕はナシオと2人っきりではないことを思い出し、謝罪しようと振り向いた。

 そこにはアクセル卿だけでなく、護衛兵をつれた王太子殿下も立っていた。


「……ひぅっ!」
 
 執務机につくナシオのひざに、恥知らずにも子供のように抱っこされ、王太子殿下と対面したのだ。 僕はギョッ…! として固まった。

 王太子殿下はイチャついていた僕たちにニッコリとほほ笑んで…

「これは、これは… お邪魔だったかな?」

「ああ、邪魔だ! 恥ずかしがり屋のジェレミーが、珍しく自分から誘ってくれたのに…… 何の用だ、エルナンド?」

 ナシオは不機嫌そうに王太子殿下に答えると… 所有権を主張するように、ひざの上で固まる僕を長い腕でギュッと抱きしめた。

 王太子殿下はそんな僕たちを見て、こぶしで口を隠しながら笑いを嚙み殺す。

「クックックッ… 私と国王陛下父上があれほど説得したのに、妻も愛妾もいらないと、ずっと塩対応だった人が… 本当に変われば変わるモノですね」
 
「……っ!」
 え、そうなんだ? 

 王太子殿下の言葉に驚いて僕を抱きしめるナシオを見あげると、ほほがうっすらと赤くなっていた。

「それでエルナンド、何の用で来たんだ? オレに嫌味を言うためでは無いだろう?」
「別に嫌味を言ったつもりはありませんが… ナシオ叔父上に報告がありまして…」

 王太子殿下はチラリと周囲に視線を移す。 ナシオと2人で落ち着いて話をしたいのだろう。

「応接室へ行こう」

 僕を抱いたままナシオは立ちあがり、そのまま書斎を出ようとするから…

「ナシオ、僕は自分で部屋に戻るからおろしてよ!」
「いや、ジェレミーにも関係のあることだから、一緒に聞こう」

「え?」
 王太子殿下の話を聞く前から、ナシオは殿下が何を話すか知っているの?

 僕がキョトンとすると… ナシオは殿下にたずねた。

「そうだろう? エルナンド」
「ええ、叔父上。 ジェレミー君にも関係のある話です」
「ほらな!」

 そう言われて当然のように、僕はナシオに抱っこされたまま、応接室へ連れて行かれた。




 護衛兵は応接室の外で待機させ、ナシオと殿下は向かい合ってソファセットに腰をおろす。

 王太子殿下の話を、おひざに抱っこ状態で聞くのが嫌で、ナシオの耳元でヒソヒソと「今夜から1か月、別の寝室で寝るから」と脅して抱っこを断固拒否した。

 さすがに僕の脅しを無視できず、ナシオは渋々しぶしぶ自分の隣に僕をおろした。
 やれやれ…


「それで… 陛下とは話がまとまったのか?」
「ええ。 私が… 新たに妃を2人めとり、どちらかが王子を産んだら叔父上の王位継承権、放棄を納得してもらいました」

「いきなり2人もめとるのか?」

「……っ!」
 王太子殿下が妃をめとる? ナシオが王位継承権を放棄するために、殿下が協力してくれるということだよね?

「今の… 1人目の妃が北部貴族出身なので、勢力のバランスを考えて南と西から1人ずつです」
「なるほど… そういうことか」

「……」
 ああ、そう言えば… 王太子殿下のお母様が中央(東部)貴族出身だから、3人だとそれぞれ1人ずつでちょうど良くなるのだろう。 うう~ん……?

 ちなみにナシオのお母様は南部貴族出身で、国王陛下とは年が離れた腹違いの兄弟になる。


「実は以前から第2妃をめとらないかと、大臣たちにすすめられていたのですが… 今回、妃候補にあがっている2人は戦争で婚約者を失くし、嫁ぎ先に困っている令嬢たちだとわかったので、南と西に貸しを作るのも良いだろうと…」

「婚約者を失い悲嘆ひたんに暮れる令嬢たちを、慈悲深い王太子殿下は2人同時にめとることで、悲しみから救い出すということか?」

「はい。 その方が王国民たちも戦後間もないこの時期に、私が結婚する意味に納得するでしょうから」

「そうか… 悪いなエルナンド、急かしてしまって」

「いいえ、1人目の妃が子供を作ることに、協力的ではありませんから… いずれはめとろうと思っていました。 ですから良い機会なのです」


「……」
 やっぱりアルファの妃殿下と、アルファの王太子殿下とでは… 相性が悪いんだ?

 夫婦関係が上手く行かないとわかっているのに、王族は強くて優秀なアルファの血を守るため、傲慢ごうまんなアルファ同士で結婚しなければいけないなんて…… 本当に頭が下がる。

 こんな話を聞いた後だと、自分とナシオが正式に結婚できるようになっても、罪悪感がつきまとい、自分の幸運を素直に喜べないかも知れない。

 何んとなく落ち込んでいると… 穏かに微笑む王太子殿下と目が合った。
 『君も気にするな』 …と殿下に言われた気がして、ハッ… とした。

「ナシオ叔父上には、アルベルトとダミアンのために、何としてもジェレミー君を幸せにしてもらいたいですからね! ですから叔父上、頼りにしていますよ」

「はははっ… エルナンド! そんなことは言われなくても、お前の望みを叶えてやるさ!」

 ほがらかな笑い声をあげて、ナシオは王太子殿下に鷹揚おうような態度で答えた。

「……」
 こんな裏事情を知らなければ、殿下がどんな思いで妃をめとると言っているのか、何も考えずに僕は、単純に『おめでとうございます!』と無神経なお祝いの言葉を連呼していただろう。

 今は殿下にかける言葉が見つからない。

 たぶんナシオはそんなことも見越して、僕が殿下の前で失言しないよう、この場に同席させたんだ。

 隣で笑うナシオを見あげると、視線に気づいたナシオが僕のほほにキスをした。

 ジッ… と間近で顔を見つめると… ナシオは笑っているけれど、金の星が散りばめられたグリーンの瞳に真摯しんしさがあった。

「……っ」
 やっぱりナシオも心の中では、罪悪感を感じて悲しんでいるんだ。

 僕はナシオに軽くうなずきほほに触れた。

 王太子殿下に向きなおり、僕はナシオにならってほほ笑んだ。 何を言えば良いかわからないなら、口を閉じているしかない。


 …そして少しでも、殿下の心が平穏でありますようにと祈るのみ。






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