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5話 カステーロ
しおりを挟む楽しそうに微笑みながら馬房の中の馬を一頭、一頭、眺めるヴィトーリア。
「君… 本当に馬が好きなんだね?」
「アンタは嫌いなの?」
「嫌いではないけど、馬は僕より兄さんの方が好きかな… 兄さんは騎士になるつもりだから」
「……」
騎士と聞き急に黙り込むヴィトーリア。
「兄さんはね、子供の頃から剣の先生に付いてずっと厳しい鍛錬を積んで来たからスゴク強いんだ! 王都の学園でも一番強かったしね、僕はダメだったけどさ…」
ヴィトーリアが黙り込んでしまったコトに気付かず、ペイシェは朗らかに兄自慢をする。
「ねえ、君はどの馬が一番好き?」
「入口から3番目に居た去勢馬が一番良いかな… 体力ありそうだし」
フワフワと艶やかな髪を揺らしながら隣を歩くヴィトーリアに、仲良しの友達を見つけたと言わんばかりに、ペイシェはニコニコと途切れるコト無く話し続ける。
「もしかして… 君はスゴク兄さんと気が合うのではないかな? だってあの馬は兄さんが選んで買った馬だもの」
ペイシェに言われてスゴク嫌そうな顔をするヴィトーリア。
馬房を全て見終わりると厩舎の外へ出て、木を組んだ柵で囲った馬場に向かう。
「あ! この中の馬はまだ、調教が終わってないから、近づくと危ないから気を付けてね?」
綱を2本繋ぎ、2人の男が綱の先を掴み、嫌がる馬をグルグルと円を描くように早足で歩かせている。
馬は嫌がり何度も首を振り暴れる。
ヴィトーリアの心臓がドクンッ…ドクンッ…ドクンッ…ドクンッ…と跳ねる。
薄い胸のあばらを砕いて突き破るのではないかと思うほど大きく心臓が跳ねる。
馬場を歩く青毛の馬が嘶く… 彼もヴィトーリアに気付いた。
「あっ!! ダメだよヴィトーリア…危ないから!!」
ペイシェが叫ぶがヴィトーリアの耳には届かない。
柵によじ登りヒラリと飛び降りると、ヴィトーリアは彼に向って夢中で走る。
「カステーロ―――ッ!!!」
「オイお前!! 危ないぞ寄るな―――!!」
調教師たちの制止を振り切り馬の前に飛び出す小さな身体。
「カステーロ!」
馬はピタリと止まり、親愛の情を表すようにヴィトーリアに長い顔を摺り寄せる。
「どうしてアナタがココに居るの?」
溢れる涙を拭うコトも忘れ、ヴィトーリアは青毛の馬を抱きしめる。
美しい馬体には鞭で打たれた傷がいくつも残っていた。
「…どうして?!」
「ヴィトーリア!!」
父カルネイロに呼ばれカステーロの首を撫でながら振り返るヴィトーリア。
「お父様! カステーロがいる!!」
「こちらへ来なさいヴィトーリア!」
オエスチ侯爵との話し合いが終わり、使用人に居場所を聞き、厩舎までヴィトーリアを迎えに来た父カルネイロ。
カステーロをもう一度抱き締め顔を撫でてから、父の元へ向かい馬場に入った時と同じように木の柵を越える。
「お父様カステーロです、オエスチ侯爵に返してもらいましょう!」
「ダメだ、あの人はそんなに優しい人ではないよ」
隣に次男のペイシェがいるコトなど忘れてカルネイロはヴィトーリアの願いが叶わない理由を教える。
「でもカステーロは私の馬です!」
泣いて縋るヴィトーリアの細い両肩を掴みカルネイロは諭す。
「たとえウチから盗まれた馬でも誰もが納得するような、ウチの馬だと証明する術が無ければダメなんだよ… 」
「あの馬は2日ほど前に、西方騎士団の団長に紹介された人からお父様が買った馬です! とても上等だけど身体が鞭で傷ついているから格安で買えたと喜んでいました… だから盗んだ馬ではありません!」
黙っていられず横から口を挟むペイシェ。
「分かっているよ、オエスチ侯爵が盗んだのではないと… ただ、エスケルダから盗まれた馬を買ったダケだ!」
ヴィトーリアが今まで聞いたコトの無いヒヤリと冷たい声でペイシェの話を訂正するカルネイロ。
「……っ!!」
ハッと息を呑みペイシェも黙り込んでしまう。
「帰ろうヴィトーリア、オエスチ侯爵は一度手に入れたモノを簡単に手放すような人ではないのだよ」
「でも、お父様!」
紺青の瞳から涙をポロポロと零し、カルネイロの腕にヴィトーリアは掴まり必死で乞う。
カルネイロは息子の細い身体を抱きしめて、もう一度諭す。
「耐えるんだ… 私たちはコレからどう生きて行くかを考えなくてはならないのだから、どうしようもないコトに関わっている暇は無い」
親子は寄り添い、お互いを支え合うようにオエスチ侯爵家を去る。
アーヴィは自分を池に落とし、屈辱を与えたヴィトーリアをずぶ濡れのまま追いかけて来て、親子の会話を茫然と聞くコトになった。
初めは馬の前に飛び出したバカを助けようと馬場に飛び込んだが、気の荒い馬が親愛の情を見せそのバカに擦り寄り甘える姿を見て顎が外れそうになるほど驚いた。
次にエスケルダから盗まれた馬を侯爵家が買ったという話で言葉を失い気分が悪くなった。
青毛の馬を見せられて、欲しがったのは父ではなくアーヴィ自身だからだ。
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