侯爵に買われた妻Ωの愛と葛藤

金剛@キット

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7話 父と長男 アーヴィside



 書斎のドアをノックし、アーヴィが中へ入るとオエスチ侯爵イーダは書斎の机で書類にサインをしていた。


「父上、お話があります」

「アーヴィか… 私からもあるぞ」
 侯爵は顔を上げ息子の顔を見上げ、ニヤニヤと笑う。

「ズイブンご機嫌ですね… 何か良いコトでもありましたか?」

「エスケルダの土地を全部買い取ることになったのだ」

 こうなるコトを予想していた侯爵は土地に関する契約書を用意していた。
 その契約書に数時間前、エスケルダにサインさせ、今はトントンと動かす指の下に重ねてある。

「全部? 確か結婚の持参金代わりに譲られるという話ではありませんでしたか?」

「こちらから婚約を解消する代わりに土地を私が全部買い取る契約を結んだのだ」

<だからニヤニヤ機嫌よく笑っていたのだ>
 アーヴィは嫌そうな顔をする。

「ソレは良かったですね、父上はずっと隣の土地を欲しがっていましたよね」

 嫌味のつもりでアーヴィは言ったのだが侯爵には通じなかった。


「ああ、安く手に入って良かったよ」
 嬉しそうに満面の笑みを浮かべる父イーダ。

「安くですか…」
 アーヴィの顔に父への軽蔑が浮かぶ。

「ああ! そうだ」

 隣人の不幸を喜んでいるように見える父が理解できず、アーヴィは気持ち悪かった


「それよりも先日買った青毛の馬がエスケルダから盗まれた馬だとご存じでしたか?」

「何だと?!」
 侯爵のニヤニヤ笑いが引き、目を剥く。

「西方騎士団の騎士が強盗団と繋がっているという話も聞きました」

「そんな話、誰にきいたのだ?!」

「オレの元婚約者にですよ」
 冷笑するアーヴィ。

「エスケルダのオメガか?!」

「馬を売りに来た馬主が強盗団の1人なのではありませんか? だとすると口利きをした騎士団長も仲間かも知れない」
 侯爵の顔色を見ながら淡々と話すアーヴィ。

「そんな馬鹿な! 騎士団長のオンテンは私の学園時代からの友人だ、そんな奴ではない!!」

「ですが間違いなく馬はエスケルダのものです」

「まあいい、オンテンに馬主に付いて尋ねてみる… たかが馬で強盗団に関わりを持つようなコトになったらオエスチ侯爵家の名に傷がつくからな!!」

 侯爵はイライラと机を叩き。


「ですから明日、馬はエスケルダ家に返します」

「何故だ? あれは金を払ってウチが買ったものだ、なぜ返さなければならない?」


 父イーダは机を打ち鳴らすのを止めて、指を組み両腕を机の上に置くと、物わかりの悪い子供に世の中の道理を教え導こうとするような顔をする。


「ですが、盗まれた馬なのは間違いありませんから!」
 
「あの馬が、エスケルダのモノだという確かな証拠はあるのか? 無いだろう?」

「ですが…父上!!」


「話は終わりだ!」


 面倒そうに話を切り上げる父イーダに、アーヴィは憤りを感じ、握り締めた拳をブルブル震わせる。




 ヴィトーリアが号泣するのを宥め諭すエスケルダ家の当主の姿が脳裏を過ぎる。

『オエスチ侯爵は一度手に入れたモノを、簡単に手放すような人ではないのだよ』

 大きな紺青色の瞳から溢れる涙に、魂を引き絞るような鳴き声に… アーヴィはそれまでの怒りを忘れて胸が痛んだ。
 
 何か一つぐらい、彼に取り戻してやりたいと思うほどに…


<一夜で大切なモノを失った人たちから、更に何かを奪おうとする非道な人間がいる… その恥ずべき人間が自分の父親だと思うとこんなに辛いコトは無い…>

 恥ずべき父の行いを、一番近くにいる息子のアーヴィが止めるコトの出来ないもどかしさが、大きな無力感となり襲い掛かる。

 子供から大人になる一番大切な時期に、醜悪な父から離れ王都の学園で過ごせたのはアーヴィにとって何よりも幸運だった。


「父上、学園で紹介された隣国の騎士がオレに剣技の指導をしてくれるというので、1年ほど隣国へ修行しに行きたいのですが?」

 アーヴィは侯爵をジッと無表情で見つめる。


「隣国だと? 我が国でも強い騎士はいくらでもいるではないか、何もそんなに遠くまで行かなくても…」
 予想通り難色を示し、アーヴィの決意を曲げさせようとする父イーダ。

「ですが、何度手合わせしても勝てませんでした… 我が国では強い騎士ほど弟子を取りたがりませんし、このような機会は滅多に無いコトですから、学園側もオレに引き合わせてくれたのでしょう…」 

「…金と時間をかけてソコまでやる必要があるのか? お前は将来、侯爵になるのだし」

「今のままでは王立騎士団には入れませんから… 我が国の辺境に位置するオエスチ侯爵家を継ぐなら、武勇を示し名を上げれば、王都の大貴族たちに西の田舎者とバカにされるコトも無くなるのではありませんか?」


 ただの騎士ではなく、王立騎士団の騎士と言えば、侯爵の虚栄心と欲望を刺激できるとアーヴィは知っていた。


「良いだろう、好きにしろ!」

「ありがとうございます」



 渋々アーヴィの願いに応じた父イーダに頭を下げて書斎を出る。

 


 学園を卒業した後、将来爵位を継承した時の為に領地経営を父から学ぼうとしばらく家にいたが、このまま父と共に暮らすのはアーヴィには耐えられなかった。







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