竜血公爵はオメガの膝で眠る~たとえ契約結婚でも…

金剛@キット

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10話 不屈

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 乱暴に身体をすられ、アルセは深い眠りから強引に目覚めさせられると… 医療室の若い医師に告げられた。 


「ほら… 治療は終ったから起きて寮に戻りなさい!」

「え?!」
 …何?! あれ、医師せんせい?! 

 突然、目覚めさせられ訳がわからず、医師にうながされるままアルセは身体を起こそうとするが… お腹とあばら骨に激痛が走り、診療ベッドの上で身体を丸めて苦痛のうめき声をあげた。  

「はっ… っう…?! くううぅ……!」
 痛いっ…! 何これ?! 痛くて息が苦しいぃ…!! ……そうだ、僕を犯そうとしたアルファたちに、抵抗したら殴られて… それから石床に、胸を押し付けられたんだ! あの時、あばら骨がミシミシいっていたから…! クソッ… ゲスどもっ…!!

 あまりの痛みで、アルセの目尻にジワリと涙がにじんだ。


「君の身体のケガはしばらく療養が必要だ… 自宅に連絡しておいたから、迎えが来るはずだ… 今すぐ寮に戻って、帰る支度をしなさい」

 若い医師は、医療室のすみに置かれた洗面器で、丁寧に自分の手を洗いながら、冷ややかな声で言い放つ。

「あ……」
 胸のあたりから、炎症えんしょうをおさえる薬草のにおいがする…? 

 アルセは服の上から、自分の身体に触れてみると、胸やお腹に薬草の湿布しっぷが、当ててあるのに気づいた。 

「いつまでも診療ベッドに居座られると、迷惑なんだよ! 目覚めたのなら、自分の足で寮に戻りなさい」

「・・・・っ」
 ううっ… 僕だって、こんな場所に居たくないよ! それなのに… 僕が眠っている間に、身体を見られたうえに触れられたなんて! たとえ医者でも、こんな奴に…! 悔しい! 悔し過ぎるよ!!

 再び気を失いそうなほど、服の下の胸やお腹が痛んだが… アルセは一瞬でも早く、医療室から出て行きたくて、気力をふりしぼって身体を起こし、診療ベッドから床に足を下ろす。


「フンッ… 治療の礼も無しか? 下半身がだらしないだけでなく、礼儀も知らないようだな?! いい加減、意地を張らずに退学してはどうだ? そうすれば痛い目にあわずに済むだろうに」
 忌々いまいましいことだと若い医師は鼻を鳴らし、アルセをにらみながら嫌味たっぷりの言葉を口にする。

「・・・・・」
 何も知らないくせに、勝手なことを! 医者がケガ人の治療をしないで、他に何をすると言うんだ?! 勤務中に時々、酒の匂いをプンプンさせているような奴に、言われたくないよ! 学園の専属医師の職はヒマだからって、隠れてお酒を飲んでいることを、僕は知っているんだからな! 今は薬をもらいに来なければいけないから、誰にも言わず秘密にしているけれど… 学園を卒業する時になったら、絶対そのことを暴露ばくろしてやる!!

 痛みに耐え… 屈辱くつじょくに耐え… 悔しさに耐え… ギリギリと歯を食いしばりながら、アルセは医療室を出た。



「・・・・・・」
 誰に何を言われたって、退学は絶対にしないから!! 何が何でも、学園を卒業してやる! どれだけ嫌がらせをされたって… 僕は耐えてみせるさ! 
 

 最近は特に、コルティナ侯爵家の家門のアルファたちから受ける、嫌がらせが激しくなっていて、アルセの身体に生傷なまきずが絶えない。
 若い医師の世話になりたくなくて、自力でケガの手当てをしようと、アルセは薬だけを医療室に取りに来るようにしているのだ。 
 
 従弟のムゲーテが流した虚偽きょぎの噂を信じ、横柄おうへいな態度でアルセを尻軽だと決めつけて嫌う若い医師が… アルセの方も大嫌いだった。 


 学園じゅうの生徒や教職員に嫌われ、乱暴な嫌がらせをされ、屈辱に耐える日々が続いたとしても… 弱音をかずに、学園生で居続ける大きな理由がアルセにはある。

 オメガの身であるアルセは、亡くなった実父からクルシジョ子爵家を継ぐことが出来ず、爵位も領地も、財産、家屋敷… すべて叔父に渡すこととなった。
 ……だが、高額な学費だけは父が生前、全額学園に納めていたため、アルセは叔父を通すことなく学園で学ぶことが出来るのだ。

 言ってみれば、学費はアルセが唯一ゆいいつ、亡くなった父から受け取ることが出来た遺産であり… その遺産を途中で放棄することなど、アルセには耐えられなかった。  

「…っく!」
 こんな痛みになんて、絶対に… 絶対に! 僕は… 負けない! こんなことで、くっしたりしない!

 身体に力が入らず、よろよろと壁を伝うように歩きながらも… 絶対に諦めないと、アルセは再び意志を固める。 


 呼吸をするたび胸に激痛が走って息が切れ、血の気を失いアルセは青白い顔をしていたが… 紅玉色ルビーレッドの瞳にだけはギラギラと闘志がみなぎっていた。

 



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