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61話 葬儀2
しおりを挟む公爵位を継いでからのエスパーダは、領地を滅多に出ることが無く… 今まで、王都での社交活動は先代公爵夫人に任せていた。
そのため、社交界でグラーシア公爵エスパーダの名前は有名でも、エスパーダの顔を知る者は少ない。
ムゲーテとリブレも名前は知っているが、まだ一度もエスパーダ本人と、対面したことが無かった。
「あ… あなたは、 誰ですか…?! も… もしかして尻軽アルセの愛人?! だったら、口を出さないで下さい! これは、クルシジョ子爵家の問題ですから!!」
エスパーダの力あるアルファが持つ、威圧感を感じても… ムゲーテはブルブルと震えながら、卑しい笑みを浮かべ、無謀にもエスパーダに噛みつこうとした。
「なるほど… その気の強さは、アルセの従兄というだけはあるな? 私への無礼は許そう… だが、アルセへの侮辱は許さない!」
落ち着いて話しているように見えるが、葬儀の参列者たちの前で、愛する“番”のアルセを大声で侮辱され… 相手が若く未熟なオメガでも、エスパーダは激怒し、ムゲーテの暴言を見逃すことが出来なかった。
目の前の礼儀知らずに、腹を立てたエスパーダから、あふれ出した荒れ狂う怒りは… ムゲーテを極度の緊張状態におちいるまで追いつめる。
「・・・うっ!!」
顔面を蒼白にして、ムゲーテはヨロヨロと後退った。
「ムゲーテ…?!」
ムゲーテを支えていた婚約者のリブレは、チラリとアルセを見てから、エスパーダが腰から下げた剣へと視線を移し… おずおずとムゲーテの代わりに質問をする。
「あなたは… グラーシア公爵閣下ですか?」
「そうだ!」
「嘘っ…! そ… そんなまさか…っ?! ヒッ…!」
小さな悲鳴をあげたムゲーテは、自分が噛みついた相手の正体を知り、あわててリブレの背後に隠れる。
「どうか閣下! オ… オレの婚約者の… 無…無礼を、お許しください!」
家の格も、社会的地位も、アルファの能力も… 何もかも、自分の方が劣ると自覚したリブレは、その場でエスパーダに非礼を詫びた。
「私ではなく、アルセに謝罪しろ! お前たちが自作自演で広めた、醜聞については、すべて調べがついている!」
エスパーダは自分の背中で隠した、アルセの腰を引きよせて、自分の隣に立たせると… リブレに厳しい口調で、アルセへの謝罪を要求した。
「お待ちください、グラーシア公爵閣下! そのお言葉は、あんまりです! リブレがまるで、詐欺師のようなまねをしたと、おっしゃるのですか?!」
それまで黙って見ていた、リブレの父親マンディブラ伯爵が、怒りで顔を真っ赤にして、会話に割って入った。
「あなたは誰だ? 人の話に他人が割って入るとは… なんて無礼なんだ!」
エスパーダは相手がリブレの父親、マンディブラ伯爵だと気づいていたが… わざと知らないふりをして、冷淡に突き放す。
年上とはいえ、格下の伯爵が初対面で… 正式に紹介もされず、名乗りもしないで、いきなり話に口を出したのだから、エスパーダの反応は正当なものである。
「なっ…?!!!」
バカにされたと感じたマンディブラ伯爵は、ますます顔を赤くする。
そこへまた1人、話に割って入った。
「あら、エスパーダ! あの子… 妊娠しているみたいよ?」
先代グラーシア公爵夫人は、喪服に合わせた黒い扇子で唇を隠し、自分のお腹に手を当てるムゲーテを、ジッ… と見つめていた。
アルセとエスパーダを含めた、先代公爵夫人の声が届く範囲にいた人たちは… ハッ… と息をのみ、ムゲーテの華奢な身体にしては、丸すぎるお腹に気付く。
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