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65話 執務室で…
しおりを挟むクルシジョ子爵の葬儀を終え、子爵領から王都のグラーシア公爵邸に戻った時には、すでに日が暮れ空には星が煌めいていた。
きょうの葬式で大活躍だった先代公爵夫人は、自分の部屋に夕食を運ぶよう執事に指示を出し、『…疲れたから』と早々に、自室へと戻って行った。
アルセとエスパーダは、2人で少し話をしたくて、執務室へ簡単な軽食を運ばせて、仲良く食べることにする。
執務室の真ん中に並べられた、ソファセットの長椅子にならんで座り、夕食を食べ終わると… 上着だけ脱いだ喪服のまま、2人で葬儀の話をしながら、食後のお茶をゆったりと楽しんだ。
アルセはティーカップを片手に持ち、綺麗な琥珀色のお茶をながめ、ハァ―――ッ… とため息をつき、満足そうに微笑む。
「それにしても… お義母様には、本当に驚かされました!」
あの人たちを簡単に言いくるめて… そのうえ他の人たちにまで、ムゲーテとリブレの関係を、暴露してしまうなんて!! 僕は口をぽか~んと開けて、見てるだけだったし!! …たぶん、ムゲーテに醜聞を流された時、お義母様のような人が身近にいたら… あんなに苦しい経験は、しなくて済んだのかもしれないなぁ…? ああ、それにしても… びっくりしたなぁ~?!
「ふふふっ… 母上ほど社交界で、頼りになるお方は、いないからな…!」
隣でアルセが感嘆の声をあげると… エスパーダはお茶を飲みほしたティーカップを皿にのせ、カチャリッ… とローテーブルに置きながら、自慢げに自分の母を褒めた。
「ムゲーテが妊娠しているなんて… お義母様に言われなければ、僕は想像もしていなかったし… 本当にお義母様は、すごい人ですね! 同じオメガとして、尊敬します!」
「…それにしても、リブレと言うヤツは、どこまで愚かなのか…?! 何も知らされていなかったらしい、父親のマンディブラ伯爵は、ひどく腹を立てていたから… ヤツは伯爵の後継者から、おろされるかも知れないな…?」
「ああ… 確かにそうかも? マンディブラ伯爵家の次男も、アルファなので… その可能性はありますね……?」
もう一度アルセはハァ―――ッ… と大きなため息をつき、ローテーブルにティーカップを置いた。
「私たちと、結婚の許可について話し合っていた、父親のクルシジョ子爵は死んでしまったし… 跡継ぎ息子の方は、今はそれどころでは無さそうだから… 結局、私たちの結婚は、2ヵ月先のアルセが“成人の儀”を受けるまでは、おあずけだな?」
「はい…」
「まぁ… グラーシア公爵の名前が効いているから、今のところ次のクルシジョ子爵も、保護者の権限を振りかざして、アルセを私から強引に奪おうとは、しないだろうけど…」
「ええ… でも2ヶ月なんてアッ… という間に過ぎるだろうと、思うのに… 『待て!』…と言われると、何だか僕はすごく焦れてしまって… 待ちきれないと言うか…」
だってエスパーダ様と、“番”になれたから、すぐに妻になりたいという気持ちが強くて… 自分でも我がままになっているなぁ~…って、自覚はあるけど… エスパーダ様が僕を甘やかすから、僕は我慢が出来なくなってる…… 子どもっぽくて、恥ずかしいなぁ!
隣に座るエスパーダの、頼りがいのある逞しい腕にアルセは自然と凭れ… 胸いっぱいにエスパーダが放つ、アルファのフェロモンを感じたくてスゥ―――ッ… ハァ―――ッ… と瞳を閉じて深呼吸をする。
発情期は終っていても… オメガにとって“番”のフェロモンは、心の安定剤でもあるから……。
「・・・っ?」
エスパーダは、甘えたがっているアルセの気持ちを読み取り… アルセを抱き上げると、自分の膝にのせて、チュッ… と唇にキスをする。
アルセは唇を離し、膝の上からエスパーダを見下ろすと… アルセの心がトロトロに蕩けそうな、甘い笑みをエスパーダは浮かべていた。
「んっ… エスパーダ様ぁ…?!」
わぁ… 僕がすごく甘えたいと、わかってくれたの? 何か胸の中がホカホカする! 嬉しいなぁ~… 嬉しいなぁ~… エスパーダ様の“番”になれて、本当に嬉しいなぁ~…!
猛烈に甘えたい気分のアルセは、夢中でエスパーダの唇にキスをした。
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