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107話 結婚の前に…3
しおりを挟むマンサナがお茶を持って、部屋に入って来ると、エスパーダからグゥ~ンとのびたティエーラの竜が、マンサナにしがみついた。
「もう、いやあぁぁぁ―――っ! 何なのよ?! この白銀トカゲは?!」
キイィィィ―――ッ… とマンサナが、ティエーラの竜に腹をたててヒステリーを起こす。
「わわわっ…! マンサナ?!」
エスパーダの剣帯に引っかかっていた、腰の国宝級チェーンベルトをそろそろと慎重にはずし… アルセは大きなお腹を抱えてよっこらしょ…! とエスパーダの膝から下りて、マンサナのもとへ行く。
「もう、アルセ! この白銀トカゲ… 何とかならない?! すごく気持ち悪いのよぉ~…?!」
マンサナは涙目で訴えて来た。
「あああ~… 僕もグラーシア公爵邸にいるとき、時々やられたんだよね……」
ティエーラの竜も、将来、自分の宿主となる子供を妊娠しているアルセからは、魔リョクを奪おうとはさすがに、思わないらしい。
「ええ~…? コレ… どうすれば良いの、アルセ?!」
「今はエスパーダ様の意識がしっかりしているから… 自由にエスパーダ様の身体を支配できなくて、思い通りに“魔リョク”を奪えないから… それでマンサナに絡んで来るんだと思うんだ…?」
「“魔リョク”? 魔リョク…て、あのご先祖さまたちが使っていた、魔法の力でしょう?!」
「う~ん… 僕は一度、視たことがあるよ?」
いきなり馬車を襲われて、エスパーダ様が襲撃犯たちから、命ごと魔リョクを奪ったとは… さすがにマンサナには言えないけどね…
ティエーラの竜がマンサナに執着する理由は、豊富な魔リョクのせいだとアルセにも何となくわかったが… マンサナに絡む理由が理解できても、ティエーラの竜の問題行動を解消するには、魔リョクをあたえるしかない。
アルセがどうしようか悩んでいると… それまで2人の会話を、紳士的に黙って聞いていたエスパーダが、口をはさんだ。
「アルセ… いったい、何の話をしているんだ? さっきも先代伯爵の前で… マンサナ嬢がティエーラの竜と話ができると… 言っていた気がするが?! やはり、あれは私の聞き間違いではなかったのか?!」
「ああああ~ エスパーダ様… ええっとですね……」
何て説明しようかなぁ? 実際に自分の目で視えない人に説明するのは、本当に難しいからなぁ…?!
「ディグニダド伯爵家で産まれた、紅玉色の瞳を持つオメガは、昔から魔モノが視えるんです! だから、私もアルセもあなたにくっ付いてる、ティエーラの竜が視えちゃうんですよ!! だから、コレ! 何とかして下さい、エスパーダ様?!」
何度も… 何度も… ティエーラの竜に絡まれて、マンサナはイライラが限界になり、エスパーダに怒鳴った。
「・・・っ?!」
エスパーダは眉間にしわを寄せて、アルセをジッ… と見た。
「ええっとぉ…?」
「アルセもティエーラの竜が視えるのか?!」
「はい… あの… 初めて学園でエスパーダ様に助けてもらった時、僕は気絶してしまったでしょう?! あれはティエーラの竜が怖くて、驚いたからです……」
「・・・・・・」
エスパーダは険しい顔をしたまま、口をポカーンと開けて、アルセをジッ… と見つめる。
「わかりますよ、エスパーダ様…? そんな話は普通は信じられないですよね?! 亡くなった僕の父も、弟も… 僕と母が魔モノが視えると言っても、作り話だと信じてくれませんでしたから」
思わずアルセは、エスパーダの視線から逃げたくて、スッ… と横をむき、言いわけを始めた。
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