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38話 双子の従妹弟
しおりを挟むフジャヌはオバット伯爵家で使っている、大鍋や柄杓、大ヘラまで持ち込んでいた。
恐らくアイルが治療師の手伝いをすると、言い出した時から、薬を作らせるコトを考えていたのだろう。
救護所テントの裏で、グツグツと煮だした薬草を綿の布で濾過し、薬草の成分だけを水分が無くなるまで煮詰める。
「アイル様、他に手伝えるコトはありませんか?」
護衛の騎士が声を掛けてくる。
救護所が魔獣に襲われないとも限らないから、彼らも気が気では無いのだろう。
「ありがとう、この薬はココから私一人でやるわ、とても加減が難しいから…」
「そうですか… 」
「ああ、そうだわ!! ソコにある、布で包帯を作っておいてくださる? ああ、ソレと湿布用に適当な大きさに切り揃えて下さいな!」
「はい、包帯と湿布用の布ですね? 手分けしてやります」
「お願いします!」
「さぁ… 私も、もうひと頑張りしますか!!」
濾過する時にいったん冷めた薬が、火にかけた鍋の中で、再びグツグツと音を立て始める。
煮詰める時に、大鍋の中を常にかき混ぜ続けないと、成分が沈殿し、鍋のソコで焦げ付いてしまうから、とても厄介なのだ。
ココで少しでも失敗すると、全てをやり直さなければならないから、気が抜けない。
ソレに失敗すれば、オークの襲撃に間に合わないから、アイルもその分気合いが入る。
蒸気と熱で顔を真っ赤にしながら、アイルは鍋の中を覗き込み、一心不乱に自分の腕より幅広い木製の大きなヘラでかき混ぜた。
なかなかの重労働だが、作り慣れている、アイルにしか出来ない作業だ。
コレばかりは、手伝ってくれる騎士たちには任せられない。
「いた、いた! …アイルお姉様! お久しぶりね!」
赤い顔で大鍋をヘラでかき混ぜるアイルの前に、スラリと背の高い女騎士が現れた。
「まあパギ?! アナタなの? …立派な女騎士になって!!」
アイルは手を止めずに、久しぶりに顔を見る、双子の従妹の来訪を満面の笑みで歓迎する。
「うわっ! 相変わらず、オバット伯爵家の薬は、スゴイ臭いだね…」
ニャムック叔父の長男で、パギと双子の従弟も、顔の前で手を振り薬草の臭いを散らしながら現れた。
「ベソック!! 会えて嬉しいわ2人とも」
鍋に視線を戻し、ニコニコ笑いながら、アイルはグルグルと大ヘラで鍋をかき混ぜる。
「僕も一応サキット家の長男だからね、パギより魔法の腕は上だし」
父の弟、ニャムック叔父は、サキット家に婿入りしたのだが、双子たちは母方の血が強く出た為に治癒魔法は使えず、騎士になるコトを選んだのだ。
長女のアンジンは、ブラヌを陰湿に虐めるような、性悪女だが…
パギとベソックは、両親が殺され、叔父に治療を受けていた時に、何かとアイルを気遣ってくれた、陽気で優しい双子である。
「アイルお姉様だって来ているのだから、治癒魔法が使えるアンジンお姉様が来ないのは、解せないわ!」
次女のパギはサッパリした質のせいか、長女のアンジンとは姉妹とはいえ、犬猿の仲なのだ。
「アンジン姉上が来たら、たぶん面倒なコトになるよ? アレが嫌、コレが嫌、とか言い張って」
ベソックは思慮深く、いつも正しいコトを言う。
双子でも、性の差か、性格が全然違うから、2人と一緒にいると面白い。
容姿は2人とも母親似で、緑の瞳に、パギは背中まである薄茶の髪を編んで垂らしているが、ベソックは項の所で短く切り揃えていた。
「アイルお姉様、大変そうだね、手伝おうか?」
パギは優しいけど大雑把。
「ダメだよ、パギ!! 前にそう言って父上の薬草を、真っ黒に焦がしたの忘れたの?」
ベソックも優しいけど、少々慎重過ぎる。
2人一緒だと丁度好い加減の姉弟なのだ。
「ああ、そんなコトも大昔あったわね…」
耳の中に小指を突っ込んで、ポリポリと掻くパギ。
「大昔じゃなくて半年前だよ! まだ、あれから、半年しか過ぎてないよ?! アイル姉上、パギを信用したら痛い目に遭うからね」
腕組みをして、呆れ顔のベソック。
「何よ!! 男のクセに面倒臭い! アンタ細か過ぎ!!」
「うふふふっ… お願いだから、2人とも私を笑わせないで!! 鍋をかき混ぜる力が入らないから!! うふふふっ…っ!!」
身体を震わせながら、鍋をかき混ぜるアイルに、申し訳なさそうにする双子。
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