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56話 帰れない理由 パダムside
しおりを挟むオークの脅威は去り、パダムは騎士団長、及び部隊長たちを急遽、集め…
オーガ退治の為の人員の確保を目的に、それぞれの部下の中から、腕利きの騎士を何人か出させることにした。
パダムの側近とその部下たちも、当然参加するが…
ココまでのオークとの戦いで、パダムが率いる隊が最も激しい場所で戦っていた為、3分の1が、負傷していた。
急いで治療を進めてはいるが…
アイルの見立てでは、オーガ退治に参加させるのは難しいとのコトだった。
「いいえ、パダム様! 我々は何があってもお側を離れません!」
「この通り怪我は、アイル様に治療してもらいましたから!! 王立騎士団の連中にパダム様の背中を任せるコトなど、危なくて出来ませぬ!」
当の部下たちは、パダムに心酔しており、連いて行く気、満々でいるようだが。
「パナス・ダラム様、御見それいたしました!」
王立騎士団の団長が口火を切り、恭しく頭を下げる。
初めてパダムと会った時から、『他国で生まれた王子の命令など危なくて聞けぬ』 と陰口を叩いていたが、ようやく頭を下げる気になったらしい。
騎士団長が頭を下げれば、部下の部隊長たちも、同様に礼を尽くす。
前回の戦いで王立騎士団から集められた、自称精鋭の使えない奴らを…
(出世の為に自ら名乗り出た自意識過剰な者や、人数合わせで嫌々参加した者たち)
パダムが邪魔なダケだと、身も蓋も無い言い方で、今回は王立騎士団に追い返したせいで、騎士団長とは余計関係が拗れていたのだ。
「あのような大規模な魔法を見たのは、初めてでございます」
王立騎士団の団長とは言え、陰口を叩くような男である。
当然媚びを売る口も軽いのだ。
パダムの態度が、誰よりも冷ややかなのは、仕方無い。
「ああ、そうだろうとも! 国宝だか伝説の聖女クニンの杖だか知らないが… もっと早くこの竜輝石の杖を、私に渡していれば騎士たちも無駄に死ななくて済んだモノを!」
<王都で不平不満を垂れ流しながら、のうのうと暮らす大臣たちの頭を、揺さぶってやりたい!! >
「一度、この国の宝物庫を片っ端から見て回らねば… きっと使える魔道具が、他にもたくさん有るハズだ!!」
<無能な部下を押し付けられるより、質の良い魔道具を1つ借りた方がよほど有益だ>
「おおお… 聖女クニン様の杖?! そのような国宝を… 良く持ち出せましたな」
感嘆の声を漏らす、騎士団長たちに、パダムは心底呆れる。
「国宝なんぞにして、使わずにしまっていては、宝の持ち腐れと言うモノだ!」
フンッと鼻息荒く面倒そうに、パダムはアイルが杖を使い、次々と治療する姿を、チラリと見た。
「確かにごもっともです!」
パダムに倣いその場の全員が、杖を使うアイルを見つめた。
其処へ丁度フジャヌが現れ、パダムと目が合いお互いニヤリと笑い合う。
王立騎士団の騎士団長を見るフジャヌの瞳にも、蔑みの影が浮かぶ。
王と大臣たちに呼び戻され、王子の地位を与えられたパダムは、アンギヌ王国出身であるがゆえに、右も左も分からぬ状況で…
王太子スカランが信用出来る男だからと、世話役に付けてくれたフジャヌは、治療師の身でありながら、パダムが動きやすいよう常に知恵を絞ってくれた。
今ではフジャヌは、パダムの右腕と言っても良い存在だ。
魔獣退治が一通り落ち着いたら、父と弟への「義理は果たした」 と…
少し前までパダムは、アンギヌ王国へ帰国してしまおうと、思っていた。
だが、妻にしたい女が出来、信頼できる友人も出来、自分を慕う部下まで揃ってしまっては、パダムも簡単に、アンギヌ王国へ帰れなくなってしまった。
順番にパダムは自分の部下たち、フジャヌ、そしてアイルを眺め笑った。
「不思議と嫌では無いな…」
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