呪われた騎士に贈られた花嫁

金剛@キット

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55話 返り血

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 オークの群れを掃討し終え、パダムは杖をアイルに返す。

 キラキラと尊敬の眼差しで見つめるアイルに、パダムはニヤリと笑いギュッと抱きしめた。


「パ… パダム様!! お放し下さい… ううっ止めて下さい… ううっ…!」

 抱きしめる前はウットリとパダムを見つめていた、アイルが細い手を突っ張って、抵抗する。


「どうしたのだ、アイル?!」 

 半泣きで拒むアイルの顔を、パダムは慌てて抱きしめるのを止めて、見下ろすと…


「とても… とても… パダム様から酷い悪臭がします… ううっ…!」
 
 嫌そうに顔を拭うアイル。
 

「悪臭とは酷いぞ…?」 

 ほんの少し傷つくパダム。

「酷いのはパダム様です! 悪臭を放つオークの返り血をベッタリ浴びているのに… その返り血を私の顔に擦り付けるなんて…! 少し口に入ってしまいましたわ…」

 顔を拭いながらアイルは、自分に浄化魔法を掛けていた。


「ウウッ…! 口にオークの血…?! そ、それは悪かったアイル! 許してくれ…」

 流石のパダムも想像してゾッとする。


「いいえ、許しませんよ! さぁ! 妻となる女にキスを下さい、もちろん唇にです!!!」

 腰に手をあてて、水色の瞳を吊り上げて、睨みつけるアイル。

 治療師は職業柄、神経質なほど綺麗好きなのだ。


「いや… ソレは…ッ…!」
 
 躊躇するパダムに、ジリジリと距離を詰めるアイル。

 アイルから唇を奪われまいと、パダムは掌で隠そうとした。


「うおっ!! 臭っ…!! ぶへっ!! オエエエッ…!! 」

 パダムはオークの血で汚れた悪臭臭い手で、自分の唇を覆い、叫び声を上げる。


 ぺっ… ぺっ… ぺっ… ぺっ…!!! 
 自分の臭い手を、ウッカり唇に押し付けてしまったパダムは唾を吐く。

 ニヤリと、淑女らしからぬ笑みを浮かべると、アイルは溜飲を下げ、パダムに浄化魔法をかけオークの悪臭漂う返り血を綺麗にした。


 大男のパダムが背中を丸め、ションボリとアイルに謝っているところへ…

 ハンガットやワルナたち側近が、パダムの後を追いやって来た。


「パダム様お見事です!! コレでひと息付けますね!」
 
 一番若いハンガットが、瞳を輝かせパダムを賞賛した。


「おお、お前たち丁度良いところへ来たな! コレからオーガを狩りに行くぞ」

 剣に付いたオークの血をぼろ布で拭き、パダムは剣を一旦、鞘に戻す。


「…オーガをですか?!」

 身体の大きさ、強さ、凶暴さもオークとは比では無いオーガを、今から相手にするのかと、側近たちは顔を強張らせた。
 

「恐らく何人かの騎士たちが、連れ去られているだろうし…行くなら早い方が良いでしょうね」

 クダは厳しい顔で、顎を撫でながら何度も頷く。

 オーガの食料は生きた人間だ。


「使役するオークはほとんどココで焼き払ったから、今はオーガも無防備だろう、やるなら今が良い!」

 側でパダムたちの話を聞いていたアイルは、慌てて側近たちの怪我を治癒魔法で治療する。

 パダムには目立った怪我は無いが、側近たちはかなり深い傷を負っていた。



「アイル様は良い腕をしておられる… これ程の高度な治癒魔法を受けたのは初めてです、傷が有ったのがウソのようだ!」

 パダムの側近ワルナが腕を動かし驚く。

「魔力をいくらでも注げますから… その分細かく再生出来るのです、杖に感謝しませんと!」

 ワルナにニッコリ笑い掛けて、アイルは聖女クニンの杖を撫でた。

 発光魔法を使わなくなり…

 杖に嵌め込んだ竜輝石の魔力を、治癒魔法に注ぎ込める為に、アイルは出し惜しみせず魔力を使い次々と治療を進めた。


 集中力を途切れさせるコト無く、治癒魔法を正確に操れるからこそ、デキる治療であり…

 子供の頃から、オバット伯爵家の直系に課せられた、厳しい訓練の賜物だった。

 他の治療師では有り得ない、治療の早さと質の良さに、治療を受けた騎士たちが、黄色の聖女クニンの再来だと、感嘆の声を上げても、不思議なコトでは無い。 



「アイル! 左翼に居る部下たちも頼む! ハンガット、案内してやってくれ」

「はい!」

 治療を受けて目を丸くしながら、スゴイ、スゴイと自分の腕を動かしていたハンガット。


「それとアイル、その杖をまた、借りて行っても良いか? 死人を出さなくて済むかもしれない」

「なら、私もお連れ下さい、連れ去られた騎士たちが、心配なので!」

「ダメだ!」

 即、却下したパダム。


「オークの群れもいなくなりましたし、いても杖で発光魔法が使えますし」 

 ブラットと共に、致命傷を負った怪我人を、アイルは先に探して治療をして回った。

 後はフジャヌたちに任せることにしたアイル。

「ダメだ!」

 渋い顔で却下するパダム。


「発光魔法で光の結界を作り、オークを避けながら、真っ直ぐオーガの元へ向かってはどうでしょうか?」

「それでも危険だからダメだ!」 

 ワルナが提案すると、増々渋い顔で却下するパダム。


「治療師殿の意見は利に適っているように思えますが?」

 クダもアイルとワルナの意見に同意すると、パダムは渋い顔でイライラと歩き回り却下する。


「危ないからダメだ!」






 最終的に側近たちに説得され、パダムが折れるコトになり…




 パダムはブスッと拗ねながら、焼きオーク豚の頭を蹴とばした。







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