呪われた騎士に贈られた花嫁

金剛@キット

文字の大きさ
59 / 86

58話 社交の恩恵

しおりを挟む


 過酷な魔獣退治が終わり、騎士たちと共にアイルが王都へ帰還すると…

 魔獣退治よりも更に過酷な、社交界への復帰をアイルは余儀なくされる。



「面倒だが仕方ない… アイル、お前も腹を据えろ!」

 兄フジャヌが用意した夜会用のドレスを、アイルは不安そうに眺めた。


「でも… 私は社交界にデビューもしていませんし、淑女教育も…」

 子供の頃、母に基本的なコトを習ったぐらいで、本来ならば学園で淑女教育を学ぶはずだったが…

 両親が急逝し、妹も亡くなり… 

 アイルは全てを放り出してしまった。


「まぁ、今夜大恥をかくのは仕方ないが、家庭教師を手配しているから明日からはみっちり学んでもらうからな」

 怜悧な兄フジャヌは、少しもアイルに同情せず、冷静にコトを進めて行く。


「やはり私は、今夜… 恥をかくのですね?」

 ションボリとアイルは嘆息をもらした。

 未だアイルに押された、ふしだらな女の烙印も消えていないのに、社交界でどういう扱いをされるのかを考えると、不安で吐き気までする。


「今までお前が私に丸投げしていた分のツケだと思え」

 フジャヌは意地悪そうに笑う。


「お兄様… そんなに意地悪では誰も結婚してくれませんよ?」

 兄の態度にイラッ… としたアイルはチクリと刺さずにはいられなかった。


「・・・・・・っ!」

 どうやらフジャヌは、他の誰かにも同じことを忠告されているらしく、動揺を隠せなかった。




 治療師として国の為、人の為に尽くしたいと言うのなら、アイルも社交活動は避けては通れないのだ。


 兄と共に救護テントで治療師として働き、準備がいかに重要かを思い知った。

 薬草や魔道具、食料などの物資、何よりも治療師や助手、護衛の騎士など人員の確保が重要になる。

 オバット伯爵家の人間だけでは、とても回せないのは、分かり切ったコトで…

 フジャヌはその準備のために、常日頃から社交活動はマメに参加し、根回しをしているのだ。

 そういう普段からの地道な努力が、全て水の泡になったコトがあった。

 ミニャックとアイルが起こした醜聞騒ぎのせいだ。


 大きな醜聞騒ぎを起こしたオバット伯爵家と付き合えば、自分たちも巻き込まれると、いくつもの貴族たちが、離れて行ったという。


「お兄様、今までご苦労を掛けました… 何も知らず生意気なコトばかり言って申し訳ありませんでした」

 丁寧にアイルは頭を下げ、兄フジャヌに謝罪した。

「全くだ愚か者! お前は昔から頑固過ぎて、私の言うコトを少しも聞こうとしないのだから、どれだけ手を焼いたコトか!」

 フジャヌは暗に叔父のニャムックの件を言っているのだ。
 

 長年、共に厳しい訓練を耐えて来た、実の妹に治療の腕を否定されたようなモノなのだから、フジャヌにとってコレ以上の侮辱は無い。

 いくら怜悧なフジャヌでも、両親を亡くした直後であり、そんな時だからこそ、妹ダケは自分が助けたかった。

 その気持ちを拒絶したアイルの判断に、当時のフジャヌは深く傷ついていた…

 大人げなく、嫌味を10個ぐらいネチネチと言っても、許されるぐらいには。



「うううっ… 申し訳ありません、でもカチャンのコトは悪いとは思っていませんから!」

 深く反省はしているが、アイルにだって、どうしても譲れないコトがある。


「フンッ! まぁ良いさ、その頑固さがコレからは必要になるのだから!」

 妹の頑固さに鼻で笑う兄。


「お兄様…?」


「ココからが正念場だ、お前も覚悟しろよ! 今までのように甘えて逃げ出すコトは許されないからな!」

「はい」

 アイルは姿勢を正し、兄を真っ直ぐ見つめた。


「お前を望んでおられる、パダム様の為にもだ!!」



「はい!」







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

処理中です...