側妃候補は精霊つきオメガ

金剛@キット

文字の大きさ
38 / 150

36話 蜜月の後は濃密に3 ボルカンside

しおりを挟む

 自分に抱かれたくて、次々と服を脱ぐカナルの後ろ姿を、期待に胸をふくらませて、ソファに座ったまま見上げるうちに… 不意にボルカンの脳裏に、前夜カナルから聞いた話が浮かび、眉をひそめる。


<チッ…!! 嫌なことを思い出してしまった!!>





 ―――前夜、国王の寝室で、軽い情交の後に…


『カナル、お前が精霊の加護を受けた経緯を聞かせてくれ』

『それは…っ』
 カナルの発情期に入り、2人は激しい肉欲に囚われていたため、ボルカンはそれまで詳しい事情を聞けずにいたが…
 こればかりはどんな事情であれ、正確に把握する必要があると感じ、たずねたのだ。

<だが、私がたずねた途端にカナルは綺麗な顔を歪め、苦しそうな表情を浮かべたから、私のように特別な事情があるのだろうと、それは分かるが… だからと言って、理由を聞かないわけには行かないからな>


『お前の事情を、誰かに他言しないと約束する… 私たちだけの秘密にすると誓う!』

『はい、陛下… 僕が経験したことを、いつか陛下にお話ししなければならないと、覚悟はしていました… ですが僕自身も、僕の身に起きた奇跡が信じられず、過去の悪夢のような出来事が、僕自身が作り出した単なる妄想ではないかと、思うことがあるぐらいなのです』

 本題に入る前に、カナルはそう前置きをして、重い口を開いた。

 …だが、カナルの話はボルカンの想像をはるかに超えた内容で、戸惑いを隠せなかった。


『時間が、巻き戻った?!』

『はい、陛下が霊廟れいびょうで命を捧げたように、僕は精霊に祈願し、自殺を選びました… そして次に目覚めた時には、過去に戻り僕は自分のベッドで眠っていたのです』

『そもそもお前はなぜ、自殺をしたのだ?』

『……』
 自分の腹に手を置き、カナルは悲しそうにゆっくりと撫でてから…
 一言一言、カナルは慎重に言葉を選びながら、丁寧に自分が経験した悪夢を語った。

『姉の婚約者と結婚しただと――っ?!!』

『お… お許しを! 陛… 陛下っ! 違う未来ですから!! 実際に起きなかった違う未来の話です!!』

 
 カナルから全てを聞き終えた時、ボルカンの心で激烈な嫉妬心が荒れ狂い…
 身体の内では押さえられなくなった、火の精霊の力がボルカンから噴き出して、実際に炎となって現れ、ボボボッ…! と音を立ててシーツを焼いた。

『わわわっ… 陛下ぁ!! 火が――っ!!』
 情交の後の全裸のまま、慌ててカナルはベッドを飛び下り、テーブルの上にある水差しを取り、火が付いたシーツにジャバジャバと水を掛けた。


『だが、お前を抱いたのだろう?! そのフアブゥとか言う奴は!!』

『陛下、フィエブレです!』

『フィオ…? フィレエ…? クソッ!! 名前なんてどうでも良い! とにかく、そのフィロビーとかいう奴を、処刑する!!』

『どうか陛下、心をお鎮め下さい!! そしてフィロビーではなくて、フィエブレです、陛下ぁ!!』  

『クソッ!! 許さん―――っ!! 私のカナルに触れただけでも死に値する!! ましてや、身籠らせたなどと―――!!』

 部屋中に熱風が吹き荒れ、暴走する炎が代々の国王たちが愛用してきた家具を黒焦げにし、絨毯や寝具を燃やし熱風に煽られた炎が、壁を伝い天井まで広がり…

『陛下ぁ!! 陛下ぁ!! 熱っ… ああああ―――っ!!』

 カナルの苦痛に満ちた叫び声でハッ… と我に返り… ボルカンは炎混じりの熱風を引っ込めた。

『ああ、クソッ…! すまない、カナル!! 大丈夫か?! クソッ…!!』

 ベッドの下でうずくまるカナルを抱き上げて、ケガは無いかと確認すると、腕が少し赤くなり、美しい漆黒の髪の一部が焦げていた。
 

『陛下、僕は大丈夫ですから… ふふふふっ… ああ、ビックリしたぁ~! 少し驚いただけですよぉ…  どうか心をお鎮め下さい、僕の全ては陛下のものです、信じて下さい! ね? 陛下ぁ?』

『うぐっ…! すまないカナル…』

 健気に笑って見せるカナルの姿に、ボルカンの胸は罪悪感でいっぱいになった。





 ―――…しゅるっ… しゅるっ… と衣擦れの音を立てて、着ていた服を脱ぐカナルの優美な背中を見つめながら…
 ボルカンはうっかり昨夜の記憶に、囚われてしまっていたことに気づく。

<時間が巻き戻ったことよりも… 昨夜のような私の凶暴な姿を見てもまだ、怯えずに可愛らしく私に微笑み返すカナルの存在こそが、奇跡としか思えない>



 気を抜くと、すぐに緩んでしまう自分の頬を、両手でパチンッ… と叩き、気合いを入れて、ボルカンは気持ちを引き締める。





しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

処理中です...