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42話 ドレスアップ

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 艶が出るまでブラシで丁寧に髪をといた後…
 実家のエンペサル侯爵領で栽培している、エストレジャの花から採れた、美容成分をたっぷり配合したオイルを少量使い、漆黒の髪を綺麗に整髪する。

 花から抽出される美容成分のせいで、オイルから芳しい花の香りがふんわりと漂い、それがまたカナルの持つ雰囲気にピッタリなのだ。

 ボルカンの炎で焦げて短くなった髪の一部分を、目立たないように馴染ませるのに、少々手間取ったが、オイルのおかげで上手く整えられた。

「うん、良し!」

 鏡の前で、横、後ろと… 従者のバイラルにもう一つ鏡を持たせ、カナルは合わせ鏡で自分では見えない後頭部を見せてもらい、チェックする。

 光沢がある淡いシャンパンゴールドの地に、暗紅色の赤い花の刺繍が入った裾の長い上着をバイラルに着せてもらい、表からは見えない留め具で前立てを閉じる。

 ボルカンの瞳に合わせ、衿元には蝶がモチーフの、ガーネットのブローチを飾って、カナルのドレスアップは完了した。 

 全身が映せる鏡の前に立ち、くるりと回って自分を見つめ、カナルはニコリと笑う。

「ふふふふっ…」

「とても、お似合いですよ、カナル様!」

 主人の艶姿を見て、バイラルが嬉しそうに褒めた。

 
「うん、自分で言うと、少し図々しいけれど… バイラルの言う通りだよ! それに肌艶がとても良く見えるし… ボルカン陛下にお礼をたくさん言わないと!」

 一見派手な組み合わせの服と装飾だが、今のカナルの髪と瞳が美しく見えると分かったのだ。

<以前の月光色の髪と灰色の瞳の時は、何を着てもぼんやりとした印象になってしまい、いつもうんざりしていたけど… この漆黒の髪と、黒に近い濃紺の瞳は… 何でも映えてはっきり言って最強だと思う!>


「これなら、きっと正妃様にも勝てますよ!」

「ええ?! いや、さすがにそれは… 正妃様は華やかなオメガ美女だと聞いたよ?」

「そういうカナル様は、可憐なのに神秘的な魅力があるオメガ美男子だと思いますけどね?」
 バイラルは話しながら、どこか見落としては無いかと、周りをくるくると回ってカナルをじっくりチェックする。


「あはははは―――っ…!!!! バイラルってば、それは褒め過ぎだよぉ!!」
 ケラケラと手を振りながら、カナルは笑った。


「でも、タラシ込むぐらいは、出来るかも知れませんよ?」

「もう~… 何を言ってるの、バイラルったらぁ…!! ふふふっ…」

「カナル様は知らないでしょうけれど… サボル村の娘たちは、みんなカナル様に心をときめかせていましたし?」
 サボル村とは、エンペサル侯爵邸の近隣に位置する、バイラルが生まれた村である。


「えええええ~…?! 何、それ?! あはははは――っ!!」
 面白い冗談だと、機嫌良くカナルは再びケラケラと笑った。

「さぁ、カナル様! そろそろ正妃様にご挨拶に行きませんと」

「ああ、うん… ふうぅぅぅ―――っ… 憂鬱ゆううつだなぁ~…」

「大丈夫ですよ! 今日はばっちり美男子に仕上がっていますからね」



 有能な従者バイラルに励まされ、カナルはため息を吐きながら部屋を出る。






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