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43話 正妃ディアレア

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 正妃ディアレアは、噂通りの華やかなオメガ美女だった。

「正妃様、お初にお目にかかります! エンペサル侯爵家次男、カナルと申します、以後お見知り置きを!」
 胸に手を当てながら、カナルは膝を折り深く頭を下げて、椅子に座ったままの正妃ディアレアに挨拶口上を述べる。

「あら、ずいぶんと遅かったのではなくて? なんて礼儀知らずかしら!
晩餐会の前の淑女にとっては、宝石よりも貴重で大切な時間を、礼儀知らずの誰かに奪われるなんて… 困ったことだわ!」

 ぱたぱたと精巧な象牙細工を施された豪華な扇子で扇ぎながら、イライラと嫌味を言われ、カナルは頭を下げたまま苦笑した。


「申し訳ございません… 正妃様、どうかお許しを…」
<本当に… 以前の僕なら、きっと縮こまって怯えてしまっていただろうけど… ボルカン様のおかげで、堂々としていられる! ふふふふっ… 自分でもちょっとだけ誇らしく思えるよ>

 顔をゆっくりと上げると、カナルはくどくどとバイラルに助言された通り…
 フッ… と目を細めて、いかにも正妃に魅了されているという様な、表情を作って見せた。


嗚呼ああ…! なんてお美しいぃ方なんだぁ…!! ずっとあなたにお会いしたくて、僕はこの時を恋い焦がれていましたぁぁ――っ! 嗚呼…! このオメガの身が呪わしいぃぃ!! アルファとして生まれなかったことがぁ、こんなに悔しいとはぁぁ!! おおおおぉぉぉぉぅ~…」

<ねぇ… バイラル? 本当にこんな臭いことを、エレヒル兄上が言っているの? もちろんオメガの身が~ とかはバイラルの創作だろうけれど? 本当にこんな風にエレヒル兄上は、淑女たちをたらし込んでいるの?!>
 バイラルの兄が、カナルの兄エレヒルの従者をしていて、しょっちゅう淑女を口説く場面に出くわすのだそうだ。

 その話を参考に、バイラルはカナルにも淑女を上手く扱うなら、甘い言葉で口説いて、掌で転がせば良いと言うのだ。 

 姉のエリダと同様に、子供の頃から箱入り息子として育てられカナルよりも、年下の従者バイラルの方がずっと世間を知っているらしい。(使用人同士の噂話をたくさん聞いているのだ)


「あら! まぁ~…」
 正妃ディアレアは扇子でぱたぱたを止めて、ぽか~んとカナルを見つめた。

「嗚呼… ディアレア様ぁ~…」
<ほら、やっぱりこれはおかしくない? ねぇバイラル?!>

 内心、大失敗だとカナルは渋~い顔をする。


「カナル様、これを!」

 サッサッサッサッ… とバイラルが、背後から手のひらサイズの包みをカナルに手渡した。
 
 正妃ディアレアへの手土産だ。


「ディアレア様、僕からの気持ちです… どうかお受け取り下さい!」
 カナルは正妃が坐る椅子の前まで移動し、片膝をつくと両手でうやうやしく手土産を差し出した。

「まぁ~ 何かしら?!」
 正妃ディアレアは扇子で口元を隠して、瞳をキラキラさせる。

「お美しい正妃様には不要かと思いましたが… エンペサル侯爵領でしか採れない貴重なものです、どうかお試しください」
<あれれ? なんか正妃様の反応が… 良くなった? んんんん…?>

 正妃の侍女がカナルから手土産を受け取り、中身を出して正妃に渡す。

「これは何かしら?」
 興味津々で正妃は手の中の小瓶を見つめ、カナルに視線を移した。

「はい、それは… 別名"夜の妖精の微笑み"と言われるエストレジャの花から抽出された、美容成分の貴重な原液です、アルコールで薄めれば香水になり、油や水で薄めて髪や肌に付ければ10歳は若返ると言われています」

 これは兄エレヒルが、持たせてくれたものである。


「まあぁぁぁぁぁ!!!」

 正妃ディアレアの目の色が変わった。





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