側妃候補は精霊つきオメガ

金剛@キット

文字の大きさ
102 / 150
番外編 ~悪夢の世界で…

95話 残された者

しおりを挟む
 エンペサル侯爵邸の裏手に広がる深い森に入り、奥へ奥へと進むと… "精霊の棲み処すみか"と呼ばれる小さな湖があらわれる。

 エンペサル侯爵エレヒルは、今夜も精霊の棲み処に来ていた。


「・・・っ」
<カナル… 亡くした子とは会えたか? 先にった姉のエリダとは会えたか? お前はもう、さびしくないか? 心安らかにしているか? もう苦しんではいないか? 私はさびしくてたまらない! 父上と母上が亡くなっても、お前たちが側にいてくれたから、私は侯爵として頑張って来れたのに… お前もエリダも… あんなに…っ! あんなに… 悲しい死に方をさせてしまうなんて!!> 

 精霊の棲み処と呼ばれる、この湖で弟のカナルが自殺をして以来、毎晩のようにエレヒルはおとずれ… 弟のカナルに心で話しかけていた。
 エレヒルは弟のカナルが、死を選んだのは自分のせいだと、深く深く… 後悔し続けているのだ。

「……ううっ、カナル…!! カナル…!! 」
<もっとお前に優しくしてやれば良かった! もっとお前の幸せを考えてやればよかった!! 愚かな兄を許してくれ!!> 

 愛する婚約者のエリダを失ったフィエブレと… 愛する姉を失った弟のカナルなら、2人で悲しみを分かち合い苦難を乗り越え、いつか心から愛し合うつがいになれると、エレヒルは信じていた。

「いつか…心から… 愛しあう?!」
<それはすべて、私の自分勝手な願望でしかなかった!!>


 空に浮かぶ美しい満月の月明りで、淡く光って見える湖面に向かい、エレヒルは問いかけた。

「私はどうすれば良かったのだろう? 何が正しかったのだろう?」

 エレヒルの灰色の瞳にうつる、静かな湖上に、突然あらあらしい突風とっぷうが吹き抜け、チャプチャプッ… と湖水を波立たせ… 弟カナルと同じ、月光のようなエレヒルの淡い金髪を乱したかと思うと、唐突とうとつに風は止み静寂せいじゃくが戻る。


 ハァ―――ッ… とため息をつき、エレヒルはやしきへ戻ろうとした時…
 
 …っ… ゃ…っ… 

 不意に人の声が聞こえた気がした。

「・・・っ!」
<こんな真夜中に、こんな場所に人がいるのか?!>

「いや、獣の声・・か?」
 ピタリと動きを止めて、エレヒルは耳をすました。


 ぃゃ… ぃゃ… ぁぁ…ぁ…っ… ぃゃぁ…


「違う、人の声だ!!」
<もしかすると昼間のうちにここに来て、何らかの問題が起きてこんな夜中まで足止めを食っているのではないか?! ケガをしているのかも知れない!!>

 エレヒルの耳には、ひどく苦しそうな声に聞こえた。



 声をたどり… エレヒルが問題の誰かのすぐ近くまで来ると、フワリッ… とオメガの誘惑フェロモンが、あたりにただよっていることに気づく。

 月明りを頼りに目をこらして夜の闇の中を捜すと、少年が木の根元に座り下衣かいを脱いで、細い足を大きく開き、夢中で小さな性器に触れて自慰をしていた。

「ああっ…! ああっ…! うんんっ… 嫌ぁ… 嫌ぁ…!」


「オメガの発情期か?!」
 口と鼻を騎士服の袖で押さえ、エレヒルが思わず言葉をはっすると…
 
 少年がエレヒルの声に気づいて顔を上げた。

「ああっ… 誰?! 嫌っ… 見ないでぇ… 見ないでぇ!!」
 少年は辛そうに、泣きさけんだ。


 美しい満月の月明りで、少年の正体が誰だかわかり、エレヒルは名前を呼んだ。


「ジュピア?!」








しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

処理中です...