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1話 傷心のアデレッソス
しおりを挟むエントラーダ伯爵家の3男、オメガのアデレッソスは…
父に命令されて婚約した、コスタ侯爵家の長男のヴィードロ(アルファ)から、結婚を目前にして婚約を解消された。
婚約解消の理由は、ヴィードロの"恋人"である、リコール子爵家のエーヴィ嬢(オメガ)が、ヴィードロの子を妊娠したからだ。
寝室のベッドでクッションに凭れ、上半身だけを起こしたジェレンチ公爵デスチーノ(アルファ)に、小柄な背中を向けたまま、アデレッソスはベッドの端にゆっくりと腰を下ろした。
「僕は愚かにも、3歳年上の婚約者を初めて紹介された時から、恋をしてしまったのです」
ぽつぽつとアデレッソスは、自分が一方的に婚約を解消された経緯を、ジェレンチ公爵に語って聞かせる。
「つまり君は、婚約者のヴィードロに、一目惚れをしたと言うわけかい?」
スミレ色の瞳に掛かったダークブラウンの髪を、節の太い長い指で払うと…
眠る時はいつも裸のデスチーノは、騎士らしく良く鍛えられた腹筋を隠すように上掛けを引き上げ、のんびりとアデレッソスに尋ねた。
「ん~… 少し違うかな…? 彼は次兄の学園時代からの友人で、僕は次兄からヴィードロの話をよく聞いていたから、兄が信頼する人ならきっと素晴らしい人だと僕は思い込み、ほとんど無条件で、彼を受けいれてしまったのです」
膝の上で両手の指を組み合わせ、もじもじと動かしながらアデレッソスは、当時の心情を思いだし、唇を苦痛で歪めてデスチーノに答えた。
「でも君は元婚約者に恋をしたのだろう?」
「あの時の僕はそう思っていました… でも、後から考えると… いわゆる僕は箱入り息子で、恋に恋する年頃だったから…」
<だって裏切り者の元婚約者は、子供の頃に出会った憧れの騎士に、あまりにもそっくりだったから、憧れの人に抱いていた初恋を、僕はそのまま婚約者にも重ねてしまったから>
「もしかして君も… "運命の番"に憧れていたとか?」
「ええ… 初対面の時も、彼が放ったアルファ・フェロモンがとても素敵だと感じてしまって… だって家族以外の成熟したアルファのフェロモンなんて、それまで触れたことが無かったから、きっと運命の相手に違いないと、僕が間違えても無理はないと思いませんか?」
<本当にその通りなんだよ、公爵様! 僕の憧れの人は、年齢も社会的地位も何もかもが雲の上の存在だから、僕には手の届かない人だし、だから婚約者だと紹介された時、憧れの人そっくりのヴィードロに、僕は運命を感じてしまったんだ… 本当に中身があんなにゲス野郎だとは思わなかった!>
話しながらアデレッソスは、涙が込み上げ、涙声で言葉が濁らないようにするのに苦労した。
幸い背を向けて座っているため、デスチーノにはアデレッソスの苦悩に満ちた泣き顔は見えていない。
<憧れの人と元婚約者の顔が似ているのは、2人が従弟同士だから、その血のつながりも僕の恋心に影響してしまって…>
「ああ、それは確かに恋と本能的欲望を勘違いしても… おかしくないな」
「それで、僕は二度目のデートで、彼に求められるまま身も心も、捧げてしまったのです… だって相手は婚約者だから、早いか遅いかの違いだと思って…」
<本当に… 何であんな奴を、僕は本気で愛したんだ?! お兄様がいっつも彼を良く言うから、信じてしまったじゃないか!! お兄様も無責任だよ!!>
琥珀色の瞳をギュッと閉じ、まだ疼く胸の痛みに耐えて、顔に掛かる金糸のような髪を振り払うことも無く…
肩を竦めてアデレッソスは、デスチーノに向けた華奢な背中が軽くおどけて見えるように、両掌を上に向けて、かおの表情とは正反対の明るい笑い声を立てた。
<僕の次兄と元婚約者はいわゆる悪友で、2人で娼館へ遊びに行ったりギャンブルをしたりと、そういう爛れた遊びを一緒にしていた付き合いの"良い友人"だったわけで、それなら少しは次兄も実の弟に警告ぐらいくれても良かったのに!!>
アデレッソスの次兄(アルファ)も、元婚約者ヴィードロ同様ゲス野郎だった。
「あ~あ… 若いなぁ~っ」
デスチーノものんびりとした口調とは裏腹に、スミレ色の瞳を鋭く光らせ、アデレッソスの背中を観察した。
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