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45話 公爵様、深夜の帰宅
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社交シーズン真っ盛りで、どの騎士団も大忙しの中… デスチーノが数日ぶりに、公爵邸へ帰って来た。
何日も帰れないデスチーノのために、アディは第一騎士団本部へ、また昼食を持って行こうかと思い…
毎日、デスチーノの着替えを取りに戻って来る、従者のカディラに騎士団に訪問して良いかを聞いてみた。
『今は公爵様を筆頭に、第一騎士団の騎士たちは、目が回るような忙しさですから… お止めになられた方がよろしいかと』
『そう… 今、僕が行ったら邪魔になってしまうのだね?』
カディラの反応が悪く、しょんぼりとアディが落ち込むと…
『いえ、アデレッソス様そうではありません… 公爵様ご自身が、常にあちら、こちらへと移動しておられるので、お会いするのがとても難しく… 食事も馬の上で済ませる時があるほどで…』
『ええええ?! 馬の上―――っ?! それは大変だ!』
『はい、アデレッソス様… どうかしばらくお待ちください』
有能なカディラは、主人が去年の社交シーズンよりも、3倍忙しく働いている理由をアディには明かさなかった。
オエスチ侯爵の助言を聞き入れ、王太子に口添えを頼み、フーアとの離婚を、通常は数か月かかるところを3日で終わらせ… ついでに結婚許可証まで手に入れていた。
つまり、デスチーノは書類上では、いつでもアディと結婚が可能な状態なのだ。
だが、王太子に口添えを依頼したことで、デスチーノは王太子の仕事を、このクソが付くほど忙しい社交シーズンに受けることとなり…
デスチーノ自身の時間が減り、結婚式が行えないでいた。
こうなる予感があったため、最初にデスチーノが王太子に口添えを頼むのを躊躇したのである。
昼間、カディラが用事で公爵邸に戻って来た時に…
今夜はデスチーノが帰宅すると教えられ、アディは眠い目をこすりながら、必ず起きて出迎えようと深夜近くまで、玄関ホールで待っていた。
玄関の扉が開き、デスティーノの姿が見えると…ぱっ… と花が咲いたように、満面の笑みを浮かべてアディは駆け寄った。
「お帰りなさい、デスチーノ! んんっ? …デスチーノ?!」
久しぶりに帰宅したデスチーノの姿を見て、アディは一瞬、別人かと思った。
デスチーノのスミレ色の瞳は落ち窪み、頬はこけ、疲れているのだろう、口を不機嫌そうに歪めていた。
アディの顔を見ても、デスチーノは大喜びで笑うこともなければ、抱き締めることもなく…
「・・・・・・」
沈黙したまま、大きな掌で、アディの頭をぽんっ… ぽんっ… としただけだった。
それにいつもの颯爽とした歩き方ではなく、重そうにドスンッ… ドスンッ… と歩くのだ。
「申… 申し訳ありません、アデレッソス様! 旦那様の進路を、ふさがないようにお願いします…っ!!」
有能な従者カディラは、アディに奇妙な指示を出す。
「は?! 何?! 進路…?!」
思わずアディが聞き返すと…
「ただいま、旦那様は真っ直ぐにしか歩けませんので!」
「真っ直ぐ?! えええええ―――っ?! 何で?!」
理由を聞き、増々アディは混乱した。
「目は開いておりますが、眠っているのとあまり変わらない状…態… ああ、危ない旦那様! 階段の柱にぶつかるっ…!!」
慌ててカディラは、デスチーノの隣りへ行き、腕を引っ張り階段へと誘導する。
アディもカディラとは反対側に行き、デスチーノの肘を掴んだ。
何とか2人で階段にデスチーノを誘導できたが、階段の一段目をガツガツと蹴とばしては、長い足が引っ掛かり…
「旦那様!! 階段です!! 階段ですよ―――っ?!! もっと足を上げなければ、階段を上れませんよおぉ―――っ!!!」
カディラがデスティーノに大声で叫んだ。
「ああ、僕が上に立って手を引いてみるよ!!」
重い腕を掴んで、アディは階段の上に立ち、デスチーノを引っ張った。
「では、私は背中を押してみます!!」
カディラはデスチーノの後ろに立ち、押し始めると… デスチーノはよろよろと階段を上り始めた。
<ううわあぁぁぁぁぁ―――っ… 大変!!!!>
アディはふうっ… ふうっ… と言いながら汗をかき、デスチーノの重い腕を持ち上げて引っ張り続けた。
<ああ、デスチーノったら… こんなに重い腕を2本もぶら下げているんだぁ~?! これは大変!>
「アデレッソス様、頑張って下さい!!」
「カディラもねぇ―――っ!!」
ふうっ… ふうっ… ふうっ… ふうっ…
何日も帰れないデスチーノのために、アディは第一騎士団本部へ、また昼食を持って行こうかと思い…
毎日、デスチーノの着替えを取りに戻って来る、従者のカディラに騎士団に訪問して良いかを聞いてみた。
『今は公爵様を筆頭に、第一騎士団の騎士たちは、目が回るような忙しさですから… お止めになられた方がよろしいかと』
『そう… 今、僕が行ったら邪魔になってしまうのだね?』
カディラの反応が悪く、しょんぼりとアディが落ち込むと…
『いえ、アデレッソス様そうではありません… 公爵様ご自身が、常にあちら、こちらへと移動しておられるので、お会いするのがとても難しく… 食事も馬の上で済ませる時があるほどで…』
『ええええ?! 馬の上―――っ?! それは大変だ!』
『はい、アデレッソス様… どうかしばらくお待ちください』
有能なカディラは、主人が去年の社交シーズンよりも、3倍忙しく働いている理由をアディには明かさなかった。
オエスチ侯爵の助言を聞き入れ、王太子に口添えを頼み、フーアとの離婚を、通常は数か月かかるところを3日で終わらせ… ついでに結婚許可証まで手に入れていた。
つまり、デスチーノは書類上では、いつでもアディと結婚が可能な状態なのだ。
だが、王太子に口添えを依頼したことで、デスチーノは王太子の仕事を、このクソが付くほど忙しい社交シーズンに受けることとなり…
デスチーノ自身の時間が減り、結婚式が行えないでいた。
こうなる予感があったため、最初にデスチーノが王太子に口添えを頼むのを躊躇したのである。
昼間、カディラが用事で公爵邸に戻って来た時に…
今夜はデスチーノが帰宅すると教えられ、アディは眠い目をこすりながら、必ず起きて出迎えようと深夜近くまで、玄関ホールで待っていた。
玄関の扉が開き、デスティーノの姿が見えると…ぱっ… と花が咲いたように、満面の笑みを浮かべてアディは駆け寄った。
「お帰りなさい、デスチーノ! んんっ? …デスチーノ?!」
久しぶりに帰宅したデスチーノの姿を見て、アディは一瞬、別人かと思った。
デスチーノのスミレ色の瞳は落ち窪み、頬はこけ、疲れているのだろう、口を不機嫌そうに歪めていた。
アディの顔を見ても、デスチーノは大喜びで笑うこともなければ、抱き締めることもなく…
「・・・・・・」
沈黙したまま、大きな掌で、アディの頭をぽんっ… ぽんっ… としただけだった。
それにいつもの颯爽とした歩き方ではなく、重そうにドスンッ… ドスンッ… と歩くのだ。
「申… 申し訳ありません、アデレッソス様! 旦那様の進路を、ふさがないようにお願いします…っ!!」
有能な従者カディラは、アディに奇妙な指示を出す。
「は?! 何?! 進路…?!」
思わずアディが聞き返すと…
「ただいま、旦那様は真っ直ぐにしか歩けませんので!」
「真っ直ぐ?! えええええ―――っ?! 何で?!」
理由を聞き、増々アディは混乱した。
「目は開いておりますが、眠っているのとあまり変わらない状…態… ああ、危ない旦那様! 階段の柱にぶつかるっ…!!」
慌ててカディラは、デスチーノの隣りへ行き、腕を引っ張り階段へと誘導する。
アディもカディラとは反対側に行き、デスチーノの肘を掴んだ。
何とか2人で階段にデスチーノを誘導できたが、階段の一段目をガツガツと蹴とばしては、長い足が引っ掛かり…
「旦那様!! 階段です!! 階段ですよ―――っ?!! もっと足を上げなければ、階段を上れませんよおぉ―――っ!!!」
カディラがデスティーノに大声で叫んだ。
「ああ、僕が上に立って手を引いてみるよ!!」
重い腕を掴んで、アディは階段の上に立ち、デスチーノを引っ張った。
「では、私は背中を押してみます!!」
カディラはデスチーノの後ろに立ち、押し始めると… デスチーノはよろよろと階段を上り始めた。
<ううわあぁぁぁぁぁ―――っ… 大変!!!!>
アディはふうっ… ふうっ… と言いながら汗をかき、デスチーノの重い腕を持ち上げて引っ張り続けた。
<ああ、デスチーノったら… こんなに重い腕を2本もぶら下げているんだぁ~?! これは大変!>
「アデレッソス様、頑張って下さい!!」
「カディラもねぇ―――っ!!」
ふうっ… ふうっ… ふうっ… ふうっ…
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