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77話 1年後
しおりを挟むアディはデスチーノの妻となって、1年が過ぎようとしていた。
「う゛~っ! やることが多すぎるよぉ… 目が回りそう!」
社交シーズンに入り、アディは、目尻を下げて困り顔でトルセールに弱音をはくと…
「大丈夫よ! 私が何とかするから… あなたはもっとのんびりすると良いわ」
頼りになるトルセールは、機嫌良くニコニコと笑いアディの腕をトンッ… トンッ… とたたいてなだめる。
トルセールのこういう仕草が、兄妹というだけあり、デスチーノと良く似ていると… 最近のアディは、特にそう感じるようになり、フッ… と心がなごむのだ。
「頼ってばかりで、ごめんなさい… トルセールがいなかったら、今頃僕は途方に暮れていたよ」
「あら、私は少しもかまわないのよ? むしろアディが私に任せてくれるから、嬉しいぐらいだもの ふふふっ…」
元々、華やかな社交行事が大好きなトルセールとは違い、まだまだ苦手意識が大きいアディは…
二人でジェレンチ公爵家の晩餐会、舞踏会、お茶会と… 社交シーズンの予定を話し合ううちに、アディは少しずつ自信を失くしてしまったのだ。
「あなたが頼りになる人で、僕は本当に幸せ者だよ~」
「私から言わせれば、アディの方がよほど、頼りになるわ!」
「ええ、どこが?」
「勿論、あの頑固な兄の心を蕩かしたところよ! その上、好き勝手やらせてるところとか、私はあなたを尊敬しているのよ?」
「ええ…? でも、先に蕩けたのは僕の方だけど?」
首を傾げるアディの、大きなお腹を撫でながら、トルセールは微笑んだ。
1年前…
アディが無事にジェレンチ公爵夫人として社交デビューを成功させ、元婚約者ヴィードロとの醜聞も影をひそめ、社交シーズンが無事に終わると…
デスチーノは第一騎士団の団長職を退き、コンプラ―ル男爵に誘拐され、他国に売られた被害者たちを保護するために動き出した。
「手紙のやり取りはいっぱいしているけれど… 彼がこのお腹を見たら、きっとビックリするだろうね~?」
「ねぇアディ? やっぱり妊娠していることを、お兄様に伝えた方が良いのではないの?」
「外国にいる彼に、心配させたくないしねぇ~… 少しでも早く帰って来られるように、今はお仕事を頑張って欲しいからさぁ… それに僕には頼りになる、先輩ママのトルセールがいるから大丈夫だよ!」
<デスチーノとは、もう8か月と24日も会っていないから… 早く無事に帰って来て欲しいなぁ… >
お腹を撫でるトルセールと共に、アディもニコニコと笑った。
<デスチーノのことが本当はすごく心配だけど、心配し過ぎるとお腹の子に悪い影響が出るから… あまり心配しないようにと、医師に注意されているし… なるべく考えないようにしているんだよね?>
心の中でアディは、デスチーノの子に話しかけた。
<お父様はとても立派で強い人だから、信じて待ってあげようねぇ… 赤ちゃん~>
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