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14話 当主の印象

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 父ペスカドから仕事と一緒に引き継いだ、執事用の私室に入ると… アスカルはカチリッ…と扉に鍵をかけた。

 4年前、先代伯爵リコルがアスカルの部屋に来て、乱暴しようとした時のことを教訓にし、自室に戻ったら、必ず鍵をかけるようにしているのだ。

「・・・・・」
<旦那様はとても誠実な方のようだから… たぶん… 先代伯爵のような卑劣ひれつな行為はしないだろうなぁ…>

 自分のあるじとなったグランデのことを思い出し、アスカルは微笑み、ホッ… とため息をつく。



 厩舎きゅうしゃから伯爵の執務室へ真っすぐ行き、アスカルは主グランデに求められるまま、当主が不在だった4年間に丁寧につけ続けた帳簿類をすべて出して見せた。


『おい! アスカル、もっと使用人を雇え! お前は働き過ぎだ… そもそも、ここまで人数を減らした理由は何だ?』

『先代伯爵様は、娯楽の少ない田舎がお嫌いでしたから… 時々、お客様を連れて戻って来られる以外は、ほとんど王都の伯爵邸にいらしたので… 無駄をはぶかれたのです』
 
『無駄だと?! 領地と伯爵邸の財務管理、使用人たちの監督… そこまでは理解できる… だが、上級使用人の執事に下働きの仕事をさせる伯爵家など、聞いたことがないぞ?!』 

『それは…』

『まったく… クズ野郎が!! どうしようもない奴だ!! 貴族育ちではない、オレにだってそれが変だとわかるのに』



<本当に… “先祖の肖像の間”に飾られた、歴代の当主様たちとよく似た、精悍せいかんな容姿の旦那様に言われると、ドキリッとしてしまったなぁ…>

 グランデが持つ鮮やかな深紅の瞳が、レガロ伯爵家代々の当主たちと共通しているのだ。

「旦那様の言葉使いは少しも貴族らしくないのに… ほこり高いお心は、歴代の伯爵様たちのように、とても高貴な血筋の方らしいし… ふふふっ…」

 それに比べると… 年齢の差があるからか、先代リコルとグランデは、人に与える印象がまるっきり違って見え、とても親子には見えないのだ。

 アスカルは腕組みをして考え込む。

「顔のつくりは似ているけれど… 先代はもっと、全体的に色が薄かったような? んんん~…?! 旦那様のように鮮やかで美しい深紅の瞳と漆黒の髪ではなかった気がする…」

 4年前に先代伯爵に襲われた夜が、アスカルにとって最初で最後の実父との対面で…
 その記憶では、先代リコルは怠惰たいだな生活と飲酒で、頬はたるみ、顎や腹に贅肉ぜいにくがつき、瞳はぼんやりと曇っていたような印象だ。

 瞳が何色だったかさえ、アスカルは覚えていない。


「確か先代が子供の頃の、ご家族そろっての絵がどこかにあると、父さんに聞いたことがある… 一度、探して見てみようかな?」


 ふあぁぁ~… と… アスカルは何度も大あくびをすると、執事の服を脱ぎ、今日1日分のほこりをブラシで服から落とし、手入れを終える。

 ろうそくの火を吹き消して、ベッドに潜り込む。


「もう… 考えるのは、明日にしよう」







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