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53話 娼婦の子
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藤色の瞳から涙がひき、アスカルが動揺から立ち直ると… グランデは静かに話し始めた。
「オレの母親は娼婦だ… もちろん、好きで自分から娼婦になった訳ではないが…」
「…はい」
<何となく予想していた… あの酔っ払い男ボラーチョが、昨夜グランデ様を、“娼婦の息子” と呼んだ時から…>
アスカルの心を見透かそうと、グランデに深紅の瞳で、ジッ… と見つめられたが… ボラーチョのように、アスカルが目をそらすことは無かった。
文字通り、グランデはアスカルの瞳に、自分の母親を娼婦だからと蔑む、不快な影が無いかを探っていたからだ。
<きっとグランデ様は、子供の頃からずっと… “娼婦の息子” と蔑まれ… 騎士になってからも、陰口をたたかれて、すごく… すごく… 苦労し続けてきたんだね…?>
心無い人々からの無慈悲な言葉に、母と息子はどれだけ傷つけられたのかと、ほんの少し想像しただけで… アスカルは切なくなり、淡い藤色の瞳に再びジワリと涙がにじんだ。
そんなアスカルの心が、瞳から透けて見えたらしく、グランデの眉尻が困ったように下がる。
瞳からこぼれたアスカルの涙を、カサついた親指でぬぐうと… グランデはホッ… と微笑み、細い身体をギュッ… と抱きしめ目をふせた。
「オレの母親は元々貴族の娘で、親父の婚約者だったが… 結婚を目の前にして親父に死なれてしまった… 他家に嫁ぐにも、母はオレを身籠っていたから…」
「ああ… なんて…っ…」
<グランデ様のお母さまは、なんて運が悪いのだろう?! 本来なら幸せの絶頂期にいる頃に、地獄へ突き落とされてしまったなんて…!>
聞いているだけで、胸がつぶれそうになり、アスカルはまた涙をぬぐった。
「一人娘だった母親の結婚が無くなり、当てにしていたレガロ伯爵家からの援助の話も一緒に無くなり… 母の実家は事業の失敗で背負った、多額の借金が返せなくなった」
よくある貴族の没落劇である。
「借金の代わりに母親はオレを産むと、オレごと娼館へ売られ、祖父は借金返済の契約を破った罪で監獄へ送られ、そのまま獄死したそうだ… 祖母は自殺だったらしい」
そうして、娼婦になったグランデの母は、誰の助けも得られなかったのだ。
「…グランデ様の父方のレガロ伯爵様は?! 結婚前とはいえ、自分の孫を身籠ったお母さまを、保護されようとはしなかったのですか?」
「オレの親父の葬儀中に倒れ… そのまま病死したから、母が妊娠に気づいた時は、何もかも遅かったのさ」
父方の祖母は、その2年ほど前に、流行病で亡くなっている。
「そんなに続けて不幸が?! なんて不運なんだろう…」
「いや、アスカル… これは不運ではなくて、故意に祖父とオレの父親は殺されたのさ」
「え?!」
険しい顔で、肖像画のリコルをにらむグランデ。
「オレの母親は娼婦だ… もちろん、好きで自分から娼婦になった訳ではないが…」
「…はい」
<何となく予想していた… あの酔っ払い男ボラーチョが、昨夜グランデ様を、“娼婦の息子” と呼んだ時から…>
アスカルの心を見透かそうと、グランデに深紅の瞳で、ジッ… と見つめられたが… ボラーチョのように、アスカルが目をそらすことは無かった。
文字通り、グランデはアスカルの瞳に、自分の母親を娼婦だからと蔑む、不快な影が無いかを探っていたからだ。
<きっとグランデ様は、子供の頃からずっと… “娼婦の息子” と蔑まれ… 騎士になってからも、陰口をたたかれて、すごく… すごく… 苦労し続けてきたんだね…?>
心無い人々からの無慈悲な言葉に、母と息子はどれだけ傷つけられたのかと、ほんの少し想像しただけで… アスカルは切なくなり、淡い藤色の瞳に再びジワリと涙がにじんだ。
そんなアスカルの心が、瞳から透けて見えたらしく、グランデの眉尻が困ったように下がる。
瞳からこぼれたアスカルの涙を、カサついた親指でぬぐうと… グランデはホッ… と微笑み、細い身体をギュッ… と抱きしめ目をふせた。
「オレの母親は元々貴族の娘で、親父の婚約者だったが… 結婚を目の前にして親父に死なれてしまった… 他家に嫁ぐにも、母はオレを身籠っていたから…」
「ああ… なんて…っ…」
<グランデ様のお母さまは、なんて運が悪いのだろう?! 本来なら幸せの絶頂期にいる頃に、地獄へ突き落とされてしまったなんて…!>
聞いているだけで、胸がつぶれそうになり、アスカルはまた涙をぬぐった。
「一人娘だった母親の結婚が無くなり、当てにしていたレガロ伯爵家からの援助の話も一緒に無くなり… 母の実家は事業の失敗で背負った、多額の借金が返せなくなった」
よくある貴族の没落劇である。
「借金の代わりに母親はオレを産むと、オレごと娼館へ売られ、祖父は借金返済の契約を破った罪で監獄へ送られ、そのまま獄死したそうだ… 祖母は自殺だったらしい」
そうして、娼婦になったグランデの母は、誰の助けも得られなかったのだ。
「…グランデ様の父方のレガロ伯爵様は?! 結婚前とはいえ、自分の孫を身籠ったお母さまを、保護されようとはしなかったのですか?」
「オレの親父の葬儀中に倒れ… そのまま病死したから、母が妊娠に気づいた時は、何もかも遅かったのさ」
父方の祖母は、その2年ほど前に、流行病で亡くなっている。
「そんなに続けて不幸が?! なんて不運なんだろう…」
「いや、アスカル… これは不運ではなくて、故意に祖父とオレの父親は殺されたのさ」
「え?!」
険しい顔で、肖像画のリコルをにらむグランデ。
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