辺境に捨てられた花の公爵令息

金剛@キット

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54話 シルトの私室

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 シルトの私室に入ると、リヒトは興味津々で部屋の中を見回した。

 辺境伯の部屋にしては、装飾などの類はほとんど無くとても質素で… 並べてある家具も、貴族の持ち物と言うには、素朴過ぎるぐらい実用的なものばかりだった。


<ふふふっ… シルト様の匂いがする、何だか居心地が良いお部屋だなぁ>

 ニコニコと微笑むリヒトの頬に、キスを落としシルトは眉尻を下げて困った顔をした。

「少しせまいが、我慢してくれ… もう少し広い部屋に移れるよう、明日手配するから」
 次男のシルトが少年時代から、使っている部屋で… 当主である辺境伯が使う部屋は、現在は母のフォーゲルが使っていた。

 先代当主が亡くなり悲しみに沈む母から、父との思い出が詰まる部屋を、取り上げることなど出来ず…
 何よりシルト自身が、使い慣れた自分の部屋を出るのが面倒だったという、ずぼらな理由もあった。


「シルト様らしい良いお部屋で、私はとても好きです、旅の途中で泊まった宿屋や船室よりも、ずっと広いですし」
 腰を引き寄せられ、リヒトは分厚いシルトの胸に手を置き… 間近から美丈夫の顔を見上げた。

「そうか…?」
 キスがリヒトの小さな唇に、1つ落ちる。

「それよりも… 私が一緒ではシルト様のお立場が悪くなるのでは? お部屋の広さよりも、そちらの方が問題だと思います」
 生真面目なリヒトの、お小言が始まった。

「…妻同然の恋人が一緒の部屋で、何が悪いんだ?」
 少しだけ、シルトがすねた。

「でも… 重臣の皆様はナーデル様との結婚を望んでいると…」
 跡継ぎ問題についてフォーゲルに聞いた話が、リヒトに重く伸し掛かり… 赤金色の瞳が不安そうに揺れ、シルトから視線を外した。

「私はナーデルが嫌いだ! あれの腹に自分の種をまくことなど、考えられない!」

「でも…」
 玄関ホールで抱き合う2人は、まるで恋人同士に見えたのに…
 晩餐の席でシルトがナーデルと睨み合う姿を、何度も見ていたリヒトは、戸惑っていた。

「お前は王太子に抱かれ、王太子の子をはらんだとしたら… その子を心から愛せるか?」

「私は性奴隷ですから… 子供は…」

「質問から逃げるな!」
 シルトはじろりと、リヒトを睨んだ。

「ううっ… 出来ません!」
 王太子とギフトが淫らに抱き合っている姿を目撃して以来、リヒトは質問と同じ内容の悩みを持ち、苦しんだ経験はそんなに昔のことではない。
 奴隷でなければ、リヒトも即答していた。

「まぁお前には知る権利があるからな…」
 心底、嫌そうな顔でシルトは、大まかにナーデルとの昔話を、リヒトに語った。


「跡継ぎを産むことだけが、妻の仕事ではありませんから… 有事の際は夫に代わり、家と領民を守ることも大事ですし、そこまで信頼関係が壊れていては、シルト様の言う通り、ナーデル様を妻には出来ませんね!」
 怒りをふくんだ険しい表情で、リヒトはムッ… と、眉間にシワを寄せた。

 まだまだ未熟なリヒト自身、あまり自覚は無かったが…
 昔、シルトが愛した恋人だったと聞き、ふき出したナーデルへの嫉妬心が大きく作用し、リヒトの怒りを激しくしていた。

「今は私に飼い殺しにされ、自分の立場をどうにかしようと、躍起やっきになっているが… 近いうちにカルト伯爵と話し合い、ナーデルを実家に戻すことにする」

 リヒトにこれ以上は説教されないと分かり、シルトは、ホッ… と、頬をゆるめた。

 すでにリヒトの尻に、敷かれ始めているシルトである。


「出過ぎたことを言ってしまい、申し訳ありませんでした… あっ?! シルト様…っ!!」

 申し訳なさそうに謝るリヒトを抱き上げ、シルトはベッドへ転がすと…
 フォーゲルが選んで着せた、リヒトの凛とした美しさを際立たせた服を手早く脱がせた。

「悪いなリヒト、宿屋からずっと我慢して来たから限界なんだ!」
 転がされた時に乱れ、リヒトの目の上に被さった孔雀色の髪を… 太い指でシルトはそっと払いのけると、リヒトの唇を奪った。

「待って下さい! 明日は祭祀が…っ」
 話の途中でリヒトは、唇を塞がれてしまう。 

 シルトの舌に口内を柔らかく撫でられ…
 カッ… と、熱くなったリヒトは、夢中でシルトの愛撫に応えることしか出来なくなった。


「明日の為に、手加減はする」
 唇を離し、シルトは腕に嵌めた抑制リングを、調整し始め… フワリとシルトから、アルファのフェロモンが立ち上る。



「・・・・・・」

 欲望で濡れた瞳でリヒトは、無雑作に服を脱ぎ捨てるシルトを…

 
 心奪われるように、うっとりと見上げた。









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