辺境に捨てられた花の公爵令息

金剛@キット

文字の大きさ
73 / 178

71話 弟

しおりを挟む

 仮の私室がある上階から、城主館の玄関ホールへ降りると、そこには仕立てたばかりの真新しいプファオ騎士団の騎士服を着た、弟ヴァルムと副騎士団長のタイヒが…
 リヒトたちをソワソワと落ち着きなく玄関ホール中を歩き回りながら待っていた。

「…兄上!!」
 兄リヒトの姿を見つけると、人懐こい子犬のように、ヴァルムはパタパタと足音を立てて走り寄った。

 プファオ公爵家の特徴である、孔雀色の艶やかな髪を項で一本に縛り、赤金色の瞳を涙でうるうるとさせている。

「ヴァルム… 少し見ない間に、立派になったね!」
 シルトよりは2回りほど小さいが、オメガのリヒトよりは、ずっと大柄なアルファの弟をギュッと抱きしめた。

「兄上こそ… とても… とても…っ! うっ… うううっ…」
 涙ぐみながらヴァルムも、大きな身体で細身のリヒトを、ギュウギュウと抱きしめる

「泣いてはダメだよヴァルム、今のお前は、見習いでも騎士服を着ているのだから… 人前で泣いたりしたら、お前に守られる人たちが、プファオ騎士団の騎士は大丈夫なのかと、不安になるだろう?」

 グスグスと泣く弟の、大きな背中をトントンと叩き、リヒトは穏やかにいさめた。

「そ… それは… 魔獣退治…の場で…大丈夫だと… 証明する…つもりですから…!」

「そう思うなら、一緒に戦う騎士たちに笑われないよう、泣き止みなさい!」
 言い訳をする弟に、リヒトも笑いながら涙を流し、叱咤しったする。

「もう、分かりましたよ! 兄上は本当に厳しいですね? 段々父上そっくりになって来ましたよ?」
 ようやく抱き締めるのを止め、ヴァルムは目を真っ赤にして、リヒトを見下ろした。

「父上は元気? 母上は?」
 弟を見上げながら、リヒトがたずねると…
 
「えっ?! 父上と兄上は、3日に1度は幻鳥を使って、連絡を取り合っているでしょう? 私よりも知っていると思っていた!」
 ヴァルムは驚いた顔をする。

 国王の信頼厚い公爵は、国政に深く関わっているせいで、公爵邸には帰らず王宮に何日も泊まり、仕事をすることは珍しくなかった。

 一ヶ月、父の顔を見なかった… ということも普通にあり、兄弟たちは過去に何度も、その手の経験をしている。

 そんな公爵も長男リヒトの断罪劇で、失脚するかに見えたが、国王不在が続き政府機関はどこも忙しく…
 結局、有能で忠義者のプファオ公爵は、失脚する暇も無く毎日忙しく働いていた。


「父上は私とではなく、シルト様とやり取りをしているから…」
 困った顔でリヒトは、側に立っているシルトに視線を移した。

「そうなのですか? 父がいつも連絡用の幻鳥が届く度に、兄上の状況を逐一ちくいち教えてくれるから… 兄上も私たちの状況を、知っているのかと思っていました」

 戸惑いながらヴァルムも、兄からシルトへと視線を移した。




「公爵の伝文はいつも簡潔だからな…」


 体格が違うが、同じ色を持つよく似た兄弟の視線を受けて、シルトは微笑みながら、口をはさんだ。
 






しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

処理中です...