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133話 王立騎士団の苦境
しおりを挟むヴァッサーファルが大神殿の支援者から、プファオ騎士団の騎士たちが、王立騎士団本部の地下牢に収監されていることを聞き出し…
シルトたちはその情報を元に、夜になってから暗闇にまぎれ、王立騎士団本部に訪れる。
敷地の裏で馬を降り、シルトはタイヒと視線を合せた。
側近たちとヴァルムは、少し離れた場所で待たせてある。
「ここで待ちましょう! 王立騎士団に入団したばかりの頃、組んでいた騎士ですが、信用の出来る人ですから… 今は団長の執務を補佐していて、王宮の内情にも詳しいはずです」
タイヒの友人が来るのを静かに待つと…
しばらくしてマントを被った老騎士が現れ、タイヒが1人では無いと分かると警戒するように話し始めた。
「こちらも困っているのだタイヒ、副団長が捕縛されて、プファオ騎士団と共に、収監されているのだが…」
タイヒの友人は怒りを隠せない様子だ。
「何故、副団長が捕縛されなければならないのだ?!」
思わず隣で聞いていたシルトは口を挟んだ。
「アンタは誰だ?」
タイヒの友人は訝しげにたずね…
「シュナイエン辺境伯のシルト殿だ!」
すぐにタイヒが紹介すると…
「これは、失礼しました! 無礼をお許しください! 我々、王立騎士団もプファオ騎士団のように、北方で魔獣退治の経験を積んでいれば、このような苦境には立たずに済んだものを!! 本当に悔しい限りです!!」
老騎士は自分の胸に手を当て、シルトに礼儀正しくお辞儀をした。
「同じ騎士として、最前線で魔獣と戦う騎士たちに、心から同情している! この厳しい状況を何とかしたくて、私たちはここに来たのだ!」
自分よりも頭1つ分、小柄な老騎士の肩に手を置き、シルトは騎士の心に寄り添った。
「今の状況を話してくれ、もしかすると、力になれるかもしれない」
タイヒも話に加わり、友人を説得する。
「魔獣との戦いに慣れているプファオ騎士団の騎士を中心に、王立騎士団の騎士が組んで戦うことで、辛うじて食い止めることが出来ていたというのに、突然王宮から王太子の命令でプファオ騎士団を連れて行かれて…」
「王太子の命令か… リーラ公爵が王太子を完全に取り込んだ証拠だな」
シルトがつぶやくと、老騎士もうなずいた。
「主力の騎士たちを失い、残った我々王立騎士団だけでは対応できないと、少し前に戦場から戻り、副団長が王宮へ行き抗議したら、捕縛されたのだ!!」
老騎士は悔し涙を浮かべ、夢中で話し続けた。
魔窟の森の前で戦う仲間たちから、既に半数以上の騎士が、命を落としたという報告が、王立騎士団本部に幻鳥で届いているという。
残りの半分もケガを負っても、治療師の数が少なすぎて、治療が間に合わない状態だと…
「魔窟の森からの瘴気の影響で、治癒魔法が掛かりにくいのではないか?」
少し前のシュネー城塞がそうだった。
「その通りです、シルト殿! 今は魔窟の森の瘴気が少しだけ薄れ、魔獣の襲撃が止んでいますが、いつまた再開するか…」
リヒトの祭祀の影響が出ているのだと、タイヒとシルトは顔を見合わせた。
「今のうちに騎士を全員、引かないと全滅するぞ!」
「ですがシルト殿、王立騎士団まで引けば、王都が丸裸になります」
老騎士は流石に反論するが…
「このままでは、濃い瘴気に曝された騎士たちは、魔獣化してしまう! 全滅よりも恐ろしいことになる! 王都を守るどころか、魔獣化した騎士たちが、王都の民を襲撃するだろう」
「…まさか、そんな!!」
シルトの話を聞くうちに、老騎士の怒りで赤かった顔が、恐怖で青ざめ強張って行く。
「魔窟の森に入った人間がどうなるか、知っているだろう? その魔窟の森がすごい勢いで、拡大しているのだから、のんびりしている暇は無いぞ!」
当の王立騎士団の騎士でさえ、この調子である。
シルトは焦燥感を感じていた。
「・・・・・・」
老騎士はようやく、魔獣を退治すれば良いだけの状況ではないと悟った。
「シルト殿、王立騎士団の団長はプファオ公爵と懇意にしていたはずです、もしかすると説得が、出来るかも知れません」
タイヒの提案にシルトはうなずいた。
「ならば、副団長もプファオ騎士団と一緒に、牢獄から出して説得を手伝ってもらおう… これで信じなければ、王立騎士団の全滅は回避できないしな!」
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